【インタビュー】「視覚化された通勤燃費」…アイシンAW トヨタ向けDOPナビ 製品統括・企画担当

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アイシン・エィ・ダブリュ ナビ事業本部 製品統括部 主査 加地孝典氏
  • アイシン・エィ・ダブリュ ナビ事業本部 製品統括部 主査 加地孝典氏
  • アイシン・エィ・ダブリュ ナビ事業本部 技術企画部 第2企画グループ 担当員 三浦直樹氏
  • アイシン・エィ・ダブリュ ナビ事業本部 製品統括部 主査 加地孝典氏
  • アイシンAW のトヨタ純正ディーラーオプションナビ「NHBA-X62G」
  • スマートナビリンクでのエコマップ表示
  • アイシンAW のトヨタ純正ディーラーオプションナビ「NHBA-X62G」 エコマップ表示
  • アイシンAW のトヨタ純正ディーラーオプションナビ「NHBA-X62G」
  • スマートナビリンク、メニュー画面

ディスプレイオーディオの登場やスマートフォンのナビアプリの進化で、大きなトレンド変化を迎えつつあるカーナビゲーションの世界。そんな中、アイシンAWはトヨタ純正ディーラーオプション(DOP)ナビのフラッグシップモデルとして8インチ大画面・内蔵Blu-rayドライブを搭載したトップモデル「NHBA-X62G」を発表・発売した。

このX62G、業界初の内蔵Blu-rayドライブに加えて、スマホ連携アプリ「smart nAVVi Link」(スマートナビリンク)と、ゲーム感覚で自分の燃費と競いながらエコドライブを実践できる「エコトライアル機能」が大きくフィーチャーされている。

スマートフォンのトレンドや昨今のエコカーブームという、車を取り巻く環境が著しく変化する中で、同社はどのような技術とアイディアで対応していくのか。 ナビ事業本部の製品統括部 加地孝典氏とエコトライアル機能の企画を担当した技術企画部の三浦直樹氏に話を聞いた。

◆内蔵Blu-rayドライブ搭載で差別化、トヨタDOPのフラッグシップ獲得を狙った

----:X62Gは、2012年のトヨタ純正ディーラーオプションナビ中のフラッグシップモデルという位置づけですが、Blu-rayドライブ内蔵などハードウェア面の企画背景や技術的なブレークスルーを教えて下さい。

加地:Blu-rayドライブ内蔵に関しては、他機種との差別化機能の一つとして我々からトヨタへ提案したものです。DVDからBlu-rayへという変化はお客様にもわかりやすいかと考えました。

技術的なブレークスルーとしては大きく2つ、Blu-rayドライブ内蔵化と熱処理の問題ですね。Blu-rayユニットはDVDに比べ物理的に大きく、限られた筺体スペースに収める工夫が必要でした。また、ナビゲーションをコントロールするマイコン部分とBlu-rayユニットは発熱も相当ですので、ファン回転数のコントロールや空気の流れをシミュレーション解析にかけて内部に熱がこもらないような内部構造としています。

----:Blu-rayドライブの内蔵化をはじめとするX62Gの企画は、フラッグシップの開発を取りに行くための提案だった、と。

加地:当社では、お客様に毎年新しい機能、進化した製品を提案する、という目標があります。トヨタ純正ナビの市場は非常に大きく、今のところ我々の目標を達成するに最適な場所であるということです。フラッグシップでは毎回挑戦をしています。

----:フラッグシップ機種は販売数量的にはそう多く出ないとも思われるのですが、アイシンAWにとってこの機種を手がけることは重要ということなのでしょうか。

加地:そうですね。一番よく売れる製品も手がけたいし、フラッグシップで技術的・企画的な挑戦もしたい。という答えになります。おかげ様で、アイシンAW製としてはフラッグシップ機種を、またティア2として他の会社と協力して開発した製品含め、全7製品中5製品を扱っております。

----:Blu-rayは画像処理などの影響で、ナビゲーションのパフォーマンスに影響しそうですが、ナビとBlu-rayの両立に工夫しているところはありますか?

加地:Blu-rayの映像処理はドライブのデコーダーで行なっていますので、それほど負荷は大きくありません。ナビ側に影響するところは最小限です。

◆スマートフォンでの操作は快適

----:新モデルの目玉仕様の一つ、スマートナビリンクを用いてのスマートフォンとの連携は昨今のトレンドですが、アイシンAWとしてはこのスマホ連携で実現したかったことは何でしょうか。

加地:行きたい場所を探すのは、車に乗ってからという限定ではいけません。たとえば家や徒歩での移動中でも探せなくちゃいけないと考えました。スマートフォンはこれだけ普及していますし、今後も増えることは確実ですから、対応は必須ということで実装しました。スマートナビリンクではYahooロコのAPIを使用していますから、ストレスなく場所を検索し、行きたい場所も保存しておけます。あとは車に乗った時に地点転送すれば良いわけです。

----:スマートフォン連携は使うほどに便利だと実感できるのですが、運転中の利用制限をさせている理由は。

加地:通常のナビゲーションと同じく、運転中のドライバーには操作をさせるべきではない、というのがまずあります。たとえ助手席の人間にスマホを渡したとしても、それを我々は確認できませんから。

----:メニューの目的地選択の下に並ぶ、オーディオリモコンは便利ですね。

加地:最上位機種になると、映像の独立再生機能を持たせてあるので、リアのディスプレイに個別の映像ソースを流せます。そこで、後ろの人もディスプレイの操作をしたいというニーズを想定しオーディオリモコンを搭載しました。付属のリモコンもありますが、スマホのリモコンはレスポンスが良く操作感も良好と好評ですね。

◆通勤燃費にフォーカスしたエコトライアル

----:次に、エコ機能の概要と、今回のX62Gで搭載した機能のトピックを教えてください。

三浦:このエコトライアル機能は、2011年のモデルから導入しました。これは同じ場所を行き来する運転で燃費を良くするというところにフォーカスした機能で、特に地方での自動車通勤生活から発想が生まれました。ソニー損保が先日発表した調査によれば、日常の買い物・送迎、通勤・通学で自動車利用の全体のおよそ87%を占めていることが明らかになっています。

----:通勤運転でエコ運転を実践することは燃費改善に大きな効果がある、ということですね。

三浦:ただ急アクセルや急ブレーキをやめてください、と言われても、それを実践したところで燃費にどのような変化をもたらしたかはわかりません。X62Gのエコトライアル機能では 、自分の運転が記録され、過去の燃費記録を地図上に葉っぱの形で見えるようにして、運転データを具体的に表示しました。これを「エコマップ」と呼んでいます。エコマップは、エコランプ点灯状態での走行で緑、そしてエコランプ消灯時は茶色と、一見して分かるようになっています。さらにハイブリッドの場合は、EV走行は白となります。

----:白や緑の葉っぱの割合を増やすように運転すれば、燃費の良い運転につながるというわけですね。

三浦:普段からエコ運転を心がけている人とそうでない人で燃費が違うように、エコトライアルの記録を見て、こんなに違うなら気をつけてみようかな、と自然にエコ運転をしたくさせるという狙いがあります。エコマップでは、ユーザーが目的地設定をして行きたい場所を予め知ることができるナビだからこその機能です。

----:通勤路の場合、わざわざ目的地を設定するケースは少ないのでは。

三浦:そこは確かに利便性として問題がありますが、ゆくゆくは「これは通勤路である」というのをナビ側で認識できるようにしたいと考えています。現状では、特別メモリの機能を使えば、簡単に登録地点を呼び出せるので、それで目的地設定をしていただきたいですね。

加地:エコマップのポイントは、地図上にリアルタイムでエコドライブを意識させるアイテムを表示させたかったということです。今回燃費や前回燃費、最高燃費を表示していますが、ゲーム感覚で過去の自分と競争して欲しいんです。

----:地図に葉っぱを表示させるに際して、視認性の面で気を遣った部分は。

三浦:走行中は改善が必要な茶色しか表示させず、車速がゼロになったら全表示するようにしています。

----:エコランプと連動させて葉っぱを表示させるエコマップは純正ナビならではの機能ですね。

三浦:エコランプのCAN信号をナビが受け取って、エコランプが点いた場所、という判定で緑や茶色の表示をしています。やはり、走行中はナビに注視して欲しく無いという気持ちがあり、運転中に注視できるものの一つはメーターであると。そこで、運転中はメーターのエコランプを意識して、ナビは停止しているときに運転の行程を俯瞰して見ていただく、という使い方を想定しています。

◆運転のしかたで燃費が変わるということを知って欲しい

----:通勤に車を使う機会が少ない首都圏に住む私にとって、通勤燃費の向上こそエコにつながるという発想は、想像ができないことでした。

三浦:もちろんエコ運転は常にして欲しいという気持ちですが、レジャーと違い通勤は毎日同じ道で、わざわざ目的地を設定してナビに案内させることもないので、普段使いのナビ活用として、エコ運転のきっかけにして欲しいという思いがありました。更に言うと、この機能をきっかけに、運転の仕方で同じ道でも燃費がかなり変わることに気がついて欲しいんですよ。

----:エコトライアルの結果はスマートナビリンクでも確認できますね。

三浦:はい。毎日のエコトライアル記録や各項目一覧は、車載ナビだけでなくスマートフォンで持ち帰って見ましょうと。日、月ごとの燃費や、累積燃費、さらには高速と一般道との違いなどを確認できます。ナビ本体で見れない細かな情報も見れますよ。ナビでは燃費共有サービスの「e燃費」のデータを活用した燃費比較も可能になりましたので、ロガーとしても面白いと思います。

----:ドライバーへの燃費運転の意識づけとしてはエコマップの効果は大きそうですね。

三浦:実際にエコマップを使用した場合としない場合で比較を社内で実施したところ、1周5.5kmの郊外路において、マークXで12%、プリウスでは20%の燃費改善効果がありました。あくまで当社での実験データではありますが、いかにEV走行の割合を増やすか、あるいは回生ブレーキをいかに活用するかといったように、エコ運転の幅が広いハイブリッド車のほうが燃費上昇率が高い結果となりました。

◆車外での移動もフォローするナビゲーションへ

----:今後の純正ナビはどのような方向に進化していくとお考えでしょうか。

加地:車の頭脳ととしての機能をもっと進化させていきたいですね。現状では人間で言う目と耳が足りないと思っています。目の役割を担うカメラやセンサーといったセンシングによって得られる情報を活用して、より広範囲なナビゲートを目指したいと考えています。車内に留まることなく、徒歩での移動や車以外の乗り物での移動もフォローして、様々な情報を整理し最適なナビゲーションを提供する方向性を目指しています。

----:今年のモデルからスマートフォン連携が導入されたように、近年スマートデバイスが急普及し、新興国含めて今後この流れがエスカレートしていく状況です。目や耳や頭脳はライフスタイルによってどんどん進化する中、カーナビとスマートフォン、そして人と車の関係はどうなっていくとお考えですか?

加地:人に身近に接しているものとしてはスマートフォンですが、車の環境というものは特殊な状況だと考えます。スマートフォンがカーナビにすぐ取って代わるかと言われれば、案内の正確さや精度、安全性や信頼性の面も含めてまだまだカーナビのほうが優位性があります。高い安全性や信頼性を確保するために大きな開発リソースをかけているのはこの点においてです。

三浦:いま私たちが取り組んでいるエコ運転の検出、特に燃費の悪くなる改善ポイントの検出は、まだ沢山あると思っています。もっと運転状況の検出精度を上げてドライバーのエコ運転ポテンシャルを引き出したいです。プリウスの常に燃費を意識させる表示や、運転バリエーションの広さは、スピードだけを追求することとまた別のファンtoドライブの領域が拡大したと感じています、我々はそういった燃費向上やエコドライブへの意識を、より楽しめる方向へ盛り上げていきたいと考えています。

《聞き手 三浦和也》

《山本 一雄》

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