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【川崎大輔の流通大陸】戦国時代のタイ中古車テント

エマージング・マーケット 東南アジア

タイのバンコクではここ数年、急速に自動車市場が拡大してきている。そのような状況を受けて中古車市場の活況も予想されており、日本からはオートローン市場に熱い視線が注がれている。

2014年3月には日本の自動車ローンであるプレミアファイナンシャルサービスがタイの上場企業であるイースタン・コマーシャル・リーシングと中古車市場における金融ノウハウを交換するパートナーシップ契約を締結した。

2015年3月末、信販大手オリエントコーポレーションはタイで中古車ローンを中心とする自動車ローン事業に参入すると発表した。このようなタイオートローン市場への参入に勝算があるのか、タイ中古車流通市場の中心となるテントと呼ばれる中古車販売店の現状に迫ってみた。


◆“テント”が中心のタイ中古車流通市場

タイでは急速に中古車市場が拡大した。購買力のある中間層の広がりを背景に新車販売が増えたためだ。タイでの中古車流通市場のメインプレーヤーは“テント”である。ビニールの屋根を張っただけの簡易なつくりの中古車販売店が多くテントと呼ばれ始めたようだ。

テントが多く集まっている場所の1つとしてラチャダピセーク通りやシーナカリン通りがある。車で走れば道路の両側に派手な看板を出した中古車センターであるテントが左右に点在している。一般的にテントのオーナーは販売業者に場所を貸し、事業にはタッチしない。

1つのテント内には30~50区画ほどの個人販売業者が入っている。1区画に車15台~20台程度停(と)められる駐車スペースと箱のようなオフィスブースに電話1本で商売をしており、ブローカー(仲介屋)の集積場所といったイメージだ。昔の日本の中古車業界のように、タイ中古車流通市場は不正が多い。事故歴を開示せずに中古車を販売し、メーター不正操作なども横行している。在庫展示販売が一般的で、一定期間内に販売できなかった中古車は業者間でタマ(中古車)を交換し合っている。中古車の保証はなく現状渡しで売りっぱなしが基本であり購入前に中古車の良し悪(あ)しをしっかりと見分ける能力が必要だ。


◆一般的なテントの運営

タイには全部で2000社弱ほどの小規模中古車販売店が存在する。そのほとんどはバンコクに集中しているといわれている。筆者が行った2013年の現地調査によれば、バンコク周辺だけで1855社の小規模中古車販売店が登録されていることが確認された。多い地区としてカンチャナピセーク(420)、シーナカリン(210)、ラチャダピセーク(160)、ラムイントラ(120)、エカマエ(110)などがあげられる。一般的なテントは、1区画が300~400平米で家賃が3年契約で月の賃料は約6万バーツ(日本円18万)ほど。

テント内のオフィスブース(販売店)のスタッフは2~3名ほどの少人数で、家族経営(父親が営業、母親が事務、息子娘がアシスタント)のような形が多いようだ。営業時間は8時~20時まで毎日営業しているお店が一般的。車はピカピカに磨かれていて、日本の中古車店と同じように新しく見える。日本と大きく違うのは走行距離が非常に多いことだ。

1店舗辺り15~20台程度の車の在庫を保有しているが、店によっては買い取り在庫だけでなく10~20%ほどは預かり車で委託販売の形態もある。店によって若干の違いはあるがヒアリングによれば販売方法は圧倒的に中古車ウェブサイトからの問い合わせによる販売である。残りは口コミ、店舗への訪問での販売となる。車の仕入れで最も多いのが顧客からの買い取り・下取りである。それ以外には同業者からの仕入れ、オークションからの仕入れがあるが、日本と大きく異なる点はオークションからの仕入れには積極的ではない。理由として引き揚げ車が多く品質が良くないということだ。


◆値段のない中古車

車に張られているプライスボードは、日本の自動車公正取引協議会がプライスボードの5大チェックポイントとしてあげている項目すべてを満たしているものは皆無である。項目とは、1.保証の有無、2.定期点検整備実施状況の有無、3.走行距離数、4.過去の点検整備記録簿の有無、5.修復暦の有無、である。全く値段の表記もしていない中古車もあり、それらと比較すれば消費者に対しての情報格差は縮まっている。しかし、さらなる透明性(仕入れ元)や公正さ(メーター巻き戻し)が中古車購入者にとって大事なポイントとなることは間違いない。


◆公正な中古車市場育成に向けての課題

ここ最近、中古車価格下落と販売不振の影響を受けテントが苦戦している。2012年のタイ政府による新車購入の税優遇措置によるデフォルト車が急増。市場への大量流入が価格下落を引き起こした。2014年に行ったテントへのヒアリングによれば2013年~14年にかけて中古車市場価格は30%近く下落している。特に1300cc以下の小型車の下落幅は大きい。プライスボードに記載される情報の量を増やし、透明性や公正さを打ち出すことで差別化するテントも出始めている。

一方、公正な中古車市場を育てていくためには行政等による監督強化の政策が重要なポイントとなってくるだろう。個人で中古車販売を営む人が売買取引を隠し、本来なら中古車にかかるべき税金を販売価格から差し引くことで安い価格で売っているテントもある。テントの競争はよりシビアな戦国時代に突入した。

では、今後の中古車市場はこのまま不振に苦しむことになるのだろうか。筆者はタイの自動車市場が本格的な回復に至るまでには少し時間が必要ではあるが、タイ中古車市場はまだまだ伸びると考えている。タイでは「若者の車離れ」などとは無縁で、生活必需品であり、かつステータスシンボルである。タイでは全世帯の14~15%しか車を保有しておらず、まだ自動車の普及段階にいる。中古流通市場を拡大していくためには、中古車に対してのローンを充実させていくことがより重要となるだろう。


<川崎大輔 プロフィール>
大学卒業後、香港の会社に就職しアセアン(香港、タイ、マレーシア、シンガポール)に駐在。その後、大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。現在、プレミアファイナンシャルサービス(株)にてアセアン諸国の進出したい日系企業様の海外進出サポートを行っている。日系企業と海外との架け橋をつくるべく海外における中古・金融・修理などアフター中心の流通調査を行う。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科特別研究員。
《川崎 大輔》

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