---- こうして振り返っただけでも、AUIがカーナビ開発にもたらすメリットは大きいことがわかります。ところで私は、Windows Automotiveはユニークだと、いつも感じているのですよ(笑)
平野) そうですか(笑) どのあたりがユニークなのでしょう。
---- マイクロソフトのOSとしてユニーク、というか異端であると感じています。なぜなら、マイクロソフトの基本スタンスは、汎用OSとしてソフトウェアプラットフォームを提供すると同時に、UIに関しては常にコントロール下に置いてきた。例えば、Windowsの基本UIをPCメーカーが自由に作り替えることはできません。これはPDAも同じくですし、最近、北米で登場したリビングルーム向けのWindows Media Centerも同様です。
それなのに、Windows AutomotiveはUIを支配せず、AUIという仕組みでメーカーが自由に作り替えやすい方法論を提供している。UIに関するスタンスが、マイクロソフトの他のOSとまったく違う。
平野) その背景を一言でいえば、「強引に日本の開発チームが、UI開放に誘導した」という事になります(笑) おっしゃるとおり、マイクロソフトのOSとしてはUIへのスタンスが特殊です。
しかし、Windows Automotiveが成功してきている事もあり、(北米)本国の方でも『組み込み向けOSは、Windows Automotiveの手法が正しいのではないか』という理解が増えてきているのも事実です。
---- AUIの手法、すなわちUIの開放が認められてきている?
平野) もちろん、本国には「UIを統一する事が正しい、マイクロソフトの方針だ」と主張する人もたくさんいますけれど(苦笑)
---- 「抵抗勢力」もやはりいる、と(苦笑) しかし、平野さんの考えというか、Windows Automotiveのポリシーは、UI開発は自由度を持たせるべきというワケですよね?
平野) 組み込みOSは、実際に使われる製品の特性をしっかり考えなければならないと考えています。
例えばですね、PCとクルマや時計を比べてみればよくわかると思います。PCは1000万円を超えるものはないわけですね。15万円と30万円のPCがあったら、その価格差は明らかに機能差にある。PCのバリューは実用性に根ざしているのです。
一方、クルマは「走る」という機能において、(車種・メーカー間の)大きな違いはないわけです。性能差は確かにありますが、それだけで100万円のクルマと1000万円以上のクルマが市場で併存する理由にはならない。時計も同様で、いくら時間を計る精度が高いといっても、デザインや素材がまったく同じだったら、1000万以上の価格差は生まれない。クルマや時計は実用性や機能・性能以外の部分にもバリューがあり、それが市場の特性を作っています。
この特性を無視して実用性やコスト効率だけを突き詰めたOSを作っても、クルマ向けとしては受け入れてもらえない。そのように私は考えています。
---- クルマのブランド、個性化の演出という点で、カーナビの「顔」であるUIを自由に変えられるというのは重要である、と。
平野) ただし、ブランドのための個性化が必要ではありますが、そのためのUI開発でコストや開発期間がかかるというのではメーカーの負担になります。製品のバリエーションを増やしながら生産性を落とさないというところに、AUIの意義があります。
---- 生産性の向上は汎用OSを導入する最大のメリットですが、その上でクルマのバリューであるデザイン面での個性化を損なわないようにしている、というのがWindows Automotiveの提案ですね。この実現のために、マイクロソフトのOSとしては特殊になった。
平野) Windows Automotiveは3.5の時代から日本チームが牽引したという事情もプラスになりました。実際のところ、マイクロソフト本社には、組み込み向けのWindows Automotiveと、PDA向けのPocket PCの本質的な違いが理解できない人もいましたから(笑) 組み込みOSは、あくまで組み込んだ製品の価値観にあわせなければならない。ここが単体の製品として成立するPCやPDAとの違いですから。
《インタビュアー:神尾寿(通信・ITSジャーナリスト)》
《写真:石田真一》
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