――エンロンやワールド・コムの経営破綻によって、アメリカ型の市場経済の問題点が浮き彫りになりました。奥田さんは日経連会長時代に、日本は「人間の顔をした市場経済」を目指すべきだと発言し、株価重視、リストラ重視の経営がもてはやされる風潮に一石を投じましたね。
奥田 グローバル・スタンダードあるいはアメリカン・スタンダードと言ってもいいかもしれないけど、私はもともとよく分からなかった。「リストラすれば株価が上がるとか、リストラした経営者が賞賛されるのはおかしい」と言ったことで、リストラをやるときに、人に手をつけるという流れに棹さしたという慰めはもっている。従業員の雇用を尊重する経営のほうが人間を幸せにできると思う。これからは「人間の顔をした市場経済」に向かって全世界が動いていくと、そういう時代だろう。
――アメリカン・スタンダードの"申し子"ともいうべき、アメリカの格付け会社ムーディーズが日本の国債を格下げしました。
奥田 ムーディーズは、日本がいまやっていることを続ければ、数年のうちにおかしくなりますよ、と警告の意味で国債を格下げしたといっている。現時点をみれば、日本の国債は償還能力もしっかりしているし、格下げはおかしい。
――ムーディーズがトヨタを格下げしたときのトヨタの反応は素早かったですが、トヨタの格下げといい、現時点では明らかにおかしい国債の格下げといい、ムーディーズは何を狙っているんでしょうか。(筆者注:1998年8月、ムーディーズが長期雇用を理由に、トヨタの社債を格下げした。絶大な力を持ち始めたムーディーズの格付けに異を唱える日本の経営者はまったくといっていいほどいないときに、奥田は「トヨタが格下げなんて言われる筋合いはない」と真っ向から反論した)
奥田 格付け会社、ヘッジファンド、証券会社などの金融のツールを使って、日本市場で一儲けしようと考えているんじゃないか、と個人的には思う。ムーディーズは金儲けの道具のひとつだろう。
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