平野) 4.2から5.0の時に我々が心配したのは、エンドユーザーからの(新バージョンの)メリットがあまり見えないという事です。
---- エンドユーザーから見た場合、4.2の段階で"完成されている"という事ですか? 直接的には新バージョンの変化はわかりにくい。
平野) (5.0は)開発者メリットの向上が中心なのです。カーナビメーカーからすると、開発が効率化する。これはコスト削減はもちろんですが、短期間で多くのバリエーションのカーナビが作れるという効率化も含まれます。
もうひとつ大きなポイントとして、『作業分担』があります。これまでカーナビ表示に関わるUI開発は、ある程度は(メイン)プログラムがわかる必要がありました。しかし、5.0のAUIではメインプログラムとUI部分が切り離されましたので、極端にいえば専門職のデザイナーが1行もプログラムに触れずにUIを開発する事ができます。
---- UIがプログラマーの担当領域ではなく、デザイナーの担当になった。これは日産自動車の「カーウイングス」などでも見られる動きです。自動車メーカーはカーナビのUIも、クルマのデザインの一部と見始めましたので、5.0のAUIはメリットが大きいかもしれません。
平野) (自動車メーカー向けのOEM製品ならば)カーナビメーカーが基本的なUIを用意して、自動車メーカーが後からクルマのデザインにあわせてAUIを載せ替える、という事が今回のバージョンでは可能になっています。まさに新たなカーナビのビジネスモデルとなる仕組みを、Windows Automotive 5.0では作りつつあります。
---- Windows CE for Automotive 3.0や3.5は描画系を中心にまずカーナビ開発の現状にあわせるという意味合いが強かった。誤解を恐れずにいえば、ベーシックな部分でリアルタイムOSに追いつくための改善が中心だった。しかし、AUIの実装が始まった4.2からは、リアルタイムOSにないメリットの大きな要素として、UI開発のプラットフォーム化を打ち出してきたわけですね。
平野) 実際のところをいうと、4.2を出した段階ではAUIがここまで凝った使い方をされるとは思ってはいなかったんですね。
具体的にはAUIを使ってデザインするといっても、画面のオブジェクトや背景の容量は数メガバイトも用意すれば足りると考えていました。ところが、AUIでUI開発が容易になった事と、同時期にHDDカーナビが主流になった事で、カーナビメーカーがUIを凝った作りにするようになりました。あるメーカーさんではAUIのスキンが40メガバイトを超えるといった例も出てきて、これはもう、4.2の想定外になってしまったわけです。
---- AUIという仕組みがUI開発環境を整えたことで、潜在的なニーズに火をつけたのかもしれませんね。エンドユーザー視点でも、やはり画面の見た目はカーナビの魅力を判断する上で重要ですから、メーカー側も気合いが入ったのかもしれません。
平野) そうですね。この数年でカーナビの画面解像度が上がるなどハードウェア的な進化の影響もあったと思いますが、潜在的なニーズが大きかったのかもしれません。
しかし、AUIでリッチなUIを作るとなると、4.2の機能では不十分な部分も出てくる。例えば、当初は数メガバイトの想定だったわけですから、数十メガバイトのスキンを想定するなら、ロード時間のチューニングも必要になります。
---- カーナビの地図表現も、かなり凝った作りになってきています。このあたりのニーズ拡大の影響も大きそうですね。
先ほどエンドユーザーから5.0のメリットが見えにくいという話がありましたが、「UIがリッチになる」という点ではメリットは感じられそうです。(笑)
平野) 我々が想定するユーザーは、(実際のカーナビを購入する)エンドユーザーと自動車メーカーと、カーナビ開発をするカーナビメーカーがいます。Windows Automotive 5.0のメリットは、製品としては前者に届きますが、(UI開発を効率化するという)メッセージ性の強さとしてはカーナビメーカーに向けたものだと考えています。
《インタビュアー:神尾寿(通信・ITSジャーナリスト)》
《写真:石田真一》
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