国立天文台理論研究部の藤井通子特任助教(国立天文台フェロー)らの研究チームは、アプリケーション「Bonsai」を開発、1万8600台のGPUを使った計算で、これまでで最大規模の天の川銀河進化の数値シミュレーションに成功した。
自然科学研究機構・国立天文台理論研究部がウェブリリースで公表した。
研究チームは、藤井助教のほか、オランダ・ライデン大学のユルン・べドルフ氏、シモン・ポルテギースズワート氏、SURFsaraのエフゲニー・ガブロフ氏、理化学研究所の似島啓吾研究員、筑波大学の石山智明研究員。
計算に用いた粒子数は約2400億で、今回の計算により初めて、天の川銀河の星の観測データと直接比較可能なシミュレーションデータを得ることができるようになった。
天の川銀河を構成する星は2000億~4000億個と言われている。シミュレーションと観測を比較するには、膨大な数の星や銀河を取り囲むダークマターの間に働く重力を計算し、個々の星の運動を導きださなければならない。
研究チームは、スイス国立スーパーコンピュータセンターのPiz Daintと、米国のオークリッジ国立研究所のTitanという、CPUに加えてGPUを搭載したスーパーコンピュータを用いて、これまでで最大規模の天の川銀河の進化シミュレーションを行った。シミュレーションに使ったGPUの最大の数は、Titanに搭載された1万8600台。
1万8600台のGPUを用いて行われた計算の実効性能は、単精度で世界最速の実効性能24.77Pflops(1秒間に2.477京回の計算)を達成した。これは、現在公表されている中では最高の値だ。
今回の天の川銀河のシミュレーションで用いた星とダークマター粒子の数は、合計で最大約2400億個、星のみでは約200億個となる。これは従来の計算より数百倍から数千倍多くの粒子を用いた、世界最大規模の天の川銀河シミュレーションとなった。
Gaiaなどで観測できる実際の天の川銀河にある星の数が約10億天体ほどで、今回の規模の計算で、初めてシミュレーションから得られた星の数が実際の天の川銀河観測データの星ひとつひとつと比較できる数になった。
今回の研究で行われたシミュレーションは、多くのGPUを使って効率よく計算する手法、科学的意義などが評価され、2014年のゴードン・ベル賞ファイナリストとして選出された。
今後は、昨年打ちあげられたGaiaのデータとシミュレーションで得られた結果を比較していくことで、天の川銀河の棒状構造や、渦巻き腕の位置や大きさ、それらの構造の進化過程が明らかになる可能性があるとしている。