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現実的な選択は
伊東 C「モーダルシフト」とD「交通ニーズを発生させないまちづくり」は、今までずっと言われ続けてきた話ですが、モーダルシフトが実現するとは思えません。

森口 CやDはしっかりやらなきゃいけない。でも実は、それが可能な地域は少ないのです。今でも、東京23区のように公共交通機関のほうが便利なところがあります。ですから、乗用車から公共交通へのモーダルシフトは、大きくは動かないと思います。 D「まちづくり」は、先ほどお話したように、人口が減ると公共交通が成り立ちにくくなります。自動車のみに依存しないような、(例えば職住隣接の)都市作りをするには、大変時間がかかる。

伊東 近未来に有効な、現実的な対策は何でしょう。

森口 B「使い方の普及」です。コンパクトカーの普及、エコドライブ、レンタルやカーシェアリングなどが入ります。自動車は使うけれど、うまく使う、ということです。 クルマ不要論を唱える人もいます。しかし“自動車=悪”を唱えるだけではCO2は減りません。クルマの必要性を認めた上で、いかに環境負荷を下げられるか、と考えるほうが現実的です。
悪者を作るより良者を誉めよう
伊東 これからの環境対策は、原因追及や“悪者作り”の施策から、社会的に貢献する、という気持ちにさせる施策のほうが大事だと思います。規制を課すだけでなく、自己責任にも訴え、もう一段ステップアップしていこう、という考え方をとるべきではないでしょうか。

森口 今日、環境問題の重要性が広く理解されるようになったのは、「公害問題」をはじめ、その歴史を踏まえる必要があります。ですから、責任を問う議論は、大事なことだと思います。

他方で、理解や協力、つまり、多くの人にやる気になってもらうことは、大変重要なことです。世の中全体が沈滞する傾向もあり、省エネルギーは抑制施策と受け取られがちです。抑制ではなく、目標を持ち、新しいことにポジティブに取組んでいく、と捉えて欲しいですね。日本の技術や知恵、情報をうまく使って、“明るい未来”を作っていきたいと思います。

インタビュアー:伊東大厚
写真:池田志信

森口祐一(もりぐちゆういち)(インタビューされた人)

1982年国立公害研究所入所。環境庁企画調整局、在パリOECD事務局勤務などを経て、1990年国立環境研究所交通公害防止研究チーム研究員。1993年同チーム主任研究員、1996年同チーム総合研究官(研究室長相当)。自動車排ガスの拡散予測手法をテーマに京都大学より博士号(工学)取得。環境問題を広く総合的にとらえる環境システム工学が専門。交通システムの環境影響評価手法、温室効果ガスの排出インベントリ、ライフサイクルアセスメント、物質フロー分析などの研究に従事。2004年から始まった「脱温暖化2050」研究プロジェクトの交通部門担当リーダー。2005年より現職。 現在、OECD環境政策委員会環境情報・アウトルック作業部会議長、中央環境審議会専門委員、東京都環境審議会委員、産業エコロジー国際学会理事などを務める。2006年より東京大学大学院新領域創成科学研究科客員教授を兼務。
伊東大厚(いとうだいこう)(インタビューした人)

三井情報開発株式会社 総合研究所勤務。 都市交通や地球温暖化問題をはじめ、自動車・交通・環境分野の シンクタンク研究員。
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