国内市場とは対照的な右肩上がり
自動車輸出が過去最高ペースで推移している。2008年度は初めて700万台に乗せる見込みで、日本の自動車産業が輸出で急成長していた1980年代半ば以来の記録更新となる。
輸出の伸びで、1990年代後半には低迷していた国内生産も堅調だ。国内工場は最先端の生産技術を生み出す場でもあり、生産数量が落ち込むと、そうしたモノづくり技術にも影響する。国内市場が縮小するなかでの輸出拡大は生産技術を進化させるうえでも、大きな援軍だ。
日本自動車工業会の統計によると、4月の自動車(4輪車)輸出は前年同月比20%増の58万4000台となった。05年8月以降、2年9か月連続のプラスを維持している。ほぼ同じ時期に、国内販売が落ち込むトレンドとなっているのとは好対照に右肩上がりを描いている。
◆設備廃棄につながった90年代半ばの低迷
3月までの07年度ベースでは677万台となって、過去最高だった85年の685万台にほぼ肩を並べるレベルになった。80年代から90年代初頭に、貿易摩擦を繰り返しながら日本メーカーの競争力の基盤づくりに貢献したのは輸出だった。
しかし、90年代に入ると海外生産の拡充によって徐々に減少。バブル崩壊で国内需要も減退した95年度には400万台を割り込むまで縮小したこともある。その当時から、各社は国内設備の余剰と廃棄という苦しい局面にも立たされた。
ここ数年の輸出復活は、海外生産展開を上回るペースで新興諸国の需要が拡大したことが大きい。もちろん、メーカー各社の競争力あるクルマづくりと市場開拓の努力があっての成果である。
◆足元に一定の生産量をもつ重要性
トヨタ自動車の張富士夫会長は、一定の輸出と国内生産維持の重要性をよく指摘する。同社をはじめとする日本各社の競争力の源泉である生産現場の強みを保持するには「足元に一定の生産量をもつ工場が必要」だからと言う。
生産量が維持されることで現場の人材も育ち、そこから最新の生産システム(生産技術)を生み出すことができる。そして、その技術を世界の工場に展開するという循環ができている。
張会長が指摘する「一定」の国内生産数量とは、業界ベースで1000万台以上だ。ちなみに輸出が最高レベルとなった07年度の国内生産は1180万台。02年度から6年連続でプラスとなっている。
輸出頼みだと為替変動への懸念はあるが、多少の円高で日本車の競争力が削がれることはない。国内市場の低迷が、この先も続きそうな情勢だけに、ここに来ての輸出の健闘は、生産技術力の進化という点でも、より大きな意味をもつのである。