鉄道による日本縦断、新幹線開業で所要時間伸びる?

鉄道 企業動向
北海道新幹線の部分開業に伴い、東京~新函館北斗間は最短4時間2分で結ばれる。ただし、列島縦断の鉄道旅行は所要時間が伸びる見込みだ。
  • 北海道新幹線の部分開業に伴い、東京~新函館北斗間は最短4時間2分で結ばれる。ただし、列島縦断の鉄道旅行は所要時間が伸びる見込みだ。
  • JR最北端の稚内駅とJR最南端の西大山駅を鉄道だけで移動する場合の最短所要時間は、北海道新幹線の開業に伴い逆に伸びる見込み。写真は12年前(2004年)、記者が稚内~西大山間の列島縦断旅行を実践した時の稚内駅。そのときの最短所要時間は27時7分だった。
  • 稚内~西大山間を鉄道だけで移動する場合の最短所要時間は、北海道新幹線の開業に伴い逆に伸びる見込み。写真は12年前(2004年)、記者が稚内~西大山間の列島縦断旅行を実践した時の西大山駅。ホームの端に「JR日本最南端の駅」と記された標柱が設置されていた。
  • 青森~札幌間の夜行急行『はまなす』は北海道新幹線の開業に伴い廃止。これが列島縦断の所要時間を延ばす原因になりそうだ。
  • 最短所要時間の列島縦断で利用する夜行列車は『はまなす』から『サンライズ出雲・瀬戸』(写真)に変わるが、夜行列車を使わず新大阪に泊まっても結果は同じになる。
  • 北海道新幹線の開業後、稚内駅を朝に出て在来線特急や新幹線を乗り継ぐと、その日のうちに新大阪駅(写真)に到達できるようになる。

40年以上前に建設の決まった北海道新幹線が、いよいよ今年3月26日に開業する。今回開業するのは新青森~新函館北斗間の148.8kmだけだが、本州~北海道間の所要時間が短縮されるのは間違いない。ただし、日本列島を鉄道で縦断する場合の最短所要時間は、逆に伸びそうだ。

日本で最も北にあるJR駅は、北海道稚内市にある宗谷本線の終点・稚内駅(北緯45度25分)。これに対して最南端のJR駅は、鹿児島県指宿市を通る指宿枕崎線の西大山駅(北緯31度11分)で、緯度にして約14度の差がある。直線距離なら約1850kmだ。

この区間を鉄道で移動すると、最短でどのくらいかかるのか。鉄道作家の故・種村直樹さんは毎日新聞記者時代の1972年9月、西大山駅から稚内駅に向かう北行ルートの最短プランを実践。同年10月14日の毎日新聞朝刊に、鉄道開業100周年の記念企画としてルポが掲載された。それによると、最短所要時間は45時間29分(車船中2泊3日)だった。

【01】普通列車
 西大山19時42分発~西鹿児島21時17分着
【02】寝台特急『月光2号』
 西鹿児島21時25分発~岡山8時51分着
【03】新幹線『ひかり4号』
 岡山10時40分発~東京14時50分着
【04】特急『はつかり3号』
 上野16時00分発~青森0時15分着
【05】青函連絡船
 青森0時35分発~函館4時25分着
【06】特急『おおぞら1号』
 函館4時45分発~札幌8時55分着
【07】急行『天北』
 札幌10時30分発~稚内17時11分着

当時は新幹線が岡山~東京間しかなく、西鹿児島(現在の鹿児島中央)~岡山間は寝台特急を利用。青函トンネルが未開通だった本州~北海道間も、国鉄が運航していた鉄道航路の深夜便を利用している。

■鉄道の高速化で20時間台に

その後、西大山~稚内間の最短所要時間は、新幹線の伸長や青函トンネル開通などの高速化により、徐々に短くなっていった。ときにはダイヤ改正で列車の乗換えがうまくいかなくなり、以前より時間が伸びることもあったが、1990年代前半には30時間台(車中1泊2日)まで短縮されている。

2000年代に入ると、最短所要時間は西大山発の北行ルートから稚内発の南行ルートに変わる。2004年3月には九州新幹線(鹿児島ルート)の一部開業に伴い、稚内駅から西大山駅への南行ルートで27時間7分まで短縮された。

その後も東北新幹線の延伸開業や九州新幹線の全線開業により、2011年3月には最短25時間50分に短縮された(東日本大震災の影響で実際に25時間50分で移動できるようになったのは9月以降)。現在は北海道新幹線の開業準備に伴うダイヤの暫定的な変更で乗継ぎがうまくいかなくなり、27時間19分まで後退している。

【01】特急『スーパー宗谷4号』
 稚内16時49分発~札幌21時55分着
【02】急行『はまなす』
 札幌22時00分発~青森6時19分着
【03】普通列車
 青森6時28分発~新青森6時33分着
【04】新幹線『はやぶさ8号』
 新青森6時49分発~東京10時28分着
【05】新幹線『のぞみ165号』
 東京10時40分発~新大阪13時13分着
【06】新幹線『さくら589号』
 新大阪13時20分発~鹿児島中央17時39分着
【07】快速『なのはな』
 鹿児島中央17時50分発~山川19時01分着
【08】普通列車
 山川19時58分発~西大山20時08分着

■『はまなす』の廃止が「打撃」に

それでは、北海道新幹線の開業に伴う3月26日ダイヤ改正以降の最短所要時間はどうなるのか。

現時点では主な列車の運行時刻しか発表されていないため、正確にはまだ分からない。詳細な発表がない路線や列車は「現在の運行時刻と同じ」と想定し、稚内~西大山間の最短所要時間による乗継ぎプランを検討してみた。

【01】特急『スーパー宗谷2号』
 稚内7時00分発~札幌12時06分着 ※現在の時刻
【02】特急『北斗12号』
 札幌12時15分発~新函館北斗15時51分着
【03】新幹線『はやぶさ30号』
 新函館北斗16時17分発~東京20時32分着
【04】寝台特急『サンライズ出雲・瀬戸』
 東京22時00分発~岡山6時27分着 ※現在の時刻
【05】新幹線『みずほ601号』
 岡山6時51分発~鹿児島中央9時48分着
【06】普通列車
 鹿児島中央10時05分発~西大山11時57分着 ※現在の時刻

稚内発の南行ルートで28時間57分。2011年3月のダイヤより3時間強長くなり、現在の暫定的なダイヤと比べても1時間半ほど伸びる可能性が高くなった。

ダイヤ改正後は東京駅での接続が悪くなるため、これが改善されれば現在とほぼ同じ所要時間になるはずだが、それでも2011年3月より1時間半ほど長い。高速列車が運行される新幹線が開業するのに、なぜ所要時間が伸びるのか?

簡単に言えば、札幌~青森間を結ぶ夜行急行『はまなす』が、北海道新幹線の開業に伴い廃止されるためだ。所要時間を短くしようとすれば、どこかで夜行列車を利用し、夜通し移動し続ける必要がある。このため、夜行列車がなくなると深夜帯に移動できなくなり、所要時間が長くなるのだ。

『はまなす』の廃止で夜行列車が完全になくなるわけではない。東京~岡山~出雲市・高松間を結ぶ寝台特急『サンライズ出雲・瀬戸』は、ダイヤ改正後も残る。先に示した「28時間57分」という所要時間も、東京~岡山間で『サンライズ出雲・瀬戸』を利用することが前提となっている。

ただ、東京~岡山間で夜行列車を利用するということは、その区間では所要時間の短縮効果が高い新幹線を利用できないことになる。150km近い北海道新幹線の新青森~新函館北斗間を新たに利用できるようになる一方、東海道・山陽新幹線の利用距離が約700km減少してしまうわけだから、結果的には速度の低下で所要時間が伸びる。

新幹線でも夜行列車が運行されていれば、状況はもう少し変わっただろうが、新幹線は0時から6時まで線路の保守時間に充てているため、列車を運行することができない。

■夜行列車を使わなくても所要時間は最短に

さらに詳しく調べてみたところ、「最短で移動するなら夜行列車の利用が必須」という条件自体、大きく変わる可能性の高いことが分かった。

稚内駅から列車をひたすら乗り継いでいくと、東京駅には20時32分に到着。夜行列車を利用する場合は、ここで22時00分発の『サンライズ瀬戸・出雲』に乗り換え、翌朝の岡山駅で山陽・九州新幹線の『みずほ601号』に乗り換える。

一方、東京駅で『サンライズ出雲・瀬戸』に乗り換えず、そのまま東海道新幹線『のぞみ』に乗り換えると、新大阪駅には遅くとも23時45分までには到達できる。翌朝6時00分に同駅を発車する『みずほ601号』を利用できるから、結果は同じなのだ。昼間しか運行されていなくても、新幹線の高速性を生かした方が所要時間を短くできそうだ。

【01】特急『スーパー宗谷2号』
 稚内7時00分発~札幌12時06分着 ※現在の時刻
【02】特急『北斗12号』
 札幌12時15分発~新函館北斗15時51分着
【03】新幹線『はやぶさ30号』
 新函館北斗16時17分発~東京20時32分着
【04】新幹線『のぞみ425号』
 東京20時40分発~新大阪23時13分着 ※現在の時刻
【05】新幹線『みずほ601号』
 新大阪6時00分発~鹿児島中央9時48分着
【06】普通列車
 鹿児島中央10時05分発~西大山11時57分着 ※現在の時刻

先に述べた通り、一部の列車は現在の運行時刻を当てはめているため、このプラン通りになるかどうかはまだ不明だ。運行時刻の微修正はもちろんのこと、『スーパー宗谷2号』~『北斗12号』の接続が取られなかったり、鹿児島中央~西大山間の列車が減便されたりして、所要時間がさらに伸びる可能性もあるだろう。

とはいえ、夜行列車を利用してもしなくても最短所要時間が変わらない、その可能性が高まったことは確かだ。いずれは「夜行列車を利用してもしなくても所要時間は同じ」ではなく、「夜行列車を利用しない方が速い」という時代が来るのだろうか。もっとも、「そもそも夜行列車がない」という時代が先に来るかもしれないが。

《草町義和》

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