【ルマン24時間 2016】トヨタはなぜ勝てなかったのか…総まとめ

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トヨタ5号車(ルマン24時間耐久レース2016)
  • トヨタ5号車(ルマン24時間耐久レース2016)
  • 残り3分、ゴール目前で停止してしまったトヨタ5号車(ルマン24時間耐久レース2016)
  • 最後の数分で止まってしまった#5 トヨタ(コクピット内は中嶋一貴)。勝利のチェッカーフラッグは、まさにすぐそこ、だった。
  • アウディR18
  • 2016ルマン24時間レース
  • #7アウディ『R18』
  • 2016ルマン24時間レース
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2016年のルマン24時間耐久レース。トヨタ5号車は今年のルマン24時間で誰よりも速く、誰よりもたくさんの周回数を消化していた。ただし、それは日曜日の午後2時57分までのこと。直後にトラブルが発生してスローダウンを喫し、その脇を通り過ぎていったポルシェ2号車がトヨタ5号車より1ラップ多い384周を24時間で走破、午後3時過ぎに振り下ろされたチェッカードフラッグをいち早くかい潜って総合優勝を果たした。

手負いとなったトヨタ5号車は12分近い時間を掛けてゆっくりと384周目を走りきったものの、完走と認められずにレースリザルトから除外。同じトヨタの6号車が381周で2位になったほか、アウディ8号車も繰り上がって3位表彰台を勝ち取ったのである。

今年のルマンはポルシェ、アウディ、トヨタの3メーカーがいずれも大幅改良したマシンを持ち込む珍しいレースになった。昨年のルマン24時間では8MJのハイブリッド・システムを搭載するポルシェ『919』が優勝、ルマンに“大容量ハイブリッド時代”の到来を告げた。これを受け、今年トヨタは昨年の6MJからポルシェと同じ8MJにハイブリッド・システムを拡大、アウディも4MJを6MJとして今年のルマン24時間に臨んだ。

決勝レースでは、規則で決められた上限の8MJハイブリッドを積むポルシェとトヨタが先行。6MJのアウディはトラブルにも苦しめられて両メーカーの後塵を拝していた。しかし、トヨタはポルシェを上回る省燃費性能を実現。1回の満タンで走行できる周回数がポルシェの13周に対してトヨタは14周と長く、これを利してじわじわとポルシェを引き離していったのである。ポルシェ2号車は午後2時過ぎまでトヨタ5号車をおよそ30秒差で追っていたが、フィニッシュまで残り10分となったところで敢えてタイヤ交換と給油を実施。自分たちの2位入賞を確実なものにするとともに、トヨタに対する事実上の敗北宣言を行ったのである。

トヨタ5号車にトラブルが襲いかかったのは、この直後のこと。周回数をカウントするコントロールラインの直前で中嶋一貴が駆るトヨタ『TS050』は突然スローダウン。そのとき一貴は無線で「ノーパワー、ノーパワー」と叫んだというので、エンジン関連のトラブルだったことは間違いないだろう。その後、おそらくはハイブリッド・システムに残されていた電力などを駆使して384周目を走りきった。そのラップタイムは11分53秒815。384周目のコントロールラインを通過したタイミングはポルシェ2号車より遅いので、優勝を逃したことはすでに明らかだったものの、3番手でチェッカードフラッグを受けたトヨタ6号車より3ラップ多く周回していたため、2位はトヨタ5号車のものだと誰もが信じていた。ところが直後に順位を示すタイミングモニターが切り替わってトヨタ5号車の名前が消え、6号車が2位とされたのだ。

これは「最終ラップは6分以内で周回しなければいけない」というルマン24時間独自のルールに従った結果だった。ルマンを含む耐久レースでは、たとえどんなにたくさんの周回数を消化してもレースの最後にチェッカードフラッグを受けなければ完走とは認められない。いっぽう、24時間の長丁場となるルマンではマシンにトラブルが起きることが少なくないため、マシントラブルで24時間を走り続けられないことが決定的となったとき、チームは敢えてそれ以上マシンを走らせず、フィニッシュ直前に走行を再開。最後のラップをノロノロと走ってチェッカードフラッグを受けることで完走扱いを狙うチームが後を絶たなかった。

しかし、レーシングスピードで走る競技車の横を、満身創痍でゆっくり走るマシンがあっては安全を確保できない。そこで定められたのが、前述した“6分間ルール”だった。トヨタ5号車はこの規定に抵触。優勝を逃しただけでなく、完走扱いにもされない悲劇に見舞われたのである。

これで“繰り上げ表彰台”を勝ち取ったのがアウディ8号車。直前まで4番手だったが、間際に奇跡が起き、アウディは18年連続の表彰台を手に入れる格好となった。

アウディのルマン初挑戦は1999年。この年はBMW、トヨタ、メルセデス、日産、パノスなどが総合優勝を競い合う激戦となったが、アウディは未経験ながらトップから3周遅れで表彰台を獲得。翌2000年には初優勝を果たすいっぽう、これまでに通算13勝を収めるとともに、過去18年間、1度として表彰台を逃したことがないという圧倒的な勝率を誇ってきた。

ちなみに、ルマンで通算優勝回数がもっとも多いのはこれで18勝を得たポルシェだが、彼らの初参戦はいまから60年以上も前の1951年。しかも初の総合優勝は1970年なので、それから47年間の歳月をかけて18の栄冠を勝ち取ったことになる。これに対し、現在13勝のアウディは通算優勝記録でポルシェに続く2位につけているものの、ルマンでの勝利をアウディほど短期間で積み重ねてきたメーカーはほかになく、ルマンの歴史に一時代を築いた功績は多くの関係者が認めるところである。

いっぽうで、2014年の復帰以来、3年目で2勝を達成したポルシェがレースの戦い方に精通しているのが明らか。こうしたヨーロッパの強豪を相手に、トヨタは今後いかに挑んでいくのか?ちなみにトヨタは1985年の初参戦以来、16回ルマンに挑戦して勝ち星なし。2017年こそ、その「敗者の歴史」に終止符を打つことが期待される。

《取材協力・アウディジャパン》

《大谷達也》

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