伝統のV8エンジンが語りかける「最新のベントレー」の姿…山崎元裕

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ベントレー フライングスパー V8
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ベントレーにとってV型8気筒は、1959年に誕生した『S2』に始まる、伝統的なエンジンタイプだ。

ちなみに現在のベントレーが持つV型8気筒エンジンは、基本設計においては、実に半世紀以上も前の作である。このS2に原点を見出すことが可能な6.75リットルツインターボと、時代の要求に応じて、燃費やCO2排出量といった環境性能をさらに追求するために開発が決断された、4リットルツインターボの2タイプ。前者はフラッグシップモデルの『ミュルザンヌ』に、また後者は『コンチネンタルGT』、『GTC(=コンバーチブル)』、そして『フライングスパー』にも搭載が実現することになった。

それは、“エコ・コンシャス”なベントレーであると同時に、よりポピュラーなベントレーとなるべく誕生した新作なのだろう。それまでのW12モデルに加えて、コンチネンタルGTにV8モデルが新設定された時に、まずこのように考えた人も多かったはずだ。もちろんそれは客観的な事実ではあるが、ベントレーはV8モデルを、ただそれだけの商品として生み出したわけではなかった。V8とW12でそのキャラクターを大きく変えた走り。それこそが、V8モデルの誕生に秘められた、真のコンセプトではなかったのかとさえ思う。

まずは新世代V8モデルとしては最後発となった、フライングスパーV8のステアリングを握る。フルモデルチェンジによって、コンチネンタルというネーミングが消え、4ドアサルーンとしての独自性をさらに強く主張することになったフライングスパー。エクステリアは、先代モデルよりもさらにダイナミックでエモーショナルな造形となり、キャビンもまた快適性や機能性を大幅に高めている。外観でのV8の特徴は、フライングBのエンブレムがレッドとされることや、8字デザインのエグゾーストパイプなど。これらは先に登場したコンチネンタルGTやGTCのV8と同様だ。

8速ATと組み合わされるV8エンジンは、最高出力で507ps、最大トルクでは660Nmを発揮するもの。W12エンジンとの比較では、さすがにその性能差は小さくはないが、ならば走りの中でパワー不足を痛感するのかといえば、そのような場面はほぼ皆無に近い。通常時には40:60の前後駆動力配分となるフルタイム4WDシステムとの組み合わせで、必要時には素晴らしいアクセルレスポンスとともに、フルパワーを4輪から効率的に炸裂させることができるのも、大きな魅力といえる。

フライングスパーV8の走りで特に感動的なのは、コーナリング時の軽快さだろう。ハイウエイ・クルーザー的な性格が強く演出されたW12と、きわめて優秀なコーナリングマシンであるV8。同じフライングスパーでありながら、ここまで明確に走りのテイストを変化させるのは、さすがにベントレーの技だ。

きわめて快適なリアシートまわりの移動空間を持つとはいえ、そこはフライングスパーV8にとってはベストなポジションではない。この感覚は、伝統のV8エンジンを継承するミュルザンヌにもいえることだが、ベントレーのエンブレムを掲げるモデルにとって、移動中のベストポジションは、常にドライバーズシートであることを、改めて思い知らされた。

フライングスパーには、残念ながらまだその設定はないが、コンチネンタルGT/GTCにラインナップされているV8Sは、このドライバーズ・カーとしての、そしてコーナリングマシンとしての魅力を、さらなる高みへと導いてくれた最新作だ。V8エンジンの最高出力は、さらに21psのエクストラを得ることになったが、実際の走りの中でスタンダードなV8との違いをより明確にしているのは、このパワーを受け止めるシャシーのセッティング。ベントレーはそれを、より積極的なターンインを実現するためのチューニングと説明するが、なるほどV8Sに採用されたスポーツサスペンションは、それを意識したセッティングとなっている。コンパクトなV8エンジンを搭載したことによる、コーナリング時のノーズの軽さは、V8Sではさらにその魅力を増す。

フラッグシップのミュルザンヌも、リアシートの快適性のみを求めるという性格のモデルではないことは、前でも触れたとおり。今から半世紀以上も前に、その基本設計を生み出したベントレーのエンジニアは、半世紀後にもそれが存在しているだろうとは、おそらくは誰も想像すらしなかったはずだが、ベントレーは最新技術を惜しみなく投入することで、それを最新のミュルザンヌに継承した。

同じ4ドアサルーンでも、ミュルザンヌの走りには、フライングスパー以上の重厚感がある。512psの最高出力を主張するV8エンジンは常にスムーズな印象に終始し、またそれに組み合わされる8速ATの制御も素晴らしい。ステアリングとサスペンションの特性を、走行スタイルに応じて変化させることができる、ドライブ・ダイナミック・コントロールの優秀さも、ミュルザンヌに、世界のハイエンドを極めたスポーツサルーン、という印象を抱かせてくれる大きな理由。伝統と革新、それをここまで見事に共存させることに成功したブランドは、そう多くはないだろう。


山崎元裕|モーター・ジャーナリスト(日本自動車ジャーナリスト協会会員)
1963年新潟市生まれ、青山学院大学理工学部機械工学科卒業。少年期にスーパーカーブームの洗礼を受け、大学で機械工学を学ぶことを決意。自動車雑誌編集部を経て、モーター・ジャーナリストとして独立する。現在でも、最も熱くなれるのは、スーパーカー&プレミアムカーの世界。それらのニューモデルが誕生するモーターショーという場所は、必ず自分自身で取材したいという徹底したポリシーを持つ。
《山崎 元裕》

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