先日、JR西日本が走行試験を公開した無線式の列車制御システム。同社が無線式の新システム開発を進めるのは、列車運行の安全性向上とともに「保守作業の安全性」も大きなポイントだ。
同社が開発を進める無線式列車制御システムの名前は「車上主体列車制御システム(無線式)」。「無線式ATC」とも呼んでいるという。大きな特徴は、地上と列車間で情報を常時やりとりすることで、きめ細かい制御ができることと、無線利用によって線路内の地上設備を削減できることだ。
開発は、JR東日本の同種のシステム「ATACS」をベースとして2008年度にスタート。吹田総合車両所内で基本機能の試験を行ったのち、2013年から山陰本線の園部~亀岡間約14kmで走行試験を行っている。この区間を試験に選んだのは、ダイヤに余裕があり試験列車を走らせやすいことのほか「川があり山があり、一般の平地よりも無線の伝わり方が難しい」(開発担当者)ため、テストを行う条件として適しているためという。
試験区間には、列車との通信を行う無線装置を沿線に1.5~3kmおきに設置しているほか、ポイントの転換や列車がどこまで進んでいいかなどの演算を行う「拠点装置」を亀岡・八木・園部の3カ所と、園部駅の留置線に設置している。無線の周波数はUHF帯で、アンテナは広範囲に電波を送るため比較的高い位置に設置。軌道回路は駅構内以外では使用せず、踏切の制御も無線によって行う。自動列車停止装置(ATS)の地上子は不要になるが、車両の位置情報を補正するための地上子は約1kmおきに設置している。
機能は基本的にATACSとほぼ変わらないが、ATACSが列車同士の距離などに基づいて制御を行う「移動閉塞」なのに対し、JR西日本のシステムは「移動閉塞ではなく、固定閉塞に近い形」(開発担当者)という。このほか、列車の分割・併結に対応している点は「独自」だという。
無線式とすることでの大きなポイントは、運転面での安全性向上のほかに「線路際の設備を減らせること」だ。無線装置は必ずしも線路にぴったり沿っておく必要はなく、拠点装置は「光IPネットワークでつながっているので、駅に置く必要すらない」(開発担当者)という。
設備の削減というとコストダウンがまず思い浮かぶが、JR西日本の担当者は「高度なシステムなので費用対効果ではプラスになると思うが、金額で言えば安くはなっていない」。設備削減の主眼は、列車の運行中に線路に入って行うメンテナンスを減らし、保守作業の安全性を向上させることが大きな狙いとなっている。
JR西日本は2017年度までに実用化のめどをつける方針だ。同社は2017年度までの中期経営計画で「お客様が死傷する列車事故ゼロ」「死亡に至る鉄道労災ゼロ」を目標に掲げている。
「線路内の設備を減らし、作業を減らすことで保守作業面での安全もより高められるのではないかと考えている」。新システムの走行試験で、JR西日本鉄道本部技術開発部の木村秀夫・技術主幹は報道陣の質問に対しこう語った。