「情報生態系」思考で、人と機械をつなぐイノベーションを創出せよ

自動車 テクノロジー ネット
東京大学大学院  情報学環長、教授 佐倉統氏
  • 東京大学大学院  情報学環長、教授 佐倉統氏
  • SCHOLAR セミナーの様子
  • 司会を務めたスタイル株式会社 須賀喬巳氏
  • SCHOLAR セミナーの様子
  • 東京大学大学院  情報学環長、教授 佐倉統氏
  • 東京大学大学院  情報学環長、教授 佐倉統氏
  • 東京大学大学院  情報学環長、教授 佐倉統氏

4月20日、青山オーバルビルにて「人と機械をつなぐ方法」と題したセミナーが開催された。セミナー登壇者は東京大学大学院 情報学環長、教授の佐倉統氏。

◆「科学的思考が日本の未来を作る」

同セミナーは「SCHOLAR」というプロジェクトの一環でおこなわれており、SCHOLARとは「科学的思考が日本の未来を作る」というコンセプトのもと、科学技術分野での研究者が専門領域での知見を共有し、参加者と意見交換するもの。参加者にはビジネス分野で新規事業に携わる人・学術分野で研究に携わる人が想定されているという(会員戦略を統括する手嶋屋代表取締役の手嶋守氏)。

セミナーは講演・グループディスカッション・発表などで構成されており「セミナー形式ではパワーポイントに頼らずホワイトボードで書くことにこだわっている」のだという(司会を務めたスタイル株式会社須賀喬巳氏)。

今回のスピーカー佐倉氏の専門は現在科学技術社会論、大学院では動物行動学、霊長類学を専攻していたという。佐倉氏の研究者としてのキャリアは、サルやチンパンジーの考察から始まったという。「多様な人間の行動も、サルまでさかのぼれば共通した性質がわかるかもしれない」と考えていたのが、やがてより広範な“科学と社会の関係”に関心が向き始めたのだという。

「科学は普遍的なものだと思っていたんです。でも研究の経験を積むにつれて、たとえ同じ結論に行き着くとしても(研究を行う)人や国によって、対象の見方から研究室の運営まで様々に異なっていることに気付き、科学と社会の関係に興味を持つようになりました」(佐倉氏)。

◆進化のモデルは、人工物や社会の進化を捉えるヒントに

佐倉氏によれば、自身の研究領域である生物の進化のモデルは、その他の人工物の進化や社会の変化を考える上でヒントになりうるものであり、学者ではない来場者にとっても、進化について議論することは非常に重要である、と語る。

では進化とは具体的にどのようなプロセスなのか。佐倉氏は進化の観点から説明することで「遺伝子を増やす」ことと「文化を伝える」ことの2つが関連すると語る。

チンパンジーもその生息地域によって食糧を食べるときのスタイルに違いがあり、また鳥によって鳴き方が異なるように、動物にも文化といってよいようなものもあるが、彼らは自分と遺伝的に近いかどうかを知るための情報、すなわち繁殖するための補助的な情報として文化を位置付けている。ところが人間にとっての文化は時に遺伝子の繁殖への志向を越えてしまうくらいに高い重要性を持つ。自殺カルトによる行動はその顕著な例にあたるという。

また、ここでいう進化とは、必ずしも良くなることだけを意味しないと佐倉氏は指摘する。進化とは普遍的な価値として“良くなる”わけではない。例えばチンパンジーとヒトを比較しても特定の能力においては(さかさまにした図形の認識能力が例に挙げられた)チンパンジーの方が長けているように「進化が階段をのぼるように良くなっていっているわけではない」と強調する。

◆新規事業、イノベーションを考えるうえで大切なこと

進化についての概説が終わると、企業の新規事業開発、社会でのイノベーションに話が移った。

「魚が深海という環境ではその眼を退化させるように、進化の過程でも環境によって相対的に個々の機能や能力の価値が変わっていく。みなさんにとっての個々の情報も、ひとつの単位であって、その価値というのは周囲との関連で相対的に決まる。したがって“情報の生態系”のようなイメージを持ちながら思考することが大切なのでは」

同氏は『利己的な遺伝子』の著者リチャード・ドーキンスの主張を要約しながら、自身の専門分野からの知見をこのように整理した上で、ビジネス分野でのイノベーション創出、新規事業立案に寄与する可能性を説いた。

「新しい事業というのは新しいルールをつくることだとすると、それまで特定の範囲内で考えられていたことが、もっと広い環境のなかで考えることになる。イノベーションも特定のものの発明だけを考えている時ではなく、周辺の物事を含めて考えたときに生まれる。」

佐倉氏からのレクチャーの後は来場者が4から5名のグループごとにわかれてグループディスカッションが行われた。ディスカッションの課題は「ハードウェアの開発を伴った“機械に置き換えられにくいコト”ができる製品を開発する」というもの。各グループが一つの会社、一名のグループリーダーを社長と想定したうえで議論を進められ、最後には各グループから考え出された新製品が提案された。

《北原 梨津子》

【注目の記事】[PR]

編集部おすすめのニュース

特集