三菱が送り出した予想外のヒット作と言えば、『パジェロ』でしょう。年末年始の読み物「意外なヒット」シリーズ。名前を聞けば誰もが知っているヒット作ながら、当初はそれほどの成功を誰も予想していなかったモデルを紹介しています。
パジェロ誕生の背景として、日本人のライフスタイルが多様化したことがあります。1970年代に入って、週末に釣りやキャンプをする人口が増え始めました。そして主に公共向けに販売していた三菱『ジープ』の、コンシューマー向けの需要が伸び始めたのです。そこに着目した三菱は、高い悪路走破性を持ちながらも、ユーザーフレンドリーな本格的クロスカントリー車を作ることを目指し、開発をはじめました。
最初は三菱ジープをベースにコンセプトカーを作りましたが、開発途中からオリジナル設計となり、海外でのピックアップ需要に心を動かされたりもしましたが、紆余曲折を経て、1982年についに誕生となりました。
「パジェロ」の名前の由来となったのは、南米に生息するヤマネコである「パジェロキャット」です。山猫のようにしなやかに悪路を駆けていく事を願ってのネーミングですが、個人的にはあの厳つい顔つきにヤマネコは意外な組み合わせと思います。
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三菱パジェロ初代、ミッドルーフワゴンEXCEED
1987年に登場したエクシードは、無骨一辺倒のパジェロに本革シート等の豪華装備を付与するものです。洒落のつもり程度で、月に50台も売れれば良いかな程度の期待であった三菱の予想に反し、月に1000台を販売するヒットとなりました。時代はバブル期のデートカーブームで、オフローダーにも頼もしさだけではなく洗練が求められていることが浮き彫りとなったのです。スキーブームも相まって、全天候型のデートカー需要が高まっていました。
本格的なクロスカントリーとしてデビューしたパジェロですが、需要の変化に対応し、乗用車としての性能を高めていく改良が重ねられました。そしてついにRVブームがやってくるのです。パジェロはこのブームを先行者として見事に捉え、「パジェロに乗って、苗場でユーミン」が最高の週末を表すキーワードとされるほどの人気を集めました。
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三菱ジープ
こんなエピソードがあります。当時のパジェロを生産していたのは、岐阜県坂祝町という、人口1万人に満たない小さな町でしたが、なんとその町の税収の1/3がパジェロ製造に関わるものだったのです。町は名産にパジェロを自ら掲げ、内外から「パジェロの町」と呼ばれました。
趣味需要に応えるニッチな車としてデビューしたパジェロですが、ダカールラリーで性能を磨き続けた開発陣の努力に加え、時代の変化に的確に順応した、マーケティングの勝利により成功を収めたのです。