【スズキ アルト 試乗】丁度良いというのは、このクルマに使って欲しいフレーズ…中村孝仁

試乗記 国産車
スズキ アルト X
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スズキの新型『アルト』に乗った。37km/リットルという途方もない燃費を誇るモデルである。試乗して感じたことは、これが軽自動車本来の姿。「ちょうど良い」はまさにこのクルマではないかと思えた。

ライバルのダイハツが、『タント』というモデルを出して以降、風潮的には全く不必要ともいえる車室空間を売りにするクルマが増えて、軽自動車が元来持っていた小さくて、スマートで、小回りが利いて、利便性の高いモデルは軽自動車というジャンルの中でマイナーな存在になってしまったと言っても過言ではないように思える。

考えてみればいわゆるトールボーイ系の軽自動車はほとんどのゴンドラ式駐車場には入らないから、それだけでも損をしている。車室空間が広いことは大いなる売りで、それゆえユーザーが飛びついたのだから、そのこと自体を否定するものではないが、個人的には必要以上に天地方向に高いのはいかがなものかとも思う次第だ。車高が高い、イコール、アンバランスになるため、どうしても重心高を下げる工夫をしなくてはならず、結果として重量が重くなるという悪循環に陥り、前述したタントなど、一番軽いモデルでも車重は920kgもある。

そこへ行くと新しいアルトは一番軽いモデルだと僅か610kgしかない。試乗した最上級モデル「X」ですら2WDだと650kgと軽量だ。つまりタントよりほどんと300kgも軽い。軽さの原動力は新しいプラットフォームである。従来よりも60kgも軽くなっているという。プラットフォームだけで60kgの軽量化は、元々車重が軽い軽自動車にしてみれば驚異的である。結果としてガソリン車ナンバーワンの燃費性能が実現できたというわけだろう。

このクルマ、軽量にした結果何かを置き忘れてきた、ということがないのも嬉しい。それに見た目の車両バランスがいい。つまりはトールボーイ系ではなくて、ちゃんと自動車らしい姿をしている。ドライバーズシートに座ってちゃんとポジションをとっても、天井との間にはまだ拳一つ半の余裕がある。これ、普通のセダンなら当たり前の空間で、だからアルトに乗ると普通の乗用車感覚で乗れるのだと思った。

ボディ剛性もきちっととられている。実は軽量化して一番心配だったのが、ペラペラした印象があるのではないかという点だったのだが、そいつはいい意味で見事に裏切られた。乗り心地もどしっと落ち着いていて、NVHに関しても予想したよりはるかに良かった。装備も充実している。エネチャージがあるからアイドリングストップも長くするし、エアコンはオートだは、シートヒーターは付いているは、電動格納リモコンミラーに、レーダーブレーキサポートまで実に豪華装備。シートヒーターなんて、僕の持っている最新コンパクトカーだってついていない(涙)

とまあほとんどいいことずくめだったのだが、一転だけ走っていて「?」が付いたことがある。それがハンドリングだ。このクルマ、キャスターアクションが全くと言ってよいほどないのである。

改めて説明すると、キャスターアクションとはクルマのハンドルをクルマ自身が直進方向に戻そうとする力である。例えば交差点を曲がってハンドルを切った状態から手を離すと、クルマが走り出すにつれてハンドルが自動的に直進方向へ戻る力があることを経験されたドライバーは多いはず。こいつがキャスターアクションだ。セルフステア効果ともいえるのだが、キャスター角の付け方によってこの現象は強く出たり弱く出たりするのだが、多かれ少なかれこいつは普通存在する。

ところがアルトの場合、これがほぼゼロ。だから交差点を曲がったらよいしょとハンドルを戻してやらなくてはならない。高速の大きなコーナー(たぶんR800ぐらい)で、ステアリングを切って方向を定めた後、手を離してみたら、見事に手を触れなくてもコーナーをトレースしてくれた。つまりハンドルは微塵たりとも直進方向へは戻ろうとしなかったことを意味する。

最近このキャスターアクションが希薄なクルマは多く、まあトレンディといえばトレンディかもしれないが、限りなくゼロはいただけない。これだけは改善を望みたいものである。こいつを除けば、もしかすると近年初めて乗ってもいいかなと思った軽自動車である。さすがに37km/リットルをマークするのは至難の業で、相当省エネ運転をしたつもりでもおよそ200kmの平均燃費は24.3km/リットルであった。

■5つ星評価
パッケージング ★★★★
インテリア居住性 ★★★★
パワーソース ★★★★
フットワーク ★★★
おすすめ度 ★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来37年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。

《中村 孝仁》

中村 孝仁

中村孝仁(なかむらたかひと)|AJAJ会員 1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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