【土井正己のMove the World】国際貢献は技術イノベーションで…医薬開発ロボット「まほろ」の可能性

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薬品開発用ヒューマノイド・ロボット「まほろ」
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5月の晴天に恵まれ、G7伊勢志摩サミットは無事に終了した。グローバル経済や安全保障問題がメディアからの注目を集めたが、隠れた重要テーマとしては、「国際保健」というのがある。これは、昨年の国連総会で採決された「持続可能な開発目標(SDGs)」の重要なテーマのひとつでもある。すなわち、開発途上の国においては、「公衆衛生」や「安価な薬品・保健制度」が、貧困や社会秩序の崩壊を防ぐ重要な手段だということだ。実は、日本は、その分野では大変強く、先端技術で世界への貢献が期待できる。

◆「国際保健」とロボット

G7伊勢志摩サミットでは、日本のイノベーション技術の展示も行われたが、その中で、私の目を引いたのは、その「国際保健」の分野でイノベーションが期待できる「まほろ」という薬品開発用のヒューマノイド・ロボットだ。

「まほろ」は、昨年設立されたロボティック・バイオロジー・インスティテュート(RBI)が開発・販売しており、既に国内で10数台が稼働しているという。RBIは、産総研と安川電機などが出資してできた会社で、ロボットの老舗である安川電機の技術を使って、バイオやライフサイエンス分野の研究に適したロボット開発を行ってきた。RBIの松熊研司グループリーダー(ロボット技術グループ)に「まほろ」の開発の狙いなど聞いた。

「薬品分野でイノベーションを起こすには、研究者の数がキーとなってくるが、
日本では絶対数の増加は期待できない。よって、無駄な時間を研究者に使わせず、本当にクリエイティブな研究だけに研究者の仕事を特化してもらえば、開発のスピードも上がり、研究者も幸せになる。そのためのロボットとして開発した」というのが「まほろ」の狙いだ。

◆医薬品開発コストを10分の1に

このロボットが実験室に導入されれば、製薬会社は、薬品の開発時間とコストを大幅に削減できるという。そもそも薬品の開発には、調合を何度も繰り返したり、調合後に一定の時間を待機させたり、単純でかつ長時間の作業が多いという。この部分をロボットにやらせようという発想である。この「まほろ」を導入した慶応大学では、およそ2年かかる実験を1か月でやり遂げることが出来たという。また、ある製薬会社では、それまで5年間成功しなかった実験が、1回の実験で成功したという。

松熊氏は「技術自体は、安川電機のこれまでの技術で、試験管をつまみあげた
り、ラックにそれらを入れたりというところは対応が可能だったが、ベテラン研究者のカン・コツ(暗黙知)をロボットに覚えさせるところが難しかった」と述べる。しかし、一度、カン・コツをロボットが習得すれば、それまでの人による実験精度のばらつきなどがなくなり、確実に行われるとこで、5年間成功しなかった実験が1回で成功したりするというのだ。

現在、日本が薬品開発にかける総開発費用は8兆円。この「まほろ」が普及してくれば、5兆円を削減できる計算だという。そして、最終的な目標は、薬品の開発コストを10分の1とすることを目指しているという。

◆研究者の幸せも実現し、世界に貢献

薬品を使う消費者は、安く薬品を手に入れることができるようになり、また、研究者は、単純労働から解放されて、より知的な仕事に時間を割くことができるようになる。例えば、子育てをする女性の研究者が、夜間の仕事はロボットに任せ、研究と家庭を両立することも容易になる。また、複数の薬品を同時に開発することができるなど、トータルとしての生産性が大幅に向上するということだ。

そして、「まほろ」は、いよいよ海外にも進出する。欧州、米国に販売拠点を設けるというのだ。世界中で、薬品価格が大幅に下げることができれば、途上国の保健環境が大幅に改善できることは間違いない。

日本の世界への貢献に、科学技術イノベーションは欠かせない。

<土井正己 プロフィール>
グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサルティング・ファームである「クレアブ」代表取締役社長。山形大学 特任教授。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野で活躍。2000年から2004年まで チェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2014年より、「クレアブ」で、官公庁や企業のコンサルタント業務に従事。

《土井 正己》

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