――『アテンザ』をはじめ、ほとんどのモデルがワールドカーとして成功しています。
井巻 この世界では何が当たるか分かれば苦労しません。ただ、原理原則は押さえている積りです。ブランドとは何ぞやということでアテンザを出すまで、全ての商品計画を停止して見直した。この間の18カ月は、新モデルもなくて苦しみました。その結果、「zoom zoom」が出てきたわけです。「zoom zoom」は乗って楽しくなるクルマ。その前に、見て乗りたくなるクルマですね。そして乗って楽しく、また乗りたくなるクルマ---。われわれが目指すのは非常にシンプルなことです。アテンザ以降と以前とでは、全然クルマづくりが違います。
――フォードとのプラットホーム共通化もワールドカーづくりに寄与していますね。
井巻 おっしゃる通りです。われわれが一番弱いところは(モデル当たりの)台数が少ないことですから、フォードと一緒にやることでボリュームが稼げる。開発コストという面では非常に助かります。
――デザインも急速に洗練されてきましたが。
井巻 ある自動車メーカーの社長さんから「デザインに口出ししているんでしょう」と言われたことがありましたが、私はデザインについては「関心は示すが口は出さない」という立場です。関心は示さないといけません。社長が関心をもたないようでは、社員のモラールにすごく影響しますから。デザインセンターへは最低月1回は出向くようスケジュールに入れます。しかし、かつて経営層が口出ししておかしくなった例を何度も見ています。(自動車メーカーでの)経験が長いからといって、デザインがうまくできるものではない。
それよりもデザイナーのやる気を引き出すのがわれわれの役目です。そりゃ、見ていて気になることは沢山あります。私は塗装の生産技術も経験していますから、同じ塗料を使っても日本とロサンゼルスでは、陽光の違いからクルマの見え方が違ってくるといったことも分かります。でもじっと見ている。すると、彼らもその辺をクリアしてくる。その時、「よくやった」と言うだけですね。
インタビュアー:池原照雄(経済ジャーナリスト)
写真:上尾雅英
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