【川崎大輔の流通大陸】 ASEAN最大の中古部品市場、マレーシアの今

エマージング・マーケット 東南アジア
KL中古車販売店
  • KL中古車販売店
  • KL中心街の車渋滞
  • KLの高層ビル
  • 中古車ストック
  • Perodua本社

日本製中古車部品市場のハブとなっているマレーシア

矢野経済研究所は、2014年に東南アジア諸国連合(ASEAN)主要6か国の自動車リサイクルに関する調査結果を発表した。調査結果によれば「マレーシアの2013年の輸入中古部品市場規模は約231.6億円とみられて、ASEAN域内で最大規模である」と伝えている。

一方で、日本から輸入されたこれら中古車部品すべてがマレーシア国内で流通されるわけではない。ハブであるマレーシアに集約された後、世界各国へ再輸出されているのだ。現地でのヒアリングによれば80%ほどが海外向けで残りがマレーシア国内用となっているようだ。

◆クアラルンプール(KL)の中古部品集積地

マレーシアの首都KLには、最も大きな中古車部品集積地であるklang(クラン)、次に大きなkepong(ケポン)という2大集積地がある。KLの西と北に位置し、共にツインタワーから車で45分ほどのところに存在する。クランには最大手のフェーダー、中古部品販売団体MAARA(Malaysia Automotive Recycling Association)の代表理事が経営するスンガイセンドックがあり、周りに小規模な中古車部品販売店が多数ある。ケポンにはグループとしては最大手のビーヒンがある。これらがマレーシアの中古車部品販売会社の上位3社であり、3社でマレーシアのコンテナ取扱総量の5分の1を占めている。このような中古部品販売を行う企業はマレーシアに5000社程度あるといわれている。

◆マレーシアにおける中古車部品輸出入状況

MAARAからのデータによれば、日本車の多いニュージーランドやオーストラリアからの中古部品の輸入もあるが日本からの輸入が80%以上を占めている。日本で発生した中古部品は走行距離や使用年数が少なく、日本は優良な中古部品発祥地との世界中で共通の認識を持っていることが、日本からの輸入比率が多いという要因となっている。

取り扱われる中古部品は、ハーフカット、ノーズカットも多いが、主要中古部品であるエンジン、変換機に次いでオルタネータ、スタータの比率が高い。足回り系の部品以上にモーター系が多いようだ。日本での引き渡し時からみて1.5~3倍程度で現地では販売されている。先述したように海外へは販売の80%ほどが再輸出されている。

再輸出先としてはタイ、ミャンマー、パキスタン、UAE(シャルジャ)、南アフリカ、ナイジェリア、などアジア近隣諸国、中東、アフリカを中心に輸出されている。一方で、UAE(シャルジャ)、南アフリカ、ナイジェリアは更なる再輸出拠点となっており、アフリカ諸国へと再々輸出されている。

マレーシアが大きな再輸出拠点としてのハブになっている理由としては、アフリカや中東などの中間に位置しているという地理的要因がある。更に、アジアの中でのムスリム(イスラム教徒)国といった理由があげられる。アフリカや中東に住むムスリムにとって食事(ハラル)やモスクなどに十分に対応できるよって、中古部品のハブとして確固たる地位を築いたといわれている。

◆マレーシア中古部品流通市場の動向

このようなマレーシアだが、中古部品流通市場の業界関係者の話によれば、直近の中古部品市場は縮小に向かっている模様である。中古部品輸入関税の引き上げ、日本国内で部品を集約しマレーシアを経由しないで再輸出先に対して直接販売する取引の拡大という背景が要因である。

大手中古部品販売会社はマレーシア国内での中古部品の調達が難しく、日本からの高品質な中古部品の輸入に頼っていた。車両使用期間は15年ほどと長く、走行距離が長期化しているため低品質であり、更に実質的に使用済み自動車として出てくる車両台数は少ないことが原因である。これらを背景に、中古車部品販売会社は在庫を大量に持つことを経営戦略としていた。しかし、現在は販売会社は在庫の縮小を余儀なくされている。

マレーシア国内での重要がそれほど多くはないにも関わらず在庫が多いため、今後、在庫が安値で世界中に再輸出される可能性も考慮しておく必要があるだろう。

◆今後の日本製中古部品産業の可能性

マレーシアは、日本製中古部品の重要なグローバル流通を担っている。しかし、外部環境の変化により流通形態が変化する可能性は考えておく必要がある。アフリカやUAEなどマレーシアの役割を担えるほかの地域もあると考えるためだ。また、オンラインでの中古部品ネットワークによって日本企業が現地のエンドユーザーと直接取引する可能性もある。更に、某日本のメーカーでは中古車輸出を本格的に自らのビジネスをして位置付ける動きも出ており、これらが独自で中古部品の流通も扱う可能性もある。そうであれば、中古部品のグローバル流通形態は変化を迫られるであろう。

中古部品の流通に関する情報の蓄積は十分ではなく課題も多く残されているが、日本メーカーの努力による高い国際競争力と品質によって、日本からの中古部品は優良であることには変わりはない。更に、日本での適正な自動車リサイクル法、リサイクル関連企業の先進技術、海外での日本車市場の増加に伴う盛んな中古部品需要、などやり方次第では更なる需要をみい出し、世界に誇れる日本の産業となる大きな可能性を持っているビジネスであるといえよう。

日本製中古部品産業は、グローバルな視野にたった中古車部品流通を再構築としていくことで、更に大きな産業へと発展を遂げる段階に差し掛かっているのかもしれない。

<川崎大輔 プロフィール>
大学卒業後、香港の会社に就職しアセアン(香港、タイ、マレーシア、シンガポール)に駐在。その後、大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。現在、プレミアファイナンシャルサービス(株)にてアセアン事業展開推進中。日系企業と海外との架け橋をつくるべく海外における中古・金融・修理などアフター中心の流通調査を行う。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科特別研究員。

《川崎 大輔》

【注目の記事】[PR]

編集部おすすめのニュース

特集