【川崎大輔の流通大陸】整備業界に追い風か、政策に揺れる輸入大国ミャンマー

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サカイ&ポールスター社の整備工場
  • サカイ&ポールスター社の整備工場
  • 整備工場の外観
  • サカイ&ポールスター社鈴木氏
  • 整備ピット
  • 整備工場内
  • ヤンゴンの渋滞
  • 市内の渋滞

ミャンマーの日系整備会社“サカイ&ポールスター社”

クラクションの音とごった返す車を数センチの幅でかわして走る大量のタクシー。ミャンマーを初めて訪問した人は朝夕のヤンゴン市内における渋滞度合いに驚くだろう。しかも、ほとんどが日本車である。左ハンドルの国にもかかわらず、右ハンドルの日本車のシェアが高い。ミャンマーを走る自動車の90%近くが日本からの中古輸入車である。

そんな日本からの中古車が溢れ、経済成長がめまぐるしいヤンゴンに進出した日系企業がある。サカイ&ポールスター社(Sakai & Polestar Automobiles)だ。2014年4月に日本の自動車整備会社である坂井モーターと現地大手旅行会社のミャンマーポールスター社との合弁でミャンマーに整備会社サカイ&ポールスター社を設立。2015年11月よりミャンマーで整備事業をスタートした。サカイ&ポールスター社でのサービス内容は自動車の整備全般だ。

現在は、日本人店長である鈴木氏、ミャンマー人メカニック8名、バックオフィス(受け付け、経理など)4名、通訳1名、運転手1名の合計15名で運営をしている。

工場は、ヤンゴン中心部から少し離れた場所にあり地元ミャンマー人をメインターゲットにしている。ミャンマーで整備ビジネスを継続していくためには、「リピーター顧客の獲得とハイエンド顧客へ対応が大きなポイントである」と鈴木氏は言う。

日本人が常駐している信頼感、あいさつやお見送りなど日本的な対応、日本からの高性能設備と高い技術を提供している。周りの整備工場との差別化をはかりハイエンドの固定顧客の獲得を目指している。

◆ミャンマーの整備ビジネスの現状と今後の展望

ミャンマーでは整備工場が1000以上あると言われているが実態は不明だ。しかし、しっかりした整備ができる整備工場が圧倒的に不足している。

ミャンマー政府に認められている整備工場は129店舗(2013)のみである。大型店は30店舗ほどしかなく、残りは小さなパパママショップである。車齢が高く、故障比率も高い中古車が市場の中心であるにもかかわらず、正しいメンテナンスができていない。

ミャンマー整備市場プレーヤーは大きく3つに分けることができる。1つが新車ディーラーの整備工場、更に地元の小規模なパパママショップ的な整備工場、最後に日系を含む外資系の整備工場となる。基本的に新車ディーラーの整備工場は、新車購入者をメインターゲットとしており、地元のパパママショップは中古車を購入する「安かろう悪かろう」の顧客がターゲットであった。

一方、中古車を購入する顧客の中にも、より高い技術、信頼できるサービスを求める層がでてきた。最近そのような中間顧客をメインターゲットに、日系含む外資系の整備工場がヤンゴンで事業を立ち上げている。現在、サカイ&ポールスター社を含め、5~6社の日系整備会社がヤンゴンに存在する。

サカイ&ポールスターがミャンマーに進出した理由を尋ねると、「現時点でのミャンマーでの自動車整備は、お客様の足元を見ながら行っているグレーな市場である。クリーンで誠実な整備ビジネスをミャンマーの整備業界に植え付けたいと思ったのが始まりであった」と語ってくれた。

現時点ではミャンマーで定期点検という考え方がまだ普及しておらず、壊れてから直すというのが一般的である。整備ビジネスにおいてもサービスが多様化することが予想されている。

◆やる気とハングリー精神をいかに活用するか

ミャンマーで整備ビジネスを行う課題は、「ミャンマーの自動車整備士としての資格や基準がなく、自動車に関する安全意識も少ないこと」であると言う。整備士学校もほとんどなく技術や知識を得る教育の場がない。きちんとした教育を提供できるかが、今後の事業展開にも影響を及ぼすだろう。

しかしながら、型にはまった教育というのも非常に難しい現状があるのを知っている。街中に無数にあるパパママショップの小規模整備工場では、いろいろな車種の部品を組み合わせた無国籍車を整備している。そのために日本と比較して別の意味で大変である。日本式の教育だけによる知識や技術は、ミャンマーの現場ではなかなか活用できない。

日本式の教育を、ミャンマーの整備ビジネスにいかせるようにカスタマイズしていくことがポイントだ。ミャンマー人のやる気とハングリー精神をうまく活用し、専門教育を提供することが大事だ。それにより、ミャンマー人メカニックの社会的地位の向上を目指すことが彼らの動機付けになっていくだろう。

ミャンマーには整備士制度がなく、国家資格として確立がされていない。また、ブルーカラー軽視のイギリス時代の伝統が整備士の社会的地位向上を妨げている感がある。ミャンマーに住む若者たちに働く場所を提供することはミャンマーの発展のために重要だ。また、単に整備工場を作れば良いわけではなく、工場のシステムの中で働けるだけの知識、技術を持つ労働者を教育していくことが必要だ。

ミャンマーで整備ビジネスを行う魅力は、「交通ルール(自動車関連の法制度)や、自動車教習所などを通じた安全基準、車両検査もないミャンマーの自動車市場であるが、それらが整った時の将来的な(整備事業への)アドバンテージを感じている」と鈴木氏は言う。

◆自動車市場の転換期

2017年1月1日から、ミャンマーの右ハンドル規制が始まった。到着する年とそれより2年前までの年式(=2015年、2016年、2017年)の乗用車、バス、トラックを輸入する場合は、左ハンドルに限定されることになる。

この自動車規制により日本からの中古車輸入市場は混乱している。一方で、日本の自動車メーカー各社には、市場の拡大を見込んで現地生産やアフターサービスなどの事業を本格化させる動きが広がっている。

ミャンマーは自動車政策が不安定で課題は山積している。しかしながら需要が段階的に新車に移る自動車市場の転換点を迎えている。変化が起きている市場には常に新しいビジネスチャンスが生まれる。整備事業の大きな広がりがそこに存在していることは間違いない。

<川崎大輔 プロフィール>
大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年半ばより「日本とアジアの架け橋代行人」として、Asean Plus Consulting LLCにてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。

《川崎 大輔》

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