【川崎大輔の流通大陸】高成長が期待されるタイのメンテナンス市場プレーヤー

タイのメンテナンスビジネスは将来の有望なマーケットである。各メンテナンスプレーヤーは自動車市場の拡大とともに大きな伸びが期待できるだろう。

エマージング・マーケット 東南アジア

品質よりも価格重視の顧客層

一般的にタイの新車購入者は車両保証期間中(通常3~5年)の点検・修理時に、購入した新車ディーラーに車を持ち込む。メーカー認定のメンテナンスサービスを受けるためである。一方、車両保証期間が過ぎた後は、コストの安い非認定サービスセンターでメンテナンスを行っているケースが多い。タイの自動車市場は黎明期を迎えたばかりだ。

タイの経済成長と政府の自動車支援施策のもとに市場が拡大した。所得の高い層からようやく一般庶民の足へと変化を遂げている最中であり、所得の低い層にとっては車両購入が精いっぱいである。維持費などへの出費はできるだけ避ける傾向がある。そのため修理の際に交換部品は純正品よりもコスト重視の人が多くディーラー以外のメンテナンスサービスに流れている。

◆メンテナンスサービスの3つのプレーヤー

タイでは新車ディーラー以外にもメンテナンスサービスを行うプレーヤーがいる。大きくは3つのプレーヤーに分類されている。(1)モダントレーン、(2)トラディッショナル、(3)ディーラー、である。

モダントレーンと呼ばれる専門メンテナンス会社はネットワーク化されており同じブランドで全国展開をしている。複数のモダントレーンブランドが存在し、1番大きなシェアを持つのがブランド名”B-Quik”を展開するB-Quik社だ。108の支店を展開しており、売上高は約46.5億バーツ。シェア2位は”ACT”ブランドを展開するブリジストン系のBridgestone A.C.T.(Thailand)社。更に“コクピット”、“オートボーイ”、“タイヤプラス(ミシュラン系)”、“イーグルストアー(グッドイヤー系)などが存在する。トラディッショナルは、小規模な家族経営で地元のパパママショップ的な整備・修理場である。一方、ディーラーは新車ディーラーに併設されている一般的な整備工場を指している。

正確な統計はないが筆者の現地でのヒアリングによれば、利用する顧客の割合はモダントレーン(30%)、トラディッショナル(50%)、ディーラー(20%)ほどとのこと。モダントレーンは軽整備をメインに行っておりエンジンチェックなどは行っていない。サービス項目を絞り込むことで効率的な運営を確立し、更に市場での存在感を増してきている。

◆各プレーヤーのサービス

モダントレーンの特徴は、エンジン以外の軽整備サービスとそれに伴う部品の小売りを全国ネットワークで行っているという点である。しっかりとした部品・パーツを使用しスタッフの教育にも力を入れ信頼ブランドの構築を目指している。収益源で最も多いのがタイヤの販売と交換であり、全体の収益の半分以上を賄っている。各社系列メーカーのタイヤを扱うのが一般的であるが、大手B-Quik社はマルチメーカーのものを取り扱いそれが1つの差別化となっているようだ。それ以外のモダントレーンの主要サービスは、オイル、バッテリー、ショックアブソーバー、ブレーキパッドである。

トラディッショナルでは、一般的な軽整備全般を行っている。タイの街中をタクシーで走ると、道の両わきにこのような小さな修理場を頻繁にみかける。純正部品ではないものを多く扱うため修理・点検費などは安い。特に中古車を購入するような層はコスト重視で、部品交換なども新品ではなく中古を使いたがる傾向が強い。そのため安価なトラディッショナルはまだ需要がありメンテナンス市場での重要なプレーヤーとして存在している。

ディーラーは基本的にエンジンも含めたすべてのサービスを高品質で提供することが可能である。ディーラーが行うサービスには大きな信頼を寄せているユーザーは多い。しかしメーカー保証期間後は高価なサービスを継続して利用するユーザーが少ないのが現状である(図表1参照)。

◆今後のメンテナンスマーケット

2012年のBanchak Petroleum PCLの調査では、オイル・バッテリー年1回、タイヤ交換2年に1回をユーザーが行っているとのデータが出ている。特に雨季などで消耗が激しいワイパーはライフサイクルが短くこれから速いペースで市場が成長すると予測されている。

タイのメンテナンスマーケットにおけるしっかりした統計は出ていないが、自動車規模の拡大に比例して年々拡大を続けていくだろうと推測ができる。更に2014年のフロスト&サリバンからのデータによれば、排出ガス規制(EURO4)の導入によって車の検査がより厳密になる可能性があり、メンテナンスや修理の需要の更なる伸びが予測されている。

ピックアップトラックが多いタイでは、今後もピックアップトラックがメンテナンス市場において重要な収益源となるであろう。ショックアブソーバー交換はほとんどがピックアップユーザーとの話を聞いた。通常の1tピックアップでもショックアブソーバーを交換することで6tまでの積載が可能になるためだ。積載量を多くすると当然タイヤも大きなものに変更しており、かつブレーキパッドも変更する回数が多くなっているようだ。

このようなキャッシュポイントをしっかりと把握しユーザーの要望に合った販促活動をしていくことで、タイのメンテナンスビジネスは自動車市場の拡大とともに大きな伸びが期待できる有望なマーケットとなる可能性が大きい。

<川崎大輔 プロフィール>
大学卒業後、香港の会社に就職しアセアン(香港、タイ、マレーシア、シンガポール)に駐在。その後、大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。現在、プレミアファイナンシャルサービス(株)にてアセアン事業展開推進中。日系企業と海外との架け橋をつくるべく海外における中古・金融・修理などアフター中心の流通調査を行う。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科特別研究員。

《川崎 大輔》

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