【畑村エンジン博士のe燃費データ解析】その1…実用燃費から読み解く、ガラパゴス日本の「ハイブリッド」と「CVT」

エコカー 燃費
トヨタ アクア と ホンダ フィットハイブリッド
  • トヨタ アクア と ホンダ フィットハイブリッド
  • 【畑村エンジン博士のe燃費データ解析】画像1:分析対象機種
  • 【畑村エンジン博士のe燃費データ解析】画像2:e燃費データの絞り込み(数値の幅が広いため、対数としている)
  • 【畑村エンジン博士のe燃費データ解析】画像3:小型車の「e燃費」と「JC08燃費」
  • 【畑村エンジン博士のe燃費データ解析】画像4:自動車用エンジンの燃費特性の現実
  • 【畑村エンジン博士のe燃費データ解析】画像5:CVTによる燃費向上原理(出典:自動車技術Vol.65,2011/09、[No.2-01]日本機械学会2002年度年次大会講演資料集[VIII])
  • マツダ デミオ

現在の国産自動車の傾向は、1980年代に登場したスチールベルトによる無段階変速機「CVT」を搭載するモデルが自動変速機搭載車の半分以上を占め、またプリウスに代表されるハイブリッド車が販売台数の多くを占めることが大きな特徴となっている。

一方、欧米ではCVTの採用は一部の車種に留まり、ハイブリッドの普及も日本ほど進んでいない。その代わり、過給ダウンサイジングと多段トランスミッション(AT、DCT)(※1)の採用が主流になってきている。

日本のパワートレイン(PT)がガラパゴス化しているように見えるこの現象は、日本の道路事情が原因であるといわれる。平均車速が低くスムーズな変速が求められるため、ハイブリッドやCVTの燃費が良好であるというわけだ。

しかし、本当にそうなのだろうか。そこで、e燃費のデータを使ってハイブリッドとCVTの実用燃費を解析し、前述の原因説を検証する。合わせて、いま話題のディーゼルエンジン車の実用燃費の位置づけを明確にしようと思う。

◆e燃費とJC08燃費を比較する

まずはe燃費とJC08燃費の比較であるが、先に解析対象機種と解析方法について紹介しておく。同じクラスでエンジンやトランスミッションの異なる機種を取り上げてe燃費の解析を行うため、国産のBクラスの3車種・14機種(いずれも最新モデル)を選択した(画像1)。また、国内初のAMT(AGS)(※2)を採用した新型『アルト』を追加している。データ数の少ない機種については参考と考えていただきたい。

e燃費の元データには、車名・機種名、初年度登録年月、エンジン・トランスミッション種類、ハイブリッド有無他の車の情報と、走行距離、給油量、e燃費といった燃費情報がある。初年度登録から最新モデルを選択した上で、異常なデータを排除するために走行距離とe燃費のグラフを作成し(画像2)、給油までの走行距離100~1000 [1500] km、e燃費5~30 [50] m/リットル([  ]内はハイブリッドとディーゼル)の範囲外のデータを排除した。

また、e燃費の平均値としては、それぞれの値を平均するのでなく、走行距離の重み付けのため走行距離の合計値を総給油量で割り算して求めた。JC08燃費は、同一機種内での最大と最少の平均値を採用した。

機種別のe燃費(実用燃費)の平均値とJC08の燃費(カタログ燃費)値を画像3に示す。このグラフから、実用燃費とカタログ燃費に乖離があることがわかる。さらに見ていくと、当然ながらハイブリッドとディーゼルのJC08燃費とe燃費が従来PTより高い。しかし、それぞれ傾向が異なっていることがわかる。ハイブリッドのJC08燃費は他より抜き出ている(ガソリンAT/MT比+66%)が、e燃費を見ると他のガソリンPTからの向上代は+42%で、ディーゼルエンジンとは同等レベルにある。また、CVTについてもJC08燃費はATやMTより優れているが、高圧縮比の高効率エンジン採用にもかかわらずe燃費については同等か、劣っているものもある。

◆燃費とトランスミッションの関係

次に、従来の自動車用ガソリンエンジンの熱効率を画像4に示す。この図は、横軸に回転数、縦軸に負荷を取っており、図中の点は車重1500kg/出力160kWの乗用車がJC08モード走行する場合の1秒毎の運転ポイントを示している。

このエンジンの最高熱効率は34%であるが、モード走行では低回転低負荷の熱効率の悪い領域ばかり使っている。そのため平均熱効率は20%以下という不都合な状態になり、自動車の燃費が悪くなる主因となっている。また、熱効率は負荷の低下とともに急激に低下するので、同じ6kWの出力でも2000回転では熱効率15%であるが、1500回転では18%となり、20%の燃費差が発生する。

燃費とトランスミッションの関係を見ていこう。画像5は、トランスミッションの違いによるエンジンの運転領域を表すものだ。この図を見ると、多段トランスミッション(DCT、Step_AT:赤い部分)の運転領域が広く分布しているのに対して、エンジン回転数を自在に制御できるCVT(青い部分)ではBSFC(正味燃料消費率)(※3)の谷の最適ラインに沿う形で分布させることができる。

その結果、より高いエンジンの熱効率で運転できるため、走行燃費が向上する。特にモード走行のように、あらかじめ決められたパターンにあわせて最適化すると、さらに大きな燃費向上効果が得られる。実際には下図に示すようにCVTは駆動抵抗損失が大きいため、エンジンの熱効率向上から得られるものより向上幅は小さくなる。もともと高負荷領域を使う高速走行ではエンジンの効率向上効果が少ないため、CVTの大きな駆動損失の影響でMTやATより燃費は悪化傾向になる。

ハイブリッドの場合は、その機構は電気CVTとも言えるもので、CVT以上にエンジン回転数を自由に制御できる。加えて、大部分を燃費ベスト点で運転して余剰した電力はバッテリに充電することができる。その電力とブレーキ回生電力を合わせてEV走行するという使い方ができるため、2倍近いモード走行燃費の向上が可能になる。

◆実用燃費に影響を与える要素

ところが、実際の道路の走行になると様子が異なってくる。実際の車の走行は、道路事情やドライバーの特性によってさまざまであるが、JC08と実用燃費は20%程度の乖離があると言われている。これは、エアコンほかの電装品の影響や走行パターンの違いが原因と考えられる。

10・15モードもその改良版のJC08も、もともと排ガス計測のために作られたもので、車の燃費計測のために作られたモードではない。最近の世界共通モードの研究の中で測定された結果では、日本での平均的実走行の方がJC08よりも平均速度や加速度が高いことが報告されている。

多段トランスミッションの場合は、制御の自由度が少ないために、モード走行中のエンジンの燃費ベスト点に精度よく運転領域を設定できないが、実走行でのエンジン負荷が高まるとエンジンの熱効率が急激に向上する。加えて、運転領域の設定が精密でない分、JC08の運転領域から外れた場合も燃費の悪化は小さくて済む。このようなことからJC08との燃費値の乖離が少ない結果になったと推定される。

《文:畑村 耕一》
《まとめ・編集:吉澤 亨史》

<専門用語解説>
※1:DCT(Dual Clutch Transmission):マニュアルトランスミッションに二つのクラッチを搭載して、スムーズな変速と高い伝達効率を両立させた。
※2:AMT(Automated Manual Transmission):マニュアルトランスミッションのクラッチと変速操作を自動的に行うようにしたもので、変速時の違和感の問題はあるが、低コストで伝達効率が高い。
※3:BSFC(Brake Mean Fuel Consumption):正味燃料消費率、エンジンの効率(逆数)を示す指標

《吉澤 亨史》

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