三浦:コンテンツの話が出ましたけれど、カーテレマティクスのコンテンツをどのように考えますか?
神尾:2種類に分けて考えられますよね。ひとつはドライブ支援というコンテンツ、ないしはサービス。これは主にドライバーを情報面で支援するのが目的だから、自動車メーカーがいちばんやりやすい分野だと思います。ただしここは市場規模が限られる。ニーズ、つまり目的がひとつですから。当然そこに参入するコンテンツプロバイダは同じようなものを作ってくるから、彼らすべてがビジネスとしてやっていくのは厳しいでしょうね。
で、もうひとつはいい言葉がないので、快適なドライブ空間支援っていうわけのわからない言葉使ってるんですけど、要はクルマのオーディオだとか、そういった快適装備のひとつとしてのコンテンツです。快適装備品のうち情報面でのものですね。これは逆にニーズはユーザーの数だけある。
会田:塵も積もれば……?(笑)
神尾:そうそう。ある程度まとまったニーズを拾い上げてビジネスできるっていうのがコンテンツプロバイダにとっていちばん望ましいんだけど、実際それをやるにアクティブユーザーがたくさんいないとできない。これ、通信ビジネスでいう“1円玉拾い”って言われてるんですが。要は1円玉は誰も拾わないけど、それを全国で集めればビジネスになると。逆にそういうビジネスができるのが通信サービスなんです。
三浦:でも、僕の家で一円玉を拾うのと、神奈川県すべてで一円玉を探すのとはビジネスの規模が違いますよね。
神尾:そう、そのためにはプラットフォームの規模やユーザー数が重要になってきますよね。免許人口が7000万と言われていますが、この数は携帯電話の契約者数に匹敵する規模です。でも、その中の何パーセントを対象にするか・・・。つまりさまざまな人に対して、いろんなコンテンツが提供できる環境にしていかないと。
三浦:気が遠くなるような話だな。その証拠じゃないけど、ホンダはドライブ空間支援は完全に切り捨てて、ドライブ支援のみに絞ってる。G-BOOKとの差別化というか。
神尾:現時点ではドライブ支援に一本化するというのはありなんですよ。でもそれだと市場規模が限られる。逆に言えば、コンテンツプロバイダ(CP)がたくさん参入して、新しい市場が形成されるということはありません。
会田:ただ現状の通信環境を考えると、ホンダのような判断もありだと思いますよ。もちろんG-BOOKがやろうとしていることの意義は分かるけど、あくまでも少しずつこれから発展していくものだから。そういう意味ではインターナビっていうのは旨味がありましたよね。ユーザーに対してすぐにアピールできるメリットがたくさんある。
三浦:実際試乗してみると、G-BOOKは新しもの好きが喜ぶだろうなっていう印象ですね。あれこれ試してみて楽しいんだけど、ひょっとしたら1週間乗ったらほんの一部しか使わなくなるかもしれない。一方でインターナビは初めてのドライブでもいける。さらに使いこなすほど、ドライブがどんどんインテリジェントになっていきそうな感じ。自動的にアシストされていると感じさせる演出がある。
神尾:VICSの加工もAirNAVIよりもスマート。経路周辺の情報のみ投げて計算はローカルでさせる。9600bpsの低速回線でも使える。
会田:もしG-BOOKにコンテンツが集まって人気が出るようならば、ホンダはG-BOOKの仕様を真似ることでCPの参入障壁を下げていつからでもドライブ空間支援コンテンツに参入できる。日産はG-BOOKとまったく違う独自の仕様なので切り替えは難しい。
三浦:そこまで考えているとしたらたいしたもんだ。
神尾:やっぱり1円玉拾いの市場って、自動車メーカーやカーナビメーカー、通信キャリア、そしてコンテンツメーカーみんなが努力していろんなハードルを越えないといけないんですよね。どうすればアクティブユーザーが参加するプラットフォームができるのか、一緒に考えなくちゃいけない。
自動車業界に限って言えば、1社単位で作っているプラットフォームでは、iモード並みの規模にはなれません。そういうところから始まって非常に多くのハードルを越えなきゃいけない。もっとコンテンツメーカーと歩み寄って開発していくべきです。コンテンツプロバイダを大切にしなくちゃいけない。
でも逆にそれを越えられれば、新しいテレマティクス市場のコンテンツ市場の規模っていうのがドライブ支援よりもはるかに大きくなるわけですよね。ここ各社がどう考えるのか。育てる気があるのかどうか。でもコンテンツプロバイダ(CP)勝手には育たないんですよ。
三浦:育たないと困るのかな、自動車メーカーは。
神尾:危機感の問題でしょうね。たとえばiモードが生まれたのも、当時ドコモの大星社長が「あと5年ドコモは強い。でもこのまま電話サービスだけやっていたらその後ダメになる」と悟ったからなんです。だからこそ新しい市場が必要だと。つまり育てなければ自分の命にかかわるということだったんですね。
でも今の自動車メーカーは、敢えてテレマティクスで新しいコンテンツを中心とした市場を育てる必要があるのかっていうと、それはどうかな、と。通信キャリアみたいに通話料で儲けてるわけでもない。コンテンツ市場が育ってそこにたくさんのアクセスがあったからといって、それがダイレクトに自らの収入になるかっていうと、それはNOな部分がありますよね。
三浦:コンテンツが増えてクルマの価値があがれば、ユーザーもそのメーカーのクルマを選ぶ、とか。
会田:でも現状では、そこからクルマを選ぶ人ってあまりいないんじゃないかな、残念だけど。たとえばG-BOOKのコンテンツが非常に魅力があったとしても現状では『サイファ』しかないわけですよね。だからサイファを買いましょうという人はほんの一握りですよ。
たとえばこれが携帯電話だったら本体が安いですし、いくらでも購入するきっかけにはなるんだろうけど。クルマに当てはめるのはちょっと厳しいかも。コンテンツが優れているからこのメーカーのクルマを買いますという発想がユーザーの中から生まれてくるのは大変だと思います。
神尾:携帯電話の場合まずキャリアで選びますが、クルマはまずハードありきですからね。で、ハードを選ぶと自動的にテレマティクスサービスも決まる。だからそこがやっぱりちょっと問題があるのかな。もっと突き詰めて言えば、テレマティクスのポータル化というかね。1社が独占しないような状況が必要なのかもしれません。
三浦:そもそもユビキタスというのは、“どこからでも”というのがポリシーなので、そのメーカーのクルマと限定されるのはユーザーとしては不便ですよね。互換性があるWeb環境を与えた上で各社独自ポータルを切磋琢磨してほしいと思うのです。
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