【土井正己のMove the World】トヨタ減益も“Made in Japan”より強固に

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レクサス LC500とトヨタ豊田社長(デトロイトモーターショー16)
  • レクサス LC500とトヨタ豊田社長(デトロイトモーターショー16)
  • トヨタ九州宮田工場(写真はレクサスNX)
  • トヨタ自動車 豊田章男社長(資料画像)

ゴールデンウィーク明けの5月11日にトヨタ自動車の決算が発表された。2016年3月期の結果は、売上が28兆4000億円、営業利益が2兆8500億円と過去最高を更新した。しかし、2017年の見通しについては、売上が26兆5000億円、営業利益が1兆7000億円と約4割も利益が落ち込む。減益の大きな要因は、前提レートを105円と置いたことで、その為替分だけで9000億円に及ぶ。各紙とも「トヨタ4割減益」と大々的に報じた。

◆為替、9000億円の減益

9000億円は巨額であり、批判するメディアは「なぜ、トヨタは円安で儲かっている時に、為替フリーの体質に転換できなかったのか。こうなることは想定できていたのではないか」という。「為替フリーの体質」とは、為替が円高や円安に振れても企業収益に影響を与えない体質のことである。すなわち、日本での生産を減らし、日本からの輸出をやめれば「為替フリー」となる。

トヨタは、国内生産が約300万台あり、そのうちの約半分を輸出している。この輸出比率は、日産やホンダの数倍高い。トヨタも輸出比率を下げれば、「為替フリー」に近づくわけである。

◆豊田社長の英断

この議論は、2011年震災以降の「超円高」の時に随分と行われた。そして、その時にトヨタの方針は明確に示された。豊田章男社長は、「震災があろうが、為替が円高に振れようが、日本のモノづくりを守る」と断言したのである。これは、感情的な意味合いではなく、トヨタのモノづくりが、日本のサプライチェーンや伝統工芸、先端技術に依拠する部分が多く、トヨタの「生命線」と言えるからである。トヨタが輸出を減らし、国内生産が仮に半分になれば、これらの「生命線」に大きな影響を与え、崩壊しかねない。短期的な視点で「為替フリー」が達成できても、中長期的にトヨタの発展は難しくなるということである。

すなわち、トヨタは為替フリーではなく、為替をマネージする方向を選んだ。円安時代には、未来への思い切った投資を進め、円高になればモノづくり体質の強化をはかる、これを繰り返せば、強靭体質でかつ、未来への布石も用意できるということだ。実際、トヨタは「超円高」時代には、徹底的な原価低減を行い、1ドル80円でも利益が出る体制を構築した。そして、円安の時代には、米国に「Toyota Research Institute(TRI)」を設立。世界で最先端のAI研究施設となりつつある。ここでの成果は、間違いなくトヨタの既存技術と「新結合」を生み出し、自動車の未来を創り出す。

◆減益の中でも研究開発費増

トヨタは、11日の記者会見で4割の減益の中でも研究開発投資を増加させることを発表している。普通の社長であれば、絵に描いた原価低減対策を発表しているところだ。為替の変化に右往左往せず日本でのモノづくりにこだわる、「いいクルマづくり」を徹底的に追及するという豊田社長が下した決断が貫かれている。

豊田社長は、今回の記者会見の中で本年のデトロイト・モーターショーでデビューしたレクサスの『LC500』について言及した。このクルマは、スポーツクーペとしては世界最高レベルに達してきていると思える。もちろん、Made in Japanだ。

◆「世界最高のクルマ」という永遠の課題

トヨタは、販売台数では世界1位ということだが、トヨタにその座へのこだわりはない。「トヨタは世界最高のクルマを造れているか」、焦点はそこにある。「世界最高のクルマ」という定義は時代によって進化することから、これは永遠の課題となる。豊田社長はこの永遠の課題にチャレンジしているということだろう。

<土井正己 プロフィール>
グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサル ティング・ファームである「クレアブ」代表取締役社長。山形大学 特任教授。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野で活躍。2000年から2004年まで チェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2014年より、「クレアブ」で、官公庁や企業のコンサルタント業務に従事。

《土井 正己》

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