――G-BOOKをアメリカのGM(ゼネラル・モーターズ)が使うかどうか、現在、トヨタ、GM両社で検討していますね。
豊田 G-BOOKの開発はトヨタ独自でやっています。GMとはG-BOOKをベースに何かできないか検討を進めていますが、まだご報告できる段階にはありません。
――GMは「オンスター」を世界規模で展開しようとしていますが、トヨタはG-BOOKのプラットフォームを欧米で展開するのでしょうか。
豊田 G-BOOKは、コンビニエンスストアに置かれている「E-TOWER」と連動します。E-TOWERからは、デジタルカメラで撮った画像のプリントアウトや、イベントのチケット予約ができます。欧米にコンビニのようなインフラがどのぐらいあるのかなど、G-BOOKを欧米に展開するとしても検討すべき点が多々あります。トヨタはアメリカでは「レクサスリンク」という名前のサービスを実施していますが、中身はオンスターです。アメリカでは、やはりナンバー1の自動車メーカーであるGMが提供しているサービス、これを利用する方が理にかなっています。
――オンスターにあたるのが章男さんが社長を務めていらっしゃるガズーメディアサービス株式会社ですよね。
豊田 比較するのはおこがましい。オンスターはGMが持っている会社ですが、GMの名前は出していません。オープン性を持っている。だから、アメリカではトヨタ以外でもホンダ(本田技研工業)やVW(フォルクスワーゲン)もオンスターを採用しています。GAZOOも当初はオープンにしたいと思いましたが、最近ではトヨタというイメージがある。出発点は同じですが、今では性格が変わってきています。
――環境技術同様、IT技術も自動車メーカーの優勝劣敗を決めるカギになりますか。
豊田 環境技術にしても、IT技術にしても何かひとつが自動車メーカーの優勝劣敗を決める答えになるとは思いません。カギを握るのは、クルマとしてどれだけ魅力があるかということでしょう。走る・止まる・曲がる、という、いままでの自動車の基本的な機能があって、そのうえで、安全、便利、環境に良いという面を向上させていくことが、優勝劣敗のカギを握るのではないでしょうか。
――G-BOOKも優勝劣敗のカギを握る、自動車の魅力をアップさせるのに大いに役立つのではないですか。
豊田 G-BOOKが引き金になって、いままで自動車に興味を持っていなかった人たちが、興味を持ってもらえるようになれば幸いですね。日本でFIFAワールドカップが開催されたことで、イングランド代表のデイビット・ベッカム選手のようなカッコイイ選手がいたこともあって、それまではサッカーにあまり関心を持っていなかった人までサッカーを見るようになった。G-BOOKが引き金になって、アスキーさんの読者のようにITの世界に関心が強かった人が、自動車も面白いじゃないかと思ってもらえるようになれば、自動車市場も活性化されるんじゃないでしょうか。
――自動車市場の拡大が見込まれる中国にはトヨタも相当に力を入れていますね。しかも豊田常務は中国事業も担当しておられる。そこでうかがいますが、これからモータリゼーションが訪れようとしている中国市場に、G-BOOKのような“つながる”機能をもったクルマの投入はどのようなタイミングで行うべきと考えていますか。
豊田 先ほども言いましたが欧米、中国を含め、海外展開については現在のところ具体的な計画はありません。ただ、クルマがまだ普及していない国、たとえば中国などでは、むしろ最初から先端のテクノロジーを入れ込んだほうがいいのではないか、という考え方もあるかもしれませんね。自動車市場がどんどん膨らめば環境問題もあるので、最新鋭の環境技術を入れることも必要でしょう。中国の場合、たいへんに広い国ですから、電話の普及をみても、電話線を這わせるインフラ整備をやるぐらいなら、携帯電話だということで、あっという間に携帯電話が普及しました。インフラを一生懸命に整備するよりも、中国では、それとは違う発想でパッと投入してしまう世界ができています。たとえば「ハイアール」の顧客サービスの仕組みはユニークです。
――「ハイアール」は中国最大の家電メーカーですね。
豊田 日本では、松下電器産業さんなんかは、街の電気屋さんで顧客サービスにあたりますね。「ハイアール」は、高速道路のインターチェンジにクルマを待機させていて、お客様から家電の苦情が来ると、そのクルマでお客様のところに行って、24時間以内に修理する。中国の大部分はこれからモータリゼーションが始まるという段階です。道路や販売店などのインフラをまず整備して、日本がたどってきたモータリゼーションの流れを繰り返すのではなく、いきなりIT化したクルマを投入しても良いと思います。中国では、若い人を中心にインターネットのサイバーネットワークができて、先進国の情報がどんどん入っています。人的ネットワークもある。G-BOOKのようなものも面白いかもしれませんね。でも、まずは日本でG-BOOKをしっかり地道にやっていきます。使っていただければ必ず良さをご理解いただけるはずですから。
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