【土井正己のMove the World】「曲がる器」で富山から世界へ…素材とデザインでオンリーワンに挑戦

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能作の曲がる器「KAGO」
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開業1年を迎えた北陸新幹線で富山県高岡市に行った。高岡の伝統工芸といえば、「高岡銅器」に代表される鋳物。仏具などの生産が古くから盛んな街だ。私が訪ねた「能作」という工場も、高岡に受け継がれるの鋳造技術を使い、銅器、真鍮製品などを作っていた。工場の中での作業は、昔ながらのやり方で、全て手作業だ。能作の製品は、デザイン性に優れ、海外でも評価が高い。

この伝統的なモノづくりを守り、そして世界に向かって新たな挑戦を続けているのが4代目の能作克治社長だ。18年間の職人経験の後、2002年に社長に就任した克治社長は、それまで中間製品しか作っていなかった工場で、「何とか自分達の手でお客様に提供できる最終製品を作りたい」と考えた。「お客様に喜んでいただけるもの」これは、モノづくりに携わるものにとっては、永遠の課題だ。克治社長は、お客様の声を聞き回り、「素材」と「デザイン」というヒントを得たという。もちろん、ここには技術が必要となる。最初にチャレンジしたのが「ベル」で、真鍮で製造した。そうしたことから、少しずつマーケティングを勉強していったという。地方の伝統工芸の共通した課題であるが、日本には古くから「問屋制」があるためにお客様の声が生産側に伝わりにくいと思う。

「素材」と「デザイン」の挑戦はさらに続く。お客様の声から、克治社長は「鋳物で食器を作りたい」と考えた。しかし、銅は人体への影響から食器に向かないので、抗菌作用が強い錫を使うことにした。しかし、錫は、柔らかく、仕上げが非常に難しい。デザイナーに相談したところ「柔らかい金属の特徴を生かし、お客様の好みで形が変われば面白い」と言われたという。「そんな食器ができるわけがない」と周りから言われたが、技では誰にも負けない自信のある克治社長は、自分でやって見せたという。

伝統を守り続けた「技」が、イノベーションに挑戦する時に新たな化学反応が起こる。こうして生まれたのが、「曲がる器」だ。合金を加えると硬くすることもできたが、それをすると他の錫製品との差別化ができないので、あえて錫100%としたという。「オンリーワン」を意識してのことだが、そこには「技」の裏付けがある。

この「曲がる器」は、ヒット商品となり東京のパレスホテル内にもショップを開業。また、イタリアにも「NOUSAKU Milano」を開業している。高岡の街の若者のなかには、世界に繋がる能作で仕事がしたいという人が増えてきているというのも理解できる。

克治社長の夢はさらに広がる。「酒器の金箔は金沢の会社にお願いしている。北陸全体で伝統工芸を守っていきたい。北陸には、素晴らしいモノづくり精神が残っている」という。一方、大胆なチャレンジも続く。「錫の抗菌作用を利用して、医療器具の製造に着手することにした。伝統工芸は、常に革新の連続でなければならない。それが100年後の伝統工芸となっていく」と克治社長は語ってくれた。

能作の成功は、富山県のモノづくり全体に元気を与えている。100年後は、富山がモノづくりの代表になっているかもしれない。

<土井正己 プロフィール>
グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサル ティング・ファームである「クレアブ」代表取締役社長。山形大学 特任教授。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野で活躍。2000年から2004年まで チェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2014年より、「クレアブ」で、官公庁や企業のコンサルタント業務に従事。

《土井 正己》

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