――ズバリ、『G-BOOK』を開発した狙いはなんですか。
豊田 クルマの歴史は100年近くありますが、その間、基本的には“走る”、“止まる”、“曲がる”という3つの機能だけでした。自動車メーカーとして、それらの完成度を高めより安全により環境負荷が低いクルマを生み出すことは当然ですが、G-BOOKは3つの基本機能に加えて“つながる”という機能を付け加えることでクルマに新たな魅力を与えたいと思いました。最近では、特に若い層を中心に「携帯電話には月々1〜2万円のお金を使うが、自動車のローンは月々5000円でも嫌だ」という人が増えています。
――3つの機能だけの自動車に魅力を感じなくなり、“自動車離れ”が始まっている?
豊田 それなら、クルマの魅力をアップさせるために新たな機能を追加したらどうだろうか、と考えました。G-BOOKというのは、一見するとカーナビゲーションシステムですが、平たく言えば、クルマに携帯電話を搭載したというわけです。クルマを開発している人たちからは怒られてしまうかもしれませんが、イメージとしては、月々2万5000円のローンで、携帯電話を買ったら、自動車がオプションでついてきたという感じでしょうか。G-BOOKはそばにあって頼りなる、しかも、嫌味でなく、うっとおしい存在ではない、とお客様が支持していただければ、G-BOOKは自動車の新たな機能として、トヨタ車を魅力的なものにするのではないか、という狙いで開発しました。
――嫌味ではない?
豊田 そう、その部分は非常に大事ですね。というのも、私が業務改善を手掛けた中で、お客様にまじめに対応すればするほど、お客様から叱られた経験があるのです。車検を控えたお客様に、車検の45日前にはダイレクトメールを送りなさい、30日前には電話しなさい、15日前には再度電話を入れなさい、と担当のセールスマンに徹底してやらせました。車検の期日を間違いないよう、お客様に一生懸命対応することで、お客様は喜んでくれるだろうと思ったら、結果は「うるさい」と叱られてしまいました。頻繁なアプローチが「嫌味で、うっとうしい」と思われてしまったのです。お客様に嫌味なく、喜んでいただくというのはものすごく大事で、G-BOOKの開発にあたっても、その点は配慮しました。
――豊田さんはITを使ったコミュニケーションに以前から興味をもたれていたのですか?
豊田 GAZOOを立ち上げる頃、私は“アナログ人間”だったのです(笑)。インターネットの世界に入ったのは比較的遅かった。ITに注目する若い社員のほうも専門用語で“アナログ人間”をシャットアウトするような雰囲気がありました。でも、そうじゃいけない。カーラジオをつけるのにマニュアル(取扱説明書)を見てつける人はいませんよね。“アナログ人間”だった私は、G-BOOKもカーラジオと同じように、アナログ世代でもストレスなく、安心して使えるものでなければいけないと言いました。同じ視点で取り組んだGAZOOが約370万人の会員を抱え、いまも残っているのは誰でもストレスなく、安心して使えるからだと思います。G-BOOKも、その点は重視しました。
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