【太田哲也×三浦和也 特別対談】
Audi A3 Sportsback e-tronとAudi RS 3 Sportsback、内に秘める喜び

プレミアムブランド、Audiから2台のコンパクトカーがリリースされた。プラグインハイブリッド(PHEV)のAudi A3 Sportsback e-tronと、最強ホットハッチのAudi RS 3 Sportsbackだ。どちらも、Audi A3ファミリーの一員であるCセグメントカーでありながら、ベースモデルとは一線を画す心臓が与えられている。Audiが世に問う2つの”スペシャル”とは――。
その解を探るべく、プロドライバー・太田哲也氏とレスポンス編集長・三浦和也が2台を駆り、色づく信濃、車山高原を愛でる200kmの旅に出た。

太田氏、三浦、レスポンス取材班は、都心から中央道諏訪インターチェンジまでの180kmの高速巡航、諏訪ICから車山高原までのビーナスライン(30km)で、2台の実力を試した。
  • 太田哲也プロドライバー
    太田哲也
  • 三浦和也レスポンス編集長
    三浦和也

EVとHVが切り替わってもキャラクターまで変わらないのがAudi A3 Sportsback e-tronのこだわり

まずはAudi初のPHEVモデル、Audi A3 Sportsback e-tronから。走り方は、EVのドライブモードとスポーツモード、HVのドライブモードとスポーツモード、この4つから選べる。
電気駆動0-100km/h加速が 7.6秒というこのクルマで、市街地、高速道路、山道と走らせたあと、太田・三浦の両氏はともに「クイックで気持ちいい」と感想をもらした。
三浦:
電気モーターの使い方が、すごくクレバーだと感じましたね。アクセルをすっと踏み込むと、まだエンジン回転数は変化しないうちから、モーターの出力が先にグッと出てくる。エンジン出力が追いつくとモーターからエンジンに継ぎ目なくトルクを引き渡す。
太田:
想像を越えて元気があるクルマだなと感じたね。たとえドライブモードでも、モータートルクの立ち上がりがすごく速いから機敏に走る。だからEVモードで街中を走ると、その力強い初速を何度も体感できて、運転していておもしろい。
三浦:
EVのスポーツモードで走ると、回生ブレーキの効きが強くなりますよね。アクセルをオフにするだけでしっかり減速する。ブレーキいらずの”ワンペダルドライブ”ですね。いっぽうの、ドライブモードはアクセルを離してもほとんど減速しない。コースティング状態となって、慣性でクルマが動いていく。ここで燃費を稼いでいるわけです。
太田:
たしかに回生ブレーキの利き方が違うね。僕はビーナスラインの登り坂で、あまりのクイックさについついアクセルを踏んじゃって、バッテリ使い果たしちゃった(笑)。途中でエンジンが始動したけど、HV走行に移ってもクイックなEV走行時のキャラクターが変わらない。スポーツモードでなくても十分にスポーツを楽しむことができる。HVモードは、機構上エンジンがメインでモーターは補助という構成だけど、乗った印象はクイックレスポンスなモーター駆動にエンジンのゲタを履かせた感じだよね。EVのドライブモードとスポーツモード、HVのドライブモードとスポーツモードと4モードあるけど、クルマの性格はドライブとスポーツの2モード。EVとHVが切り替わってもキャラクターまで変わらないのがAudi A3 Sportsback e-tronのこだわりであり、技術力なんじゃないかな。
三浦:
確かに、アクセルレスポンスの良さはモーターが引き受けていますね。出力のコントロールが絶妙ですよね。EVモードとHVモードの切り替わる瞬間もわからない。エンジンがブルブルってかかりだすような仕草を微塵も感じさせない。このあたりの作りこみは流石ですよね。それに風切音やロードノイズに隠れて、エンジン音が聞こえないし、振動も伝わらない。走行音が少ない低速ではエンジンはきちんとOFFになるのでインジケーターを確認しないとEVモードからHVモードに変わったと気がつきませんでした。太田さんわかりましたか?
太田:
さすがにボクはわかったよ(笑)。でも、小さいサイズだけど室内の静粛性は高いし、振動もよく抑えられている。小さくても満足度が高いクルマに乗りたい人にはいいと思う。

アンチ派手プレミアムの最右翼

駆動用の電気モーターとガソリン直噴ターボの1.4リットルTFSIエンジンが組み合わさる。無音のEV走行、その航続距離は52.8km。ハンドルを握れば圧倒的な質感を持ったプレミアムだとわかるAudi A3 Sportsback e-tronだが、あえて確信犯で地味を狙っていると同意する両氏。
三浦:
プレミアムカーというと、大きかったり、豪華だったり、押し出しが強いデザインだったり、わかりやすいインパクトが求められるジャンルじゃないかと思いますが、アウディA3シリーズは違いますね。小さくて、シンプルで、地味(笑)なデザイン。でも、乗ると「プレミアム」がじわじわ来る。
太田:
Audi RS 3 Sportsbackもそうだけど、Audi A3ラインナップは確信犯だね。派手に振る舞うことは趣味じゃないけれど、質が高いモノに対して対価を払うことができる人。そういう人がターゲットだ。
三浦:
Audi A1は小さくてもアイコン的な派手さがあるけど、Audi A3は徹底的にシンプルですからね。Cセグメントの中でも小さいサイズといい、こうした付加価値が高いパワートレーンをいち早くラインナップに加えるところといい、アンチ派手プレミアムの最右翼ですね。
太田:
ところで三浦さん。PHEVというパワートレーンはHVの次のエコカーとして欧州でも注目されているけれど、今日乗った限りではすごくスポーティでエコカーという印象は薄いね。エコモードも無いし。こんなんでいいのですか?(笑)
三浦:
いいのです!(笑)EV走行距離が52.8kmもあるからエコモードは必要ないのだと思います。「生活圏の移動はEVで走ってください。旅に出るなど、より遠くに行きたいときはHVで」というのがPHEVの特徴で、毎日の生活ではこのクルマはEVです。たとえば駐車場1台分の面積以上のソーラーパネルを自宅に持つ人ならば、EVモードでどんなにスポーティに走ってもクリーンエネルギーの自給自足ができるわけです。EVやPHEVの普及は電気エネルギーのクリーン化とセットで進むと思います。
太田:
PHEVならば、既存のエンジン車の派生でつくることができるし、充電設備は自宅にさえあれば社会インフラとして整備されるのを待つ必要がないわけだ。
三浦:
もうひとつ。EV走行はガソリンエンジン走行やHV走行よりもかなり経済的です。50kmで200円程度しかかからない計算です。だからこそ日常の足としてPHEVを走らせるときは燃費を気にしてトロトロではなく、元気に走らせたいです。「エコカー」というイメージとは逆。ちょっとした送り迎えや買い物とか、日ごろの移動が楽しくなる。短距離のドライブがぐっと華やいだものになりますよ。

Audi RS 3 Sportsbackはモンスターだが、コンフォートモードで走れば奥様にバレない

そして、最高峰スポーツモデル、Audi RS 3 Sportsbackは、367psを発揮する2.5リットル5気筒ターボエンジンとフルタイム4WDシステム「quattro」 が組み合わさり、0-100km/h加速は4.3秒という「クラス最速の本格スポーツモデル」。このAudi RS 3 SportsbackとPHEVのAudi A3 Sportsback e-tronに乗ってみて、Audiの美学を感じたという両氏。
太田:
Audi RS 3 Sportsbackに乗ってみて、「あ、速いってやっぱりおもしろいよな」って思った。踏んでそれを実感するけど、容姿はノーマルとそれほど変わらない。見かけはハイパフォーマンスの持ち主じゃないように見せている。おもしろいと思ったのは、こうした高性能マシンって、どこかで「その実力を見せつけたい」という意識がある。デザインや格好にそれが表れるはずだけど、このクルマは内に秘めたパワーを表に出さない。やっぱり(笑)。Audi A3 Sportsback e-tronと同じく、そこがA3の美学。これも確信犯なんじゃないかな、と。
三浦:
普通に乗れる367ps(最大トルク465Nm)のクルマですよね。こんなにパワフルなエンジンを、小さいボディに収めようとすると、おのずと硬くなってしまうはずなんですけど、コンフォートモードで走れば奥様にバレない(笑)領域までフツーになってしまう。太田さんのビーナスラインの攻め方、Audi RS 3 SportsbackとAudi A3 Sportsback e-tronでは全然違いましたね。
太田:
367psもあるAudi RS 3 Sportsbackはコーナーとコーナーの間の直線路でタイムを稼ぐ。圧倒的な加速感と強靭なブレーキも楽しんで。Audi A3 Sportsback e-tronはダイレクト感たっぷりのアクセルワークでコーナリングをリズムよくクリアする。
三浦:
高速道路ではAudi RS 3 Sportsbackはやや硬いと思いました。
太田:
ボクはスペックからもっとモンスターを予測していたぶん、普通さに驚いた。見せ方としては、Audi A3 Sportsback e-tronもAudi RS 3 Sportsbackも共通のところがある。ボディに「e-tron」ってロゴが貼ってあるから違いはわかるけど、これがなかったら、PHEVも367psのモンスターだともわからない。普通のA3に見える。外見に加えて、乗っていてもそれを感じる。
三浦:
派手にごてごてとデコレーションして高級感を演出する手法ではなくて、削ぎ落として、シンプルに仕上げています。でも乗ってみると、すぐに精密で高品質だと感じるクルマですよね。
太田:
「小さな高級車」って言葉ではかんたんにいえるけど、なかなかつくれないもの。乗り心地とサイズって相反するところがあるから。Audi A3は、ひとつひとつの操作性や足の動きをきちんと煮詰めることで、「小さな高級車」をちゃんと具現化している。都市生活者にとって小さいクルマって、市街地の狭い道などでは、すごいアドバンテージ。今回、Audi RS 3 SportsbackとAudi A3 Sportsback e-tronに試乗してよくわかった。Audi A3ラインナップに乗るオーナー像は、体外的にではなく、内に秘めた喜びを見出すことができる人ではないか。
三浦:
私も同感です。個人的にPHEVを応援する私としては、そんな方にぜひAudi A3 Sportsback e-tronを試乗してもらいたいと思います。
AudiがA3ラインナップで発したふたつの矢。スポーツ性能を極限まで高めたAudi RS 3 Sportsbackに対し、スポーツ&エコロジーという新たな価値観を提供したAudi A3 Sportsback e-tron。それぞれ性格が異なる2台だが、Audi A3ラインナップとして内に秘めたるメッセージは以外にも共通していた。さて、あなたはどちらのAudi A3を選ぶ?
The new Audi A3 Sportback e-tron debut