CVT(無段変速機)を燃費向上のための重要技術に位置付けている日産自動車は7月22日、元日産系の変速機メーカー、ジャトコとの共同開発による新型CVTを発表。その新型CVTを実装したコンパクトカー『ティーダ』に試乗する機会を得た。
新型CVTの大きな特徴の一つが、既存のCVTをはるかに凌駕する変速レンジの広さだ。変速機のレンジは、変速比の最低値と最高値の比率であるオーバーオールレシオで示される。オーバーオールレシオの値が大きい方が、より幅広い変速ができるのだ。
CVTは通常、オーバーオールレシオが5から6前後。今年に入ってスバルが新型『レガシィ』にワイドレンジ化に有利なチェーン方式のCVTで6.3を実現した。新型CVTはこのレシオを一気に7.3に引き上げた。すべての実用車のCVTを大幅にしのぐばかりか、トヨタがレクサス『LS460』などに採用している8速ATの6.7をも上回る数値。実用車のなかでは最も変速レンジの広いトランスミッションと言える。
このワイドレンジ化は少し面白い手法で実現されている。CVTのベルトを掛ける部分の仕様変更で無理に変速レンジの拡大を図ると、プーリーと呼ばれる部品がかなり大型化してしまう。そこで日産はベルトをかけるところはむしろ小型化して変速比も4.1ときわめて小さい数値とされている。そのままだと変速レンジが狭すぎるので、変速機の出力側に遊星ギアを用いた2段切り替え式の副変速機を増設し、その切り替えでオーバーオールレシオを7.3に拡大しているのだという。
試乗会では現行CVTと新型CVTを乗り比べることができた。現行CVTは時速60km程度の速度で少しトルクを出すと、すぐにCVTがダウンシフトしてしまい、エンジン回転数が2000rpmを超えてしまう。CVTを得意としてきた日産だが、さすがに旧世代の印象は否めない。
それに対して新型CVTは、急加速時のレスポンスが鋭く、変速レンジも非常にワイド。いったん巡航モードに入ると、アクセルを少し踏み込んだくらいでは回転数が上がらず、低回転でスロットルは開け気味という、エンジンの最も効率がいい部分を意のままに使えるという印象だった。遊星ギア式副変速機のロー、ハイの切り替わりはまったく体感できなかった。
フィーリング的には、負荷が比較的低いときにはホンダが『オデッセイ』や『インサイト』などに採用している「ECONモード」をONにしたときのように、エンジンにとって最も高効率なところを積極的に使用し、アクセルペダルをぐっと踏み込むとそのECONモードが自動的にキャンセルとなり、フルパワー運転が可能になるというもの。現行型のティーダに比べ、新型CVTは省燃費走行が格段に容易になったことは間違いない。
ちなみにこのCVTの採用により、「今年改良を受けるティーダの10・15モード燃費は、マイナーチェンジ前のモデルに比べて10%ほど向上することになる」(日産関係者)という。