感覚値だが、回数で99%はEVドライブになる

文:三浦和也

"e-tron"というのはAudiが同社の電動化パワートレーンに与えたブランドである。例えばル・マンで2012年から3年連続優勝を飾ったのは「Audi R18 e-tron quattro」であり、前輪に2機のモーター、フライホイール・バッテリー、そしてディーゼルエンジンからなるハイブリッド(HV)である。

今日の試乗車Audi A3 Sportsback e-tronは8.7kWhのリチウムイオンバッテリーと150PSの1.4Lのダウンサイジングターボエンジン、そして109PSを発生するモーターが組み合わされたプラグインハイブリッド車(PHEV)である。

PHEVはEVとHVを1台にしたクルマであり、しかも、モーター、バッテリー、コントローラーは共通である。別の言い方をするならば、HVのバッテリーを大型にしたうえで家庭用コンセントから充電できる給電ソケットを追加したモデルともいえる。EV視点で言えば、52.8kmの航続距離のEVに発電用のエンジンをつけて航続距離の不安を無くしたものと言い換えることもできるだろう。

日本製HVが市民権を得る日本市場に対して、欧州や中国ではメーカーや消費者に対する優遇政策を背景に次第にPHEVのマーケットが育ちつつある。

なぜPHEVが環境対策として普及を後押しされるのか。そこにはEVの普及を理想としつつも、バッテリー性能とインフラ整備の問題がすぐには解決されないだろうという現実を見据えた、今すぐにできる解決方法だからである。

PHEVならば、エンジンパワートレーンを従来車と共通とすることで量産効果を出しつつ、高価で重くて場所をとるリチウムイオンバッテリーの搭載量を抑えることができる。戸建てにもマンションにも駐車場には電源が来ているため、自動車用プラグを設置する工事だけでインフラ問題は解決される。外出時の電気チャージは基本必要なく、ガソリンを給油することで航続距離の心配はいらない。

しかし、効果は絶大である。実は筆者は3年半ほど前からEV航続距離26.4kmの国産PHEVに乗っており、奇しくもAudi A3 Sportsback e-tronのジャスト半分のEV航続距離しかないのだが、我が家の日常生活のほとんどは往復20km未満のドライブでおさまってしまう。感覚値でいえばドライブ回数の9割がEVドライブである。数少ない長距離ドライブではHVモードで距離を稼ぐため、3年半&2万9730kmでの距離比率は48:52でHVが若干多くなっている。もし我が家がEV航続距離52.8kmのAudi A3 Sportsback e-tronに乗り換えたならば、あくまで感覚値だが回数で99%、走行比で8割はEVモードになるだろう。

ここで重要なのは、EV走行は主に住宅地や都市部で行われ、HV走行のメインは郊外や高速道路であるということだ。都市部の排気ガスの問題、騒音の問題を一気に解決する切り札として、PHEVが欧州や中国で行政の注目を浴びる理由はここにある。

では、オーナーにとってのメリットはどこか。ここで私は声を大にして言いたい。電気代は安い。私の場合、クルマへの充電のための電気代は1000円~1500円程度。ガソリン代は長距離ドライブをしたかどうかで変わるが、今年は5月2日から10月24日まで無給油だった。Audi A3 Sportsback e-tronは長いEV航続距離ゆえ、もっとガソリンスタンドに行く回数は減りそうだ。このポイントは女性にウケが良い。男性以上に女性はセルフガソリンスタンドが苦手なのだ。

もうひとつメリットとして重要なのは、短距離ドライブの楽しさである。プリウスPHVにはECOモード、ノーマルモード、パワーモードの3種類もある。あらかじめEV航続距離内のドライブであることがわかっている場合は、私は迷わずパワーモードを選ぶ。アクセルレスポンスの良さが快感である。エンジン車の場合、水温が上がるまでの始動時のグズグズ感や燃費の悪さゆえ、できるだけ短距離ドライブは避けたいと思ってしまうのとは正反対。Audi A3 Sportsback e-tronに乗ってみると、アクセルに対してクイックな反応はプリウスのパワーモード以上、しかも広い道路でそのままアクセルを踏み込んでも強いトルクのまま加速する。これがいちばん羨ましい。カタログによるとAudi A3 Sportsback e-tronのEVモードは5秒足らずで時速60kmまで達してしまうそうだ。プリウスはパワーを欲しがるとすぐにエンジンがかかってしまうので、EVモードでクイックな加速を楽しむ美味しい部分はとても狭いのだ。

8.7kWhのリチウムイオンバッテリー電池をすべてを昼間の電気代で充電しても225円程度しかかからない。片道20km以内は片道100円以下と考えても良いだろう。Audi A3 Sportsback e-tronでEV走行中、シフトゲートを手前に引くとスポーツモードに入る。ここで変わるのはアクセルオフ時の減速力だ。回生ブレーキが強く効き減速する。BMWがi3でワンペダルドライブと称しているが、スポーツモードはそれに近い。よりメリハリが効いたドライブを楽しむことができる。

EVモードがメインのAudi A3 Sportsback e-tronゆえ、EVモードについてより多くを語りたいのだがHVモードについても触れておかねならない。このクルマのHVモードはプリウスPHVのHVモードとは明らかにつくり手の考え方が違う。ご存知プリウスPHVのHVモードはHVのプリウスそのものだ。世界最高の燃費が出るようにシステムが研ぎ澄まされている。ドライバーのアクセルペダルからの加減速の司令を、必ずエネルギー効率最大という解に導かれるように変数を加えつつモーター、エンジンが制御されているのだ。一方、Audi A3 Sportsback e-tronに乗った私はムムムと唸り、プラグインハイブリッドというシステムの奥深さにため息をついた。

まず、エンジンはタイヤや風切音などの走行音の影でひっそりとかかる。太田哲也さんのような運転の五感の持ち主は、「あっエンジンがかかった」とわかるそうだが、私なんかでは気がつかないレベルに抑えられている。エンジンがかかる時もそうだが、信号での停止など減速時も、走行音の影でいつのまにかエンジンは停止している。HVモード走行中の主役はエンジンなので、継ぎ目なくするりとモーターと立場が入れ替わるのである。

HVモードでは、主役のエンジンに対してモーターは従だと感じた。しかし、この従が絶妙に効いている。特筆すべきはアクセルレスポンスである。EVモード時のクイックレスポンスがこのクルマの真骨頂だと記したが、HVモード時もアクセルワークに対するクイックレスポンスは連続している。アクセルワークに対してすぐにモーターが反応してトルクが立ち上がり、遅れてトルクが立ち上がるターボエンジンに引き継いでもらうようなイメージか。Audiのエンジニアは、EVモードの延長としてかくあるべしのパワー特性を思い描いたあとに、環境性能追及型のダウンサイジングターボエンジンと理想との差分を、トルク制御が緻密なモーターパワーによって書き加えたのだ。モーター出力はメーターによってモニターできるがピクピクと微妙に制御されている姿が、水面下の白鳥の足を感じさせてくれる。

おそらくHVモードでの効率の追求はプライオリティを下げたのではないだろうか。 しかし、PHEVの場合、走行の大半がEVモードとなるし、HVモードでも高速の定速走行時はダウンサイジングターボエンジンのポテンシャルが発揮されるはずだ。一方で、コンパクトサイズのAudi A3 Sportsback e-tronにとってモーター駆動によるクイックでグイと前に出るトルク感と静粛で振動がない室内はとても魅力的なチャームポイントだ。プレミアムコンパクトのひとつの理想形として、今後多くのメーカーの目標とされる存在になったのではないだろうか。
太田哲也
三浦和也
【太田哲也×三浦和也 特別対談】 Audi A3 Sportsback e-tronと
Audi RS 3 Sportsback
内に秘める喜び
The new Audi A3 Sportback e-tron debut