――今年の世界販売計画は7月末に16万台上積みして828万台に修正しました。個人的には来年にGM(ゼネラル・モーターズ)を抜いて販売台数が世界一になると見ています。世界トップになった後の新たなビジョンもそろそろ必要ではないでしょうか。
渡辺 まだそういう所までは至っていません(笑)。私は、走れば走るほど空気がきれいになるクルマ、人を傷つけないクルマ、乗ると健康になるクルマ、無給油でアメリカ大陸を横断できるクルマなど、ちょっと夢みたいなクルマの話をいつもしています。世界のお客様にご満足いただけるような、あるいは感動を呼ぶようなクルマを提供するための課題は随分あります。
燃費、環境、安全性など、いずれも道半ばです。FCHV(燃料電池ハイブリッド車)の時代になれば、研究開発から商品化までかなりの投資も必要。その前のフェーズとしてハイブリッドの量産化もある。そうした時間軸で考えても、夢のクルマに到達するまでやるべきことは相当あるのです。
――走れば空気がきれいになるクルマなど、「夢のクルマ」はいつ、どのようなきっかけで発想したのですか。
渡辺 まず元町工場長(1996年就任)の時にきっかけがありました。私は(生産現場は)まったくの素人でしたから、駄洒落なのですが「もと・まちこうば」を世界一の工場にしようということをテーマにしました。世界一の職場は世界一の人からということで、組とか班という小さな単位で世界に誇れるものを作ろうじゃないかとやりました。
世界一というのはベンチマークで一番大きな目標ですから、当時からやるなら「世界一」というのは常に問いかけていましたね。そういうなかで、世界一のクルマを考えるといっぱいあるマイナスの部分をなんとかしたくなるわけです。排出ガスの問題、交通事故、エネルギーをたくさん消費するということも・・・。
世界一を強く意識したのは工場長のときですが、その後、調達を担当して「世界一良いものを世界一早く世界一安く」調達しようと、それがいいクルマづくりに繋がるのだと意識してきました。
(原価低減活動の)「CCC21」を(2000年に)行う過程でも、本当にいいものとは何だろうとよく論議するようになりました。世のため人のための製品・商品ということになると、環境、安全という負の部分をやはりゼロに近付けていくこと。一方で喜びの部分はマキシマムにする。技術開発部門と論議すると彼らも「ゼロナイズ」と「マキシマイズ」と言っていましたから、ぴったり合うなと。じゃあ、私も走れば走るほど空気がきれいになるクルマと言うよと、なったのです。
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――調達担当の専務時代からですね。その後、副社長時代にはITSにも深くかかわりました。夢のクルマを現実にする技術でもあります。
渡辺 ITSの目的は交通流を良くする、要するに安全、環境、利便という要素ですから夢のクルマにもぴったり合う。情報通信が発展した社会におけるクルマ社会のあり方ですから、考え方は一緒です。
――社長就任が決まってからも積極的に「夢のクルマ」を発言しています。
渡辺 社長になってからのメッセージとしては、ちょっと勇気がいるなとは思いましたけど(笑)、分かりやすい方がいいだろうと。永続的な発展と地球環境保護を考えればクルマの存在は大きいわけですから、それをわれわれの社会的使命として取り組んでいく意思表示です。
――「夢」のままに終わらせない。
渡辺 やらないとだめです。プリクラッシュセーフティやナイトビューとか局部的にはできていますよね。開発中の技術も、段階的に実車に装着していくというある程度のロードマップはあります。技術開発にはエンドはないわけですから、どんどん改良していく。
――交通事故の死亡者がゼロに近づくという時代を見てみたいですね。
渡辺 軽々に何年ごろと言えないのですが、是非とも実現したい。現実に、この10年で半減している。私は(政府の)e-Japan戦略を評価する委員長を務めていますが、クルマ自身の問題と社会インフラとの関係がすごく重要ですので、移動交通のIT技術を是非、推進・評価してくださいと願いしています。昨年の愛知県でのITS世界大会や、愛・地球博でもITSの実証試験が多く行われおり、大変進化している。これをさらに進めなければなりません。
インタビュアー:池原照雄(経済ジャーナリスト)
写真:竹内征二
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