科学技術振興機構と豊田中央研究所は、大気中で安定的に取り扱うことができる二層シリセンの合成に成功したと発表した。
JST戦略的創造研究推進事業で、豊田中央研究所の中野秀之主席研究員らのグループは、シリコン(Si)が蜂巣格子状に組んで形成した1枚の原子シートである、シリセンから二層構造のシリセンを合成することに成功、化学的安定性の高いナノシリコン材料であることを明らかにした。
炭素の原子シートであるグラフェンは、速い電子移動度を持つため、超高速電子デバイスへの応用が期待されている。半導体デバイス構築に必要なエネルギーバンドギャップを持たないため、応用は限定的。
一方で、炭素と同族元素であるシリコンを用いたシリセンは、高速の電子移動度とエネルギーバンドギャップを併せ持つため、グラフェンを越える新材料として研究されている。しかし、シリセンは大気中で酸化分解することが、応用展開の課題で、大気中でも取り扱うことのできるシリセンの合成技術を開発することが求められていた。
研究グループは、シリセンの層間化合物CaSi2のカルシウム(Ca)層のみを選択的にフッ素化し、同時にシリコン層の自発的な再構成を誘導、新規な二層構造を得ることに成功した。得られた構造は、化学的不安定性の原因となるダングリングボンド密度がシリセンの25%まで低減、大気中でも安定に取り扱うことが可能であることを確認した。
今回の研究により得られた二層シリセンは、ダングリングボンドの密度を制御する材料設計指針を示す初めての例となる。また、グラフェンでは開いていないエネルギーバンドギャップが二層シリセンでは1.08eVであることが光吸収測定より確認された。
今後、高速電子デバイスや電極材料へ応用展開し、自動運転車両の制御系や電池材料としての実用化が見込まれる。
今回の研究成果は2月5日(英国時間)に英国科学誌「Nature Communications」のオンライン速報版で公開された。