【池原照雄の単眼複眼】変則の夏、基幹産業の躍動が始まった

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木・金は東電・東北電管内で65万kWを抑制

先週から木・金用への休日振替が始まり、自動車業界は「節電と生産回復の両立」(志賀俊之日本自動車工業会会長)を目指した変則の夏に突入した。昨夏のピーク電力に対し15%の削減が課せられた東京電力および東北電力管内の工場では、操業時間の変更や異例な3直勤務の導入といった涙ぐましい取り組みも始まった。

今月からは各社の生産がおおむね正常化したこともあり、期間従業員の採用もトヨタ自動車が3000~4000人を計画するなど2008年秋の金融危機後以来となる高水準の確保を図る。復興に向け、基幹産業が自らの役目にしっかりとした自覚をもちながら躍動してきた。

自工会のまとめによると、東電、東北電管内で休日振替を導入したのは自工会会員メーカーや関連会社など43社。これらの企業の昨夏のピーク電力を、合成需要という算出方式で積み上げると64万8000kWに達する。最新の大型原子力発電プラントの半分に相当する規模だ。

◆変則3直で増産するホンダ狭山工場

こうした平日のピーク抑制のみならず、工場の操業時間変更による削減への取り組みも始まっている。日産自動車は、東電管内に立地する追浜工場(神奈川県)と栃木工場で、連続2直の時間変更に踏み切った。

通常は早番が午前6時半から午後3時、遅番が午後4時から翌日午前0時半となっているのを早番では始業を1時間早め、逆に遅番は始業を1時間遅らせている。これにより、1日のうちで電力需要が最も高まる午後2時から午後5時までの間はラインを止め、東電管内のピーク抑制に協力している。

ホンダは埼玉製作所狭山工場で、変則的な3直を導入した。「生産を挽回するとともに、15%のピークカットを図る」(広報部)苦肉の策だ。狭山工場は『CR-V』や『フィット』など4車種を流す第1ラインと、『ステップワゴン』や『フリード』などミニバンを中心に6車種を流す第2ラインがある。

このうち第1ラインは通常の連続2直(勤務時間は2直合わせて6時半~23時半)で操業し、第2ラインの方は23時20分から6時40分の深夜操業のみを行うようにしている。従業員は3班に分かれ、第1・第2ライン合計で3直という変則シフトを1週間ごとにローテーションしながら従事する。

◆現場を支える使命感

例えば今週が第1ラインの早番だと、翌週はその遅番、翌々週は第2ラインの深夜という順番になる。これにより、動いているのは常に1ラインのみとしてピーク需要を抑え込んでいる。狭山の生産は震災後から日産900台程度に落ち込んでいたものの、変則3直を導入した今月からは同1400台と約6割の増産を実現している。

こうした操業時間の変更や休日シフトは、保育所の確保や通勤バスの増発、あるいは「深夜手当の負担」(ホンダ)などコスト増につながる。それ以上に、暑い盛りの勤務時間や休日の変更は従業員に負担をかける。電力ピーク抑制への協力や、自分たちがつくるクルマを待っている顧客のためにという使命感が現場を担う人々を支える。

ちなみに電力使用制限令の対象になる東電管内の事業所(契約電力500kW以上)はおよそ1万4000にのぼる。このうち、どれだけの需要家が休日振替を導入しているのか東電の広報部に聞いてみた。かえってきたのは「(需要家による)自主的な取り組みであり、まだ把握できていない」とのことだった。彼我の使命感の落差に愕然とするのみであった。

《池原照雄》

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