――先進性がホンダのブランドイメージを高めて来たことにもつながったと考えるのですが、ブランド力強化にはどう取り組みますか。
福井 ブランドについては「ホンダ」というコーポレートブランドを核に置いています。それを強化するには、時代に先駆けたような商品を造らなければなりません。また、われわれが目指しているお客様の信頼獲得のためには、(納車後の)サービスの質向上もあります。そうした積み重ねですね。また、企業活動全般にまたがるテーマですから、企業の透明性確保や情報発信、あるいはモータースポーツもあって、人々にホンダのイメージが定着していく、これが重要です。
――福井社長は、かつて「ホンダのブランドは、ホンダで働く人そのものだ」と、おっしゃっていますが、これを噛み砕くとどういうことでしょう。
福井 ブランドを構築するのは、宣伝だとか広告打ってという小手先ではないということです。全世界にいる約14万人のホンダに従事する人々全員が、自分の仕事のレベルを上げて、いいものを作ったり、サービスしたり、あるいは妥協せずに商品を開発する。その結果で、ブランド力は高まるのです。突き詰めると1人ひとりの人間なんですということを指摘したわけです。ですから、全従業員に志を高くもっていただきたい。そして、お客様の満足度を高めるという本質を追求していけば、ブランド力は高まります。
――ハイテク装備を強調した『インスパイア』が出ましたけど、IT化でホンダのクルマにはどんな未来が開けますか。
福井 これも本質論に関わる問題ですが、IT化によって安全対策に相当寄与できるのではないかと考えています。インスパイアの追突軽減で一歩踏み出したわけですが、あのシステムがどんどん高度化して、もっと安くなって普及して、実際の交通で事故が少なくなっていく。そういうことに貢献できればいいなと考えています。そういうことをお客様は望んでいると思います。
――次のステップはASV(安全実験車)の世界ですか。
福井 道路交通法では、最終責任は基本的にドライバーなんです。だから自動運転という概念はないんですよね。ありとあらゆるITを駆使して、ドライバーという人間をサポートするというのが、われわれの基本的な考え方です。最終的には人間が判断すると。
――商品力という点でのIT化はいかがですか。
福井 IT性能は商品力のひとつのファクターではありますが、もっとわれわれがITを駆使したいと思うのは、ファン・トゥ・ドライブの領域です。安全、環境は当然なのですが、走る、止まる、曲がるという本来のクルマの基本性能に付加して、それも主役は人間ですから、ITが余り出しゃばってもいけない(笑)、という方向ですね。
――IT化はファン・トゥ・ドライブには反するのでは、という見方をする人もいますね。
福井 だから、うまい味付け、使い方というのがきっとあります。その本質を見失ってはいけない。安全を求めたら、究極的には走らないのが一番いいわけですから(笑)。これでは意味ないですよね。クルマの魅力を最大限引き出しながら、うまくサポートするということでしょう。
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