4月4日に東京地下鉄(東京メトロ)の半蔵門線九段下駅で起きた、ベビーカーの引きずり事故。ドアが異物を挟んでも異常を検知しない保安上の問題が原因の第一とされたが、原因の第二は、異常の発生が車掌に伝えられたにも関わらず、車掌が列車停止の手配を行わなかったヒューマンエラーだった。
非常通報があった場合、列車を止めるには車掌の判断と操作が必要。今回の事故では、ホーム上の非常停止ボタンと車内に設置された非常通報ブザーの二つが、異常事態であることを知らせた。しかし、ホームからの通報では車掌が挟んだベビーカーを発見できなかった。また列車内からの通報は、車掌がインターフォンで通報した乗客と会話したが、走行継続の判断をして、運行を優先させてしまった。
非常通報があった場合、訓練では列車を止めることになっている。ただ、東京メトロでは事故前は明確な規定がなかった。さらに非常ブレーキ操作はシミュレーターでの経験で、実車を使った非常ブレーキの操作訓練はなかった。こうした事情が、事故当時の車掌の判断を鈍らせた可能性もある。
同社の再発防止策によると、ホームを通過するまでに車内の非常通報ブザーが鳴動した場合、車掌は非常ブレーキスイッチを扱うよう具体的に定めるものとした。さらに、営業線の回送列車を使用した非常ブレーキ操作訓練も盛り込み、既に車掌業務従事者の約950人が訓練を終えている。6月上旬からの新人養成訓練でも教育期間を2日間延長し、訓練線での非常ブレーキ操作を実施する体制を作った。
このほか、非常停止ボタンが押された際に列車が自動的に停止するよう、非常停止ボタンと自動列車制御装置(ATC)の連動化を図ることにした。ホームドアの設置に時間がかかる路線から早急に連動化するという。
ただ、「一歩間違えば大事故につながりかねない事案」(石井啓一国土交通大臣)であったことは間違いない。東京メトロは事故の発生を受けて設置した再発防止対策推進会議に外部の有識者を加え、ヒューマンファクターの分析に基づいた解析を行うことを国土交通省に伝えた。5月6日から、運輸安全委員会業務改善有識者会議座長の安倍誠治関西大学教授と、社会安全研究所の首藤由紀所長が加わる。7月末日をめどに、議論を取りまとめる予定だ。