シルビア、ケンメリ、フェアレディ…必見! 名車と懐かしい時代を味わえる日産のVRサービスが登場

「NISSAN Heritage Cars&Safe Driving Studio」のVR空間に再現されたダットサンフェアレディSLP213(1960年)。
  • 「NISSAN Heritage Cars&Safe Driving Studio」のVR空間に再現されたダットサンフェアレディSLP213(1960年)。
  • S13シルビアQ's(1988年)。この画像はVR内で撮影した画像の露出をちょっとだけ明るくしています。肉眼ではもう少し暗く見えるかもしれませんが、昭和の終わり、平成の初め頃の雰囲気が良く出ていると思いませんか?
  • シルビアの向こうに薄暗くぼんやり浮かぶ横浜ベイブリッジ。ライトアップもされずクルマが走っていませんが、横浜ベイブリッジの開通は1989年なので開通前の風景なのかもですね。
  • こんな感じで、トレンディドラマ撮影ごっこもできる。
  • '80年代ギャルのファッションに身を包んだマネキンを使って行う服の色の違いによる視認性の実験。
  • スタジオ01の操作パネル。手前のデカいレバーをガチャンと押し込むとエラく派手な実験が始まる。
  • 現代風のモノトーンファッションでも、バッグなどを工夫して視認性を上げられる。
  • 交通安全未来創造ラボの相模女子大学角田千枝特別研究員 (相模女子大学学芸学部生活デザイン学科教授)による研究レポート。

日産自動車は『シルビア』『スカイライン』『フェアレディ』という過去の名車をハイクオリティなVR上で体験できる「NISSAN Heritage Cars&Safe Driving Studio」を公開した。

3つの撮影スタジオという設定で、各時代の名車がある風景を楽しめる。VRとはいえ実車なみの美しさを堪能できる魅力的なコンテンツだが、実は交通安全の啓発も目的としている。旧車×交通安全というとりあわせの意外なマリアージュを紹介しよう。

◆大人気デートカー「シルビアS13」と夜景を楽しむ

今回VRで体験できるのはシルビアS13 Q's(1988年)、スカイライン2000GTX-E(1976年、いわゆるケンメリ)、ダットサンフェアレディ(1960年)の3台。

S13シルビアQ's(1988年)。この画像はVR内で撮影した画像の露出をちょっとだけ明るくしています。肉眼ではもう少し暗く見えるかもしれませんが、昭和の終わり、平成の初め頃の雰囲気が良く出ていると思いませんか?S13シルビアQ's(1988年)。この画像はVR内で撮影した画像の露出をちょっとだけ明るくしています。肉眼ではもう少し暗く見えるかもしれませんが、昭和の終わり、平成の初め頃の雰囲気が良く出ていると思いませんか?

最初のスタジオ01にはシルビアS13がいる。ただし、S13だけどK'sじゃなくてQ's。しかも1800ccの初期型だ。VRだからエンジンはなんでも良いのだが、それでも初期型Q'sにしたのは、座間にある「日産ヘリテージコレクション」に実車が所蔵されているからだろう。

初代シルビア(1965年)は、「スペシャリティカー」(スポーツカー的なルックスや性能で快適性も重視)の元祖とされているが、5代目のS13シルビアは、その流麗なデザインとカラーリングからバブル期のデートカーとして大人気だった一方で、コンパクトでハイパワーなFR車として走り屋にも人気という希有な存在だった。

J's、Q's、K'sという3グレードがあり、モテたいナンパな大学生はお手頃なJ'sを親にねだり、走り屋はターボ付きでハイパワーなK'sを買って硬派を気取りつつ、でもちょっと女の子ウケを密かに狙った。

そういう意味でQ'sは、お金はケチらず走り屋でもない、大人のためのデートカーだと言えるかも。とにかく'80年代終わりから平成初期のバブルな気分を代表するクルマだったのだ。

シルビアS13が置かれたスタジオ01は東京湾岸の夜景で、彼方には白く輝く横浜ベイブリッジが見える(まだレインボーブリッジは無かった!)。特定の場所を再現した訳ではなく、発売当時にシルビアS13が置かれたであろう架空の風景だという。

シルビアの向こうに薄暗くぼんやり浮かぶ横浜ベイブリッジ。ライトアップもされずクルマが走っていませんが、横浜ベイブリッジの開通は1989年なので開通前の風景なのかもですね。シルビアの向こうに薄暗くぼんやり浮かぶ横浜ベイブリッジ。ライトアップもされずクルマが走っていませんが、横浜ベイブリッジの開通は1989年なので開通前の風景なのかもですね。

さらに正確に言うと、ここは80年代トレンディドラマの夜景の撮影セットなのだ。だから撮影用のクレーンや巨大なフラップがついた撮影ライト、(とんねるずの石橋貴明がオールナイトフジ生放送中にぶっ壊した)1000万円もするテレビカメラっぽいのも置かれている。

なんならトレンディドラマの撮影ごっこだってできる。というか、日産はそういう使い方もしてほしいらしい。

こんな感じで、トレンディドラマ撮影ごっこもできる。こんな感じで、トレンディドラマ撮影ごっこもできる。

VRChatにはズームもできるカメラ機能があって、誰でもワールド内の撮影ができる。最近は「VRカメラマン」と自称する人たちも現れているが、今回のワールドでは、クルマ好きなら誰でもバシャバシャとシャッターを切りたくなるだろう。

◆夜のデート服は視認性にご注意!?

だけど、このスタジオの本当の目的は別にある。それは服装の違いによる安全性の違いを体感することだ。夜間は着ている服の色によってドライバーからの視認性が異なる。言われれば想像はできるが、実際にどのくらい違いがあるか体感した人は少ないだろう。

このスタジオでは、80年代の典型的なイケイケギャルのファッションと現在のファッションを題材に、夜間の視認性の違いをリアルに体感できる巨大実験施設なのだ(VRだけど)。

日産自動車は産学協同で「交通安全未来創造ラボ」という仮想研究所を運営。大学の先生と日産の研究者が協同で安全運転に役立つさまざまな実験や考察をしている。

このスタジオ01では、夜間に運転者から見て視認しやすい服と見えにくい服の違いについて実験できる。スタジオに置かれた操作パネルの巨大レバーをガッチャンと倒してスイッチを入れると、目の前の海を割ってバン! バン! と床がせり上がってきて、シルビアS13の前に巨大な桟橋が形作られる。

スタジオ01の操作パネル。手前のデカいレバーをガチャンと押し込むとエラく派手な実験が始まる。スタジオ01の操作パネル。手前のデカいレバーをガチャンと押し込むとエラく派手な実験が始まる。

続いてオレンジのボタンを押すと、桟橋の下からスパッ! と80年代の肩パッド入りスーツを着たマネキンが現れる。その素早い出現を現わすアニメーション効果がいちいち格好良い。

'80年代ギャルのファッションに身を包んだマネキンを使って行う服の色の違いによる視認性の実験。'80年代ギャルのファッションに身を包んだマネキンを使って行う服の色の違いによる視認性の実験。

80年代のイケイケお姉ちゃんたちが着てたスーツは目立つ明るい色が多かった。だから、真っ暗な埠頭でシルビアS13のヘッドライトに浮かび上がる姿は運転席からも視認しやすい。間違って轢いちゃうリスクは低くなる。

操作盤を切り換えると、今度は現代風のモノトーンファッションのマネキンが出現する。昼間なら視認できるモノトーンは、夜間には見えにくくかなり危険だ。バブル期のギラギラファッションは夜間でも安全で、現代の洗練されたファッションは危険ということになる。

安全のためとはいえ、令和のデートにバブルファッションで行くのも辛い。そこで最後のボタンを押すと、マネキンはモノトーンファッションのまま、白いバッグに持ち換える。そんな小さな工夫でもかなり視認性が改善される。

現代風のモノトーンファッションでも、バッグなどを工夫して視認性を上げられる。現代風のモノトーンファッションでも、バッグなどを工夫して視認性を上げられる。

これは相模女子大学の角田千枝教授が、フィギュアと実車を使って行った実験成果をVRで再現したものだ。この実験では黒い服が夜間見えにくいだけではなく、ダークグレーの服は夜間も日中も両方で見えにくいことが判明したという。また高齢になると夜間に視認しにくい色の種類が一気に増えることも判った。

交通安全未来創造ラボの相模女子大学角田千枝特別研究員 (相模女子大学学芸学部生活デザイン学科教授)による研究レポート。交通安全未来創造ラボの相模女子大学角田千枝特別研究員 (相模女子大学学芸学部生活デザイン学科教授)による研究レポート。

こういう話は、聞けば「なるほど」と思うが、実際にVRで体験してみると、よりヒシヒシと感じられる。筆者は60歳だが普段は老眼鏡も使ったことがなかった。しかし、このスタジオ01のVR体験では、視力の衰えを実感した。なるべく夜間の運転は避けようと思う。

◆ケンメリ・愛のスカイライン

続いてスタジオ02では、スカイライン2000GTX-Eが待っていた。ケンメリこと「ケンとメリーのスカイライン」だ。流麗なサーフィンラインのボディとお洒落なカップルの旅を描いたTV CMで「クルマとともにあるライフスタイル」を日本人に印象づけた。「あ~い~(愛)の~スカ~イライ~ン」※というCMソングは小学生だった筆者の耳にも深く刻まれた。

ドライブシミュレーターのダイナモに乗せられたスカイライン2000GTX-E。VRなのにちゃんとダイナモまで作り込むこだわりが素晴らしい。ドライブシミュレーターのダイナモに乗せられたスカイライン2000GTX-E。VRなのにちゃんとダイナモまで作り込むこだわりが素晴らしい。

自動車好きの読者は、ケンメリと聞くと排ガス規制に対応できず197台しか作られなかった幻の「ケンメリGT-R」を思い浮かべる人が多いだろう。しかし、今回VRで展示されているのは、低公害化のためにキャブ仕様から電子制御のEGI仕様に変更した1976年の後期型上級グレードの2000GTX-Eだ。後期型なので正確にはC111型になるはずだ

ケンとメリーの2人が仲睦まじく日本各地を旅して回るCMは全部で16本も作られた。今も昔もクルマのCMは、主役であるクルマの映像が中心だ。ところがケンメリのCMは、C110/C111型スカイラインの映像は控え目で、ケンとメリーのノンビリした旅の様子に随分と尺を使っていた。

個人的にはC110/C111型はスカイライン史上もっとも美しいボディラインだと思っているが、あえて映像の主役をケンとメリーにしたことは、高度成長期が終わって成熟期に入った日本社会が、クルマというハードウェア=モノ中心から、ライフスタイル=コト重視にシフトしだしたことを象徴していた……、と半世紀近く経った今、改めて思う。

C110以降のスカイラインを象徴するようになった丸形四灯のテールランプ。外側と内側のランプは大きさが違うように見えるが、実はランプ本体の外形は外も内も同じ大きさというのはトリビア。C110以降のスカイラインを象徴するようになった丸形四灯のテールランプ。外側と内側のランプは大きさが違うように見えるが、実はランプ本体の外形は外も内も同じ大きさというのはトリビア。スカイラインGTX-Eの内装も丁寧に再現されている。ステアリングは部分革巻きの強化木製。メーターやカーステレオの回りも同じくウッドスタイルなのが当時はオシャレで高級感があった。スカイラインGTX-Eの内装も丁寧に再現されている。ステアリングは部分革巻きの強化木製。メーターやカーステレオの回りも同じくウッドスタイルなのが当時はオシャレで高級感があった。

実際、このCMキャンペーンは大当たりして、ケンメリ・スカイラインは歴代スカイライン最高の累計販売約66万台を達成した。我が父も白いケンメリのスカイライン・ワゴンに乗っていた(商用バンではない、お洒落なワゴンの先駆けもケンメリだった)。そういう意味で、今回VR化されたのがGT-Rではなく、後期型の2000GTX-Eだったのは、クルマがあった各時代のライフスタイルをVRで再体験できる今回のVRの文脈として納得だ。

※「愛のスカイライン」というキャッチフレーズは「ハコスカ」こと3代目スカイラインC10型のキャッチフレーズだったが、4代目スカイラインC110でも、引き続き使われた。ハコスカはGT-Rの活躍でスポーツイメージが強くなってしまったため、4代目のCMキャラ「ケンとメリー」は「愛のスカイライン」としてのイメージ再生戦略から生まれたものなのかもしれない。

◆運転中のあなた、本当に見えていますか?

このスタジオ02はドライブゲームになっている。スカイライン2000GTX-Eは、ダイナモの上に載せられ、周囲を270度くらいの巨大スクリーンで囲まれている。

ドライブシミュレーターの全景。180度ではなく270度近く後ろまで回り込んだシミュレーター映像というのは、現実世界でやるのは大変そう。VRならではのソリューションかもしれない。ドライブシミュレーターの全景。180度ではなく270度近く後ろまで回り込んだシミュレーター映像というのは、現実世界でやるのは大変そう。VRならではのソリューションかもしれない。ドライブゲームのプレイ中画面。横断歩道を渡ろうとする動物がいたら、危険を予知して早めにスムーズに停止しなければならない。ドライブゲームのプレイ中画面。横断歩道を渡ろうとする動物がいたら、危険を予知して早めにスムーズに停止しなければならない。

スカイラインに乗り込んでゲームを開始すると、ダイナモとタイヤが回り、スクリーンの映像が後ろに流れていくことで、ドライブ気分を味わえる。カーブがない単純にまっすぐな道だけだが、ときどき信号と横断歩道があって、馬や鹿など動物が渡る。適切なタイミングでブレーキを踏まないと減点されてしまう。最初にやったときは、うまく止まったつもりなのに最低点でガッカリしたが、日産の担当者からは「みんな、そんなものです」と慰められた。

気を取り直して、ビデオゲームではなく本当にクルマを運転しているつもりで、真面目に危険予測をしながら周囲に気を配り、早めのスムーズブレーキを心がけた。ちょっとミスはあったが、まあまあの点数となった。単なるゲームではなく、ドライブシュミレータとしてもちょっとガチだったのだ。

ゲームはブレーキのタイミングだけでなく、道路の脇にいた動物をあとから当てるクイズもあって、こちらはさらに難しくて1回目は全滅、2回目は3問中1問だけ正答できた。

このゲームの目的は、ドライブ中の「有効視野」について体験することだ。

北里大学が中心になって行った実験では、被験者に画像中央に集中させて画面に合わせてブレーキやアクセルの操作を行わせて、危険に対する反応時間や停止距離を計測した。その結果、単純なタスクでも高齢者の反応時間は遅くなり、タスクが複雑化すりと若年者でも反応時間が遅くなったという。

交通安全未来創造ラボの川守田拓志 特別研究員(北里大学 医療衛生学部 リハビリテーシ ョン学科 視覚機能療法学専攻 准教授)による研究レポート。交通安全未来創造ラボの川守田拓志 特別研究員(北里大学 医療衛生学部 リハビリテーシ ョン学科 視覚機能療法学専攻 准教授)による研究レポート。

つまり、何かに注意が向いていると視界にあっても見えないことがある。ドライバーは思ったより見えていないし、歩行者は思ったより見られていないのだ。

これも「言われればそうだよね」と思うがVRで実際に経験することで、より納得して記憶に刻むことができる。

◆フェアレディと共に「アメリカン・グラフィティ」の世界へ

最後のスタジオ03に登場するのはダットサンフェアレディだ。現在のフェアレディZの源流となった、1960年1月に北米向け輸出専用に作られた小型オープンスポーツだ。

日産ヘリテージガレージに実車収録されているダットサンフェアレディSPL213を忠実にVR化。その美しいボディはいくらでも眺めていられる。日産ヘリテージガレージに実車収録されているダットサンフェアレディSPL213を忠実にVR化。その美しいボディはいくらでも眺めていられる。

VRに展示されているのは同年10月に圧縮比を上げて48psから55psにパワーアップされたSLP213型だ。初期のSPL212型と合わせて合計500台程度しか作られなかった稀少なクルマだが、これも座間の日産ヘリテージコレクションに収蔵されていて、実車を見ることができる。

55psはスポーツカーとしては非力に思えるが、890gという軽量ボディのおかげで充分にスポーツカー気分を味わえたそうだ。当時の米国市場で想定ライバルは英国製ライトウェイトスポーツカーだったという。同時期に販売されていたトライアンフ『TR3A』(100ps)や『MGA』(72ps)に比べると馬力では負けていたけれど、良好なパワーウェイトレシオやオープンなのに4人乗車できたこと、丸みを帯びたちょっとファニーなデザインなどが、当時の米国でそれなりに人気を得た理由だったろうと想像できる。

ダットサンフェアレディSPL213の丸みを帯びたテールの美しさもしっかり再現されている。ダットサンフェアレディSPL213の丸みを帯びたテールの美しさもしっかり再現されている。

今回のVRフェアレディが置かれたスタジオ03は、ドライブインシアターとネオンサインが輝くアメリカンダイナーの組み合わせだ。SLP213型が発売された1960年ごろの米国のモータリゼーションを象徴するのが、ロードサイドに作られたドライブインシアターやダイナーだった。

クルマに乗ったまま映画を鑑賞できる「ドライブインシアター」の歴史は1933年に始まり、全盛期の1950年代末から1960年代初頭には、全米で4000以上のシアターがあったという。

スタジオ03の「ドライブインシアター」としてはだいぶ小規模だが、個人や友人・家族で映像を楽しむプライベートシアターとしては十分な大きさだ。スタジオ03の「ドライブインシアター」としてはだいぶ小規模だが、個人や友人・家族で映像を楽しむプライベートシアターとしては十分な大きさだ。

安価でカジュアルなレストランを意味する「ダイナー」の歴史はもう少し古く、1940年代から1950年代が全盛期らしい。とはいえ、1960年以降に建てられたダイナーで現存するものもあるから、スタジオ03のフェアレディとシアターとダイナーがある風景は、1960年の米国にあったかもしれない光景だ。

ネオンサインが美しい、いかにも50年代風のアメリカンダイナー。残念ながら中は入れない。まあ、これだけ凝ったワールドを作った上にダイナーの中まで作るのは大変すぎるので仕方ない。ネオンサインが美しい、いかにも50年代風のアメリカンダイナー。残念ながら中は入れない。まあ、これだけ凝ったワールドを作った上にダイナーの中まで作るのは大変すぎるので仕方ない。

いわばジョージ・ルーカス監督の映画『アメリカン・グラフィティ』の世界に飛び込んだような体験ができる。あの映画にダットサンフェアレディは登場しないけど、自動車が青春の重要なアイテムとなっていた作品だ。

スタジオ03には2台のフェアレディSLP213型が置かれている。赤白ツートンのボディは、日産ヘリテージコレクションにある実車をVR化したものだが、もう1台のピンクとグリーンのツートンの方は「こんなのがあったらいいな」というVR制作陣の妄想を実体化させたものだ。実車は存在しなかった可能性が高いが、これがなんとも可愛い。3D CGの質感も配色のせいかこちらの方がよりリアルに感じられる。VR空間で見ると本当のそこにあるようで愛おしい。

◆ダットサンフェアレディをプライベートシアターのシートに

スタジオ03では、野外シアターのスクリーンを使って3種類のコンテンツが上映できる。ひとつは「おもいやりライト」。より早めにヘッドライトをつける啓発運動の動画だ。

もうひとつは「ハンドルぐるぐる体操」。日々の生活の中で運動習慣をつけることを目的として、本来は高齢ドライバーの安全走行を支援するために日産自動車が新潟大学と開発したものだが、映像の中では子供たちが楽しげにおもちゃのハンドルで楽しんでいる。高齢者だけでやるとちょっと気恥ずかしい気持ちになりそうだが、小さな孫と一緒なら楽しくできそうだ。

スタジオ03での「ハンドルぐるぐる体操」の様子。スタジオ03での「ハンドルぐるぐる体操」の様子。

VRやメタバースの用途として、フィットネスは重要なコンテンツで、米メタ社がVRフィットネスサービスを買収して傘下で運営させているほどだ。そちらは有料だしまだ日本では利用できないが、ハンドルぐるぐる体操なら無料で気軽に楽しめる。運動不足の人は試してみてはいかがだろうか。

スタジオ03のシアタースクリーンの3つめの用途は映像鑑賞だ。操作パネルにYouTube動画のURLを入力すると好きな映像を再生できる。VRChatのワールドはPublic(公共)の利用だけでなく、自分だけ、仲間内だけのプレイベートで使用することもできる。友達とスタジオ03に集まって好きな映像を鑑賞するという使い方も楽しいだろう。

◆お楽しみはこれからだ

日産自動車は2021年からVRChatを使ったさまざまな広報PR活動をやってきた。

銀座4丁目に実在するショールーム「NISSAN CROSSING」をメタバース上に再現してそこで、フェアレディZのデザイナーのよる自動車デザインセミナーを開催したり、軽EVの日産『サクラ』のお披露目会や試乗会、EVの『アリア』を使ったV2Xの活用体験などで、クルマの楽しさを発信したりEVの認知向上に役立てたりしてきた。

日産自動車はVR/メタバース上でさまざまなユーザー向け企画を実施してきた日産自動車はVR/メタバース上でさまざまなユーザー向け企画を実施してきた

メタバースの利点は、新車を間近に見たり乗ってみたりという体験を時間と空間を越えてできるだけでなく、そこにコミュニティがあり体験の共有の和が広がっていくことだ。従来のオンラインコミュニティやSNSを越えた印象深い体験がそこにある。

グローバル企業としても、自動車企業としても世界に先駆けてメタバース/VRChatの活用をしてきた日産だが、今回の「NISSAN Heritage Cars&Safe Driving Studio」は従来のVRワールドよりも明らかにワンランク上の体験を提供している。

従来のワールドに置かれたクルマたちも形状は正確だったが、今回の名車たちにはクルマならでのシズル感がある。いままでのVRでは物足りなかったクルマとしてのエモさが今回のワールドには感じられた。

3D CGの専門的な話をすると、クルマのボディのリアルな光の反射を再現するために、それぞれに最適化した環境光を配置すると言った制作上の細かい工夫がされている。スタジオ02のドライビングシミュレーターも単に映像を流しているのではなく、シミュレーターの中に1つの街並みを3Dで作り込んで、その街がスカイラインの周囲を移動することで実現している。メタバースの中にもうひとつVRを作り込むような凝った作りなのだ。

VRChat上のワールドとしては最高レベルにリアルなCG表現は、企業のメタバース活用に新しい可能性をもたらしたと言える。VRChat上のワールドとしては最高レベルにリアルなCG表現は、企業のメタバース活用に新しい可能性をもたらしたと言える。

そのこだわりのおかげで、クルマ好きが時間と空間の制約を超えて体験したくなる、VRでクルマの写真を撮りたくなるワールドとなった。もちろん完成度を上げる余地はまだまだありつつも、日産のVRワールドは今回新しいステージに登った感がある。

VRChatじたいもAndroidスマホへの対応や多言語対応など、ライトユーザーに向けて裾野を広げる動きが加速している。近い将来iOSへの対応もありそうだ。今後、他の自動車メーカーも追随して、メタバース内でも開発競争が起きたら面白そうだ。

《根岸智幸》

編集者、ライター、メディアコンサルタント、ソフトウェアエンジニア 根岸智幸

ITと出版とオタクの何でも屋。グルメや女性誌や芸能やBLマンガもやりました。キャンギャルやコンパニオンの写真も撮ったりします。 ・インターネットアスキー編集長(1997-1999) ・アスキーPC Explorer編集長(2002-2004) ・東京グルメ/ライブドアグルメ企画開発運営(2000-2008) ・本が好き!企画開発運営(2008-2013) ・BWインディーズ企画運営(2015-2017) ・Webメディア運営&グロース(2017-) 【著書】 ・Twitter使いこなし術(2010) ・facebook使いこなし術(2011) ・ほんの1秒もムダなく片づく情報整理術の教科書(2015) など

+ 続きを読む

【注目の記事】[PR]

編集部おすすめのニュース

特集