JR北海道が初めて開発した振子式車両であるキハ281系特急型気動車が9月30日、定期列車としてのラストランを迎えた。
同車は1994年3月、函館~札幌間の特急『スーパー北斗』にデビュー。車体傾斜方式に曲線区間では最大で30km/h速く通過できる制御式振子を搭載していることが大きな特徴で、先頭車の独特な高運転台スタイルは、後に登場したキハ283系やキハ261系、電車の789系にも受け継がれた。
JR北海道における振子式の構想は、1989年3月にデビューしたJR四国の2000系特急型気動車を範にしたと言われているが、四国とは比べ物にならないほど厳しい自然条件に晒される北海道では、2000系気動車のようにコロの作用で車体を傾けるシステムでは冬期における雪の進入防止が難しかったため、ガイドブロックにボールベアリングを組み込みガイドレールを動かす「ベアリングガイド式」と呼ばれる方式が採用された。コロ式に比べて摩擦抵抗が少なく滑らかに車体傾斜ができるベアリングガイド式は、その後、JR東海やJR西日本、JR四国の振子式車両にも導入されている。
若干遅延したため、新千歳空港駅から南千歳駅に進入する快速『エアポート133号』と一瞬並走した7D『北斗7号』。本来ならありえないシーンだ。千歳線南千歳。2022年9月30日。『スーパー北斗』のデビュー当時は、函館~札幌間で3時間を切る到達時間を実現し、在来線特急最速と謳われたものの、JR北海道の安全神話が崩れた2010年代に入ると、安全性確保から速度ダウンを余儀なくされ、『スーパー北斗』については最高速度を120km/hに制限。振子の性能も抑制され、3時間を切る速達性は昔語りとなった。
新千歳空港の展望デッキから16D『北斗16号』を見渡す。振子式気動車と旅客機との取合せも、まもなく見られなくなる。千歳線南千歳~植苗。2022年9月30日。それでも2022年3月改正で『おおぞら』から撤退し、廃車が発生しているキハ283系と比べて、キハ281系は登場時の27両全車が健在で、その中には試作車のキハ281-901・902、キハ280-901も残っている。登場時の勢力を維持したままで消え去る車両は珍しいが、キハ281系に対する信頼性が高かった証左と言えるのかもしれない。
19D『北斗19号』キハ281-6の車内で。1994年に鉄道友の会から「ローレル賞」を授与された証。2022年9月30日。19D『北斗19号』キハ281-6の車内で。高運転台の斬新な車体からグッドデザイン賞も受賞した。2022年9月30日。定期ラストランを迎えた9月30日は、残念ながら旧ロゴが復元された試作車には遭遇しなかったが、運用列車の『北斗2・5・7・14・16・19号』の3往復は無事、最終日を完走した。
最終便となった下りの『北斗19号』は、札幌方からキハ281-6+キハ280-110+キハ280-105+キハ280-109+キハ280-3+キロ280-4+キハ281-5の7両編成だったが、この編成は、翌日に配置先の函館運輸所へ返却回送されている。
『北斗19号』の到着後。スマートフォンを片手に思い思いのショットを撮る女性。函館本線札幌。2022年9月30日。キハ281系の引退により、『北斗』は全列車が車体傾斜非対応のキハ261系に置き換えられた。今後、キハ281系は10月22・23日に車両としてのラストランとなる臨時特急『スーパー北斗』として運行されるが、『北斗』としての運用は9月30日が最後となった。2020年3月改正で『スーパー北斗』がすべて『北斗』に改称されて以来、2年半という短い活躍だった。
到着ホームの反対側も鈴なりに。かつての『北斗星』や『トワイライトエクスプレス』を思い出させるラストランならではの光景。函館本線札幌。2022年9月30日。