アルピナヒストリー…BMWチューナーからメーカー、そして事業譲渡でどうなる?

アルピナのタイプライター(おそらく1950年代)
  • アルピナのタイプライター(おそらく1950年代)
  • アルピナの機械式計算機(1960年ごろ)
  • BMWアルピナB7ターボ。パリモーターショーにあたってのプロモーションと思われる(1986年)。
  • BMWアルピナ・ロードスターS(ジュネーブモーターショー2004)
  • BMWアルピナXD3(ジュネーブモーターショー2016)
  • BMWアルピナB7 xDrive(手前、ジュネーブモーターショー2016)
  • フランクフルトモーターショー2019でのデモンストレーション
  • 東京モーターショー2019。BMWアルピナ/ニコルは東京モーターショー常連だ。

BMWをベースとした高性能車ブランドとして知られる現在のアルピナ・ヴルカード・ボーゼンジーペン社が誕生したのは1965年。

メルセデスベンツのAMGと発足時期やブランドアイデンティティが似ていることから両社は対比して語られることが多いが、大きな違いはAMGがチューニングファクトリーとして存在感を高めてきたのに対し、アルピナは早くから自動車製造会社を志向してきた点にある。

自動車を手がける前は1951年に初号機を出した機械式のポータブルタイプライターを主力とする事務機器メーカーで、当時のエンブレムは社名そのままにアルプスの山頂を図案化したものだった。が、1960年代初頭にIBMが考案した電子タイプライターが世界を席巻しはじめたのに伴い、ビジネス転換を余儀なくされた。BMW車のエンジンチューンは精密機械のノウハウを別分野に転用するトライのひとつで、唯一上手くいったものだった。

BMWアルピナB7ターボ。パリモーターショーにあたってのプロモーションと思われる(1986年)。BMWアルピナB7ターボ。パリモーターショーにあたってのプロモーションと思われる(1986年)。

1970年代はレースで名を上げるタームだった。BMW『3.0 CSLファルツ=アルピナ』など、往年のツーリングカーレースファンにとっては懐かしの伝説的マシンを次々に輩出した。ところがアルピナはAMGと異なり、レースを通じてハイパフォーマンスを極限まで突き詰める方には向かわなかった。1980年代に入ると次第にレース活動を縮小させ、BMWをベースとした高級市販モデルの生産にシフト。1983年には当時の西ドイツ運輸省から自動車製造の認可を受け、自動車メーカーとなった。

アルピナ車の特徴として、手作業によってボディ、エンジンをきわめて高精度に加工していること、大トルクによるドライバビリティの良さを重視したセッティングを持つこと、ラグジュアリーな内装を持つことなどが挙げられる。

フランクフルトモーターショー2019でのデモンストレーションフランクフルトモーターショー2019でのデモンストレーション

メルセデスAMGと異なるのは絶対的な速さを求めているわけではないこと。AMGが『AMG GT』などのオリジナルモデルを除けばメルセデスベンツの各モデルのハイエンドを受け持っているのに対し、アルピナは「BMW M」と銘打たれた本家BMWの高性能モデルに比べるとパワーはむしろ低めであることが多い。これは現行モデルに限らず、昔からのアルピナの伝統だ。チューンドターボディーゼルが非常に多いのもハイパフォーマンスブランドとしては異例である。

BMWからプレステージクラス、たとえばベントレーやアストンマーティンに上級移行しようとする顧客をキャッチするという非常にニッチ、それでいて意味のあるビジネスを展開してきたアルピナも、今年2022年3月、BMWに事業買収された。創業者の息子であるアンドレアス・ボーゼンジーペン現CEOはアルピナの規模では電動化や自動運転に対応できないと判断したのだろう。今後、アルピナはメルセデスAMGと同様、BMWのストラテジーの一部となり、これまでのハンドメイドによる高級車事業は段階的に縮小していく可能性が高い。その先にBMWがアルピナをどう活用していくのかは、現時点ではまだ不透明である。

アルピナXD7(2021年)アルピナXD7(2021年)
《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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