――就任後の挨拶で「ホンダらしさ」を追求するとおっしゃいましたが、それもホンダの本質を問うことだと思います。福井社長のおっしゃる「ホンダらしさ」とは、どういうことでしょう。
福井 色々ありますが、ひとつの見方を言うと、競合社がどう動こうが、周りのジャーナリストがどうおっしゃろうが、それらに惑わされずに本質を見極めて、技術なり商品を開発していくということです。本質とは、ホンダという会社は、一般大衆のお客様をターゲットにしていますから、お客様の満足を高めることを本質論と捉えて、それに合致した施策を打っていくということです。これが原点で、しかも、それに合った商品、技術を先に出す、いち早く出すというのもホンダらしいということになります。
――「先進創造」ということですね。
福井 ええ、その言葉につながります。だから、マーケットに深く入りこんで潜在需要をかき出して、新しいコンセプトの商品を早く出す。それが世の中からホンダに期待されていることだと思います。
――一方で、経営や研究開発での「ワイガヤ」がホンダの伝統ですが、最近では声の大きい人の意見が通るのか、あるいは皆さん黙りこくってしまうのか、練り込みが少ない製品が出てきているような気がします。先取りして市場を開拓しても、結局、他社からもっと練り込んだ商品が出てくると取られてしまうという状況もあります。研究開発体制の課題についてはいかがでしょう。
福井 言われたことは、大体合っています。研究所(本田技術研究所)もホンダの成長に伴って、近代化しなければならない、効率化も図らなければならないと、色々な手を打ってきました。それは必要だと思います。一面、いま言われたようなことが出てきているのも事実なので、そういう(ワイガヤのような)面でのホンダらしさが絶対必要で、手を打ってきています。具体的には言いませんが、これから出てくる商品、あるいは技術を見てどうなったかなと思ってください(笑)。
――変化は見えてきますか。
福井 もうアクションは取っていますから、見えて来るんじゃないですか。
――東京モーターショーを期待していいですか。
福井 はい。
――F1は苦戦中ですが、力の差というのは、どこにあるのでしょう。
福井 セッティングとチーム戦略の差がものすごくありますね。基本性能、つまり馬力だとか重量だとかは、トップチームはかなり近づいてきている。その差よりは、タイヤの性能をどう生かすとか、そのために車体をどうセッティングするとか、色々な要素のセッティングがあり、それを短時間にしなければならないわけです。
――ホンダエンジンの力を発揮できないでいる、と。
福井 ええ、まだ実力を充分出し切ってないんですよ。不完全燃焼が多い。
――ところで、「エンジンのホンダ」が、なぜ市販車で8気筒以上のエンジンをやらないのかというユーザーの声もありますが。
福井 レースでは10気筒までやっていますけど(笑)。8気筒は市販用のプロトタイプまでです。ただ、ビジネスとしてやるには車体のコンセプトも変えなければならない。ラインナップではホンダは基本的にはFFです。FFでV8というのは成立の可能性がほとんど無くて、V8に合う車体形態、たとえばFRプラットフォームも開発して市場に入っていくことを、われわれのビジネスとして考えると、今さら、という感じです。もっと先があるのではないかと。V8の世界は戦前からアメリカ(メーカー)の世界であり、いまだに続いているのですけど、もっと燃費が良くて近代的な乗り物があるんじゃないか。小さい方でいえば、ハイブリッドというシステムができています。こういう小さいクルマはホンダの得意技ですね。V8も色々検討しましたが、今のところ商品として魅力を感じません。何か新しい道があればやりますけど。
――先進性があればということですね。
福井 ええ。むしろ、インスパイアのV6ですが、あれは休止状態では3気筒ですから。気筒は減る方向なんですよ。われわれのV6と、どこかのV8と乗り比べていただいて、評価していただきたいくらいです(笑)。少なくとも燃費でいえば、圧倒的にいいわけです。
|