2010年秋、富士通テン イクリプスとして初めてのポータブル機『EP001』を投入。5型ワイド、WQVGA液晶にジャイロや加速度センサーを搭載し、車速パルスの入力も可能であるなど、カーナビメーカーならではのこだわりと共に、初心者でも簡単に取り付けできるバックカメラの付属モデル『EP001C』を同時展開するなど、従来のPNDとは異なる商品企画で登場した。この独自のポジショニングはどのように模索され、製品化されたのか。製品統括部 アフターマーケット推進部の永元覚氏に聞いた。
市販ナビの市場でイクリプスが伸びて行くにはPNDが必要
----:主要なカーナビメーカーでは富士通テン イクリプスが唯一、これまでPNDを出していませんでしたが、この秋AVN Liteをリニューアルすると同時に、ブランドとして初のPND『EP001』を発売しました。AVN LiteとこのEP001とで、「イクリプス Lite」シリーズのラインナップができましたね。
永元:車載器メーカーである当社としては、AVNにこだわった製品作りをしていきたい、という考えがあったのは確かです。ですが、開発チームではずっとPNDについての調査研究は続けていました。AVN Liteに代表されるリーズナブルな価格のナビゲーションが普及し、市場全体を見ると市販ナビの半数がPNDに置きかわりつつあります。AVNだけでは市場は広がっていかないということで、イクリプスの製品をこの分野にも出そうということになりました。
----:EP001は、8GBのメモリとBluetoothを利用した渋滞情報機能を組み合わせており、PNDとしては高価格帯の商品となっています。
永元:イクリプス独自のPNDという商品企画を考えた時、“情報端末”というコンセプトを提供したかったというのはあります。手軽に通信を利用でき、なおかつ便利なサービスを、ということでBluetoothを搭載し、インターフェースにはAVN Liteの考え方を取り込んでいます。
◆バックカメラとのセットモデルで個性を打ち出したい
----:AVN Liteの思想を取り込んだ新しいカテゴリーの商品ということですが、このEP001が上位機種含めたイクリプスの将来像を示している、ということになるのでしょうか。
永元:EP001のような通信とナビゲーションの組み合わせが今後続くのか、といわれるとまだ断言はできません。当社としてはまずビルトインタイプのナビだけではない、ポータブルで外に持ち出すことができ、様々な情報とつながる端末ということでまず考えました。
----:ナビ単体モデル(EP001)の市場想定価格が5万5000円、カメラパックモデルの(EP001C)がおよそ7万円とのことですが、国産家電ブランドPNDの中心価格帯が5万円台前後というなかにあって、EP001がこの激戦区に参入したのは、ひとつの決断といえるのではないですか。
永元:どういう価格帯にするかというのは開発チームでも議論になりました。ナビだけを見るとおっしゃる通り激戦区ですし、“カーナビメーカーが作っているPND”、という訴求をするとなると、取り付け簡単なバックカメラパックを中心に周知を図っていければ、と。そこで、イクリプスとしては、バックカメラパックを全面に押し出しています。調査すると、PNDへのカメラセットへの要望が多いことが分かってきましたし、他社もPNDとカメラのセットはまだありませんから。
----:PNDはやはり運転初心者の購入者が多い傾向にありますから、カメラとの相性は良さそうですね。
永元:ターゲットとしては女性や高齢者を念頭に据えています。カメラは後から付けると高くなりますから、セット購入する理由に十分なり得ます。また、PNDは購入後そのまま持ち帰っていただく商品なので、自分で取り付けできるよう、リアガラスの内側に設置できるようにしました。
----:軽自動車やコンパクトカーなどは、ハッチバックタイプのクルマが多いですからね。
◆カーナビメーカーとしてのこだわり
永元:いま各社から出ているPNDを見ていると機能的に似たり寄ったりで、どうしても価格競争へと流れてしまいます。これではなかなか長続きしません。当社としてもここでビジネスしようとすると、別のアプローチをしなければなりません。
----:いまから7〜8年前、オンダッシュタイプのナビがさまざまなメーカーから登場しましたが、その頃と状況が似ているように感じます。
永元:そうですね。PNDも参入メーカーが非常に多いのですが、AVNメーカーの視点からするとスマートフォンのナビやPNDのナビ機能は非常に気が利かないし、物足りないのです。それらのナビで一番のネックである自車位置精度です。EP001は、内蔵のジャイロや加速度センサーに加えて車速信号ケーブルも付属していますからこれらを接続することで、AVNに近い自車位置精度を実現できています。また、AVN Liteで分かりやすくユーザーを導くUI設計のノウハウが蓄積できていますから、勘所を抑えた商品ができたのではないかな、と思います。
----:ナビゲーションに関してはカーナビメーカーのノウハウがあるというわけですね。EP001のもうひとつのトピックとして、Bluetoothを内蔵しオンデマンド渋滞情報を導入したことだと思うのですが。
永元:FM-VICSの搭載も検討したのですが、お店に聞くとお客様はフィルムアンテナを貼るのに難儀される、という声が聞こえてきました。EP001ではFM-VICSをやめて、オンデマンドVICSを、それも高機能なインクリメントPのMapFanをつかってもらうということになりました。このあたりはAVN Liteとは異なるアプローチを試みています。
----:Bluetoothは、FM-VICSとの択一で迷ったのか、それともまず初めにBluetoothありきだったのでしょうか。
永元:Bluetoothの搭載はハンズフリーでの使用を前提としていましたので企画当初からありました。ハンズフリーとバックカメラで安全・安心面を訴求するという考え方です。
----:エコカー補助金が終了し、新車販売は今後いっそう厳しくなるという見込みがありますが、富士通テンとしては市販ナビの販売はどうなると予測されていますか。
永元:新車と同時購入というパターンが多いAVN需要が減るいっぽうで、こんどはPNDの販売が伸びるのでは、という予測は確かにあります。今後の需要変化に対応できるよう、当社としては初心者をターゲットに据えつつ、AVN LiteとEP001という性格・用途の異なる商品でラインナップを構成し“イクリプス Lite”というシリーズ名で展開していきます。EP001に関しては満を持して投入した製品ですので、多くのお客様に使っていただけるのではと期待しています。
《聞き手 三浦和也》