大型客船製造事業撤退とMRJの納入延期、根は同じ?

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23日に開かれた会見で説明する三菱重工業の宮永俊一社長。
  • 23日に開かれた会見で説明する三菱重工業の宮永俊一社長。
  • 昨秋に表明した大型客船製造事業からの事実上の撤退と、今回のMRJ納入遅延はよく似ている印象だ。
  • 23日の会見に参加した三菱重工業の幹部。左から宮永俊一・三菱重工業社長、篠原裕一・交通・輸送ドメイン 副ドメイン長、 岸信夫・三菱航空機副社長。
  • 戦闘機など防衛装備品の開発経験がある三菱重工業は、旅客機生産でも問題ないとしてきた。
  • 三菱重工業が生産した国産戦闘機「F-2」。戦闘機は型式証明が必要ないので、旅客機ではそこが盲点となってしまった。
  • 「型式試験についての情報収集が足りていなかった」というのは三菱重工業も認めているが、なぜこの段階になって気づいたのか。
  • 大型客船事業では巨額の損失も生み出した。MRJではまだそのあたりが確定していない。

三菱リージョナルジェット(MRJ)の納入延期を表明した三菱重工業。宮永社長は「我々には知見が足りていなかった」と会見で繰り返していたが、これに重なるのは昨年10月に同社が発表した「大型客船事業からの事実上の撤退宣言」だろう。

造船事業について、同社は130年超の歴史を持つ「祖業」でもあった。同社としても自信をみせる事業でもあり、2011年には客船世界最大手カーニバルの欧州法人コスタ・グループ傘下にあるアイーダ・クルーズから10万トン超となる大型客船2隻の建造を受注した。

ところが「11年ぶりの大型客船製造受注」ということに加え、発注側要求による度重なる仕様変更と、それに対応した設計変更に苦しめられ、納期は再三にわたって延期となった。約2400億円という巨額の損失も生じさせてしまい、大型客船の製造からは撤退するとともに、造船事業自体の抜本的な見直しも強いられる結果に。小型・中型規模の客船や貨物船の製造は継続して行ってきたものの、大型客船の製造については11年というブランクにより、経験や知見の継承が上手くいってなかったり、それらを有していない人が手探りで従事したことも少なからずの影響を与えていたとみられる。

MRJも事情はあまり変わらない。YS-11以来、約50年ぶりの国産旅客機製造ということになったが、「三菱はこれまでも国産の戦闘機を製造してきたのだから、航空機製造の技術については問題ない」との楽観視が多数を占めていた。実際に「MRJという機体を作ることや、飛行させることは問題なくできた」わけだが、ここにきて「型式証明試験をクリアする方法についての知見が足りていなかった」といった話が出てくると、「三菱なら大丈夫」というのは希望的な観測でしかなかった。

MRJの場合は大型客船事業とは異なり、製造技術そのものの問題ではなく、型式証明という付帯する書類上の問題であり、外国人エキスパートに知見を求めることでこれをクリアできることはできそうだ。ただし、納期の遅れであるとか、開発期間延長による費用の増大は避けられそうになく、「知見が足りない」ことにもっと早く気づけなかったものか。

《石田真一》

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