渋滞予測と定点交信
---- 今回、DCMはカーナビ側でも積極的に使われていますね。特に渋滞予測サービスでは、通信依存度が高く、流れるトラフィックも多い。ヘルプネット契約料金込みで月額1,000円ではDCMのデータ通信定額制はコスト的に厳しくありませんか?

友山 そこは新型DCMが利用するKDDIの「CDMA 1xEV-DO」ネットワークの強みが出てますね。

---- 確かに1xEV-DOは適応変調方式など最新の3G技術をいち早く導入しており、現時点で他社より通信効率がいい。すなわち、スピードが速く、ビット単価が安い。

友山 そうです。この効果は如実に出ています。実際、私どもで回線交換でG-BOOKを使った場合と、新型DCM(の1xEV-DO通信で)でG-BOOKを使った場合でコスト比較をしたのですが、結果はかなり差が出ます。特に渋滞予測など交通系サービスをテレマティクスでやる場合だと頻繁にセンターに接続するわけですが、そういった使い方では回線交換より、新型DCMのパケット通信の方が通信コストが安くなります。

---- これまで「パケットよりも回線交換の方が安い」というのは2G携帯電話や初期の3G携帯電話のパケット単価と比べて、という事であって、1xEV-DOや(ドコモが来年導入する)HSDPAなど、より通信効率の高い最新の3Gインフラを使えば「パケットの方が安い」という状況になるわけですね。

冒頭、G-BOOK ALPHAは「安全のため」が第一義とおっしゃっていましたが、実際のデモンストレーションを見ると、カーナビ機能、特にGルート探索と呼ばれる渋滞予測サービスにもかなり注力されていると感じました。

友山 実は2001年、トヨタはケータイ向けコンテンツとして「@navi」というサービスをやっていまして、ここでVICSの渋滞情報を独自で蓄積していました。我々も、かねてから渋滞予測・回避機能による混雑緩和というのは環境技術としてやらなければならないと思っていましたので。分析や予測サービスをケータイ上で展開していたのです。もちろんクルマに生かすための布石です。また、VICSのデータを収集するだけでなく、実走行による渋滞情報のデータ収集も行っていました。

---- 実走行というと、調査車両を走らせたのですか?

友山 VICSデータは完全ではありませんし、それらも含めた複数の渋滞発生データについて、実際に走ってみて精度を検証する必要がありましたから。こういった作業をしていたので、サービス実現までかれこれ4年がかかってしまった。

---- ホンダのフローティングカー「プレミアムメンバーズVICS」のように、ユーザー車両のセンサー情報を収集して、サービスをしながらデータの補完する手もあったのでは?

友山 聞かれると思いました(笑) 結論から言うと、プローブ(注:フローティングカーと同義)はやってないです。理由は明確で、プローブをやっているのとやっていないのとで比較したところ、サービスの提供段階から見て、現時点で大きな差違がなかったからです。それよりも今回、力をいれたのは渋滞予測のアルゴリズムです。将来、プローブシステムの必要があれば導入できるよう用意はしていますが、現時点では個人情報保護の観点からもプローブは見送ることにしました。

---- では今回は調査車両によるデータ収集と、アルゴリズム開発に力点が置かれたわけですね。

友山 アルゴリズムは豊田中央研究所で開発した「3レンジ複合予測方式」を採用しています。このアルゴリズムは特許も出願している独自のものです。

---- それはどのような技術なのでしょうか。

友山 渋滞予測には大きく2つのアプローチがあります。ひとつは「現在」の状態から交通渋滞の伝播現象を数学的に解析して、未来の交通量を予測する手法。もうひとつが、「現在」の状況を過去の渋滞発生パターンにあてはめて、類似するものから未来を予測する手法です。

3レンジ複合予測では、渋滞予測を「ショートレンジ」、「ミドルレンジ」、「ロングレンジ」に分けます。ショートレンジ予測は現在を起点に伝播現象を予測し、ミドルレンジ予測では「現在」の状況を加味しながら過去の類型パターンを使って予測します。そして、ロングレンジ予測では「現在」の状態を加味せず、過去の類型パターンでのみ予測を行います。

この際のポイントは、ショートレンジ、ミドルレンジ、ロングレンジの3つの異なる方法で導き出された予測を有機的に複合させて、より現実に近い予測をする事です。

---- ポイントは3レンジをどう複合させるか、そのアルゴリズムのさじ加減と言いましょうか、ノウハウの部分にありそうですね。

友山 市販など他社のカーナビがやっている渋滞予測は、おそらくミドルレンジ予測を軸に独自のアルゴリズムを用いていると思いますが、それだとショートレンジとロングレンジで誤差が生じるんですね。我々は3つのレンジを組み合わせて、最適解を導き出す、いわば「いいところ取り」をしています。

---- 各レンジでもアルゴリズムの開発・調整をしているんですか。

友山 そうですね。例えばショートレンジでは渋滞伝播のリアルタイムシミュレーションアルゴリズムを開発するとともに、経験値を類型パターンとして加えられるようにしています。そういったこともあって、調査車両での走り込みもずいぶんとやりました。

---- きめ細かい渋滞予測をクルマに伝えるには頻繁な通信が必要になります。通信のタイミングはどのように設定してあるのでしょうか。

友山 交通情報による経路誘導の自動更新は、交差点直前で右左折指示が出るなど安全上問題を避けるために定期(5分毎、10分毎など)ではなく定点で行うよう配慮しています。

高速道の入り口4km手前、また分岐点の7Km手前で自動的にセンターと交信して、常に最適な経路を導き出します。またVICSビーコン装着車に関しては分岐点手前だけでなく、ビーコンの設置箇所でも、自動的に経路と渋滞情報を更新します。ビーコンの設置位置は、経路を更新するのに元来、適切な位置にあるという考え方からです。

手動では、ナビのマップの画面下にある「再探索」にタッチすることで走行中であっても、ドライバーが認識していますので道路上の位置に関わらず任意に情報を取得し、経路を更新できます。いずれの場合も10秒程度で情報更新が完了するのは新型DCMのパケット高速通信の恩恵です。

---- 定額制通信のメリットを定期交信の短縮ではなく、経路や地図、地点と連動して不定期に交信することに生かしたわけですね。DCMとパケット定額の組み合わせで渋滞予測など、カーナビ機能の面でも大きな恩恵を受けられると言うことは、エンハンストカーナビとしても、G-BOOK ALPHAはライバルに対する競争力を得たと思います。

《インタビュアー=神尾 寿》
《写真=浅見 洋》
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