【トヨタ プロボックス/サクシード 改良新型】走りの良さはそのままに「我慢のいらないクルマ」を目指して…開発者インタビュー

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プロボックス/サクシードの製品企画をとりまとめた製品企画本部 ZP 主幹 岩月明氏
  • プロボックス/サクシードの製品企画をとりまとめた製品企画本部 ZP 主幹 岩月明氏
  • プロボックス/サクシードの操安性開発担当者。左から木下 摂氏、岩月 明氏、平田 種男氏
  • 車両実験を担当した平田 種男氏
  • シャシー設計を担当した木下 摂氏
  • トヨタ サクシード
  • トヨタ プロボックス / サクシード
  • トヨタ プロボックス / サクシード
  • トヨタ プロボックス

トヨタの商用バン『プロボックス』/『サクシード』が12年ぶりのマイナーチェンジを遂げた。環境性能を高めた新エンジンの搭載、実用性を追求した内装の改良が目玉だが、これらを実現するため、マイナーチェンジでありながらプラットフォームを刷新するという意欲的な試みがおこなわれているのも注目のポイントだ。

これにともないサスペンションの構造も最適化。さらに車速感応型の電動パワーステアリングの採用などにより、空車時、積載時ともに扱いやすさと高い操縦安定性を実現したという新プロボックス / サクシード。その走りはいかなるものか。製品企画をとりまとめた岩月 明氏、シャシー設計を担当した木下 摂氏、車両実験を担当した平田 種男氏の3名に、操安性(操縦安定性)の開発のねらいとコンセプトを訊いた。

◆走りの良さはそのままに、「我慢のいらないクルマ」を目指して

----:今回は新型プロボックス / サクシードの走りの部分、特に操縦性や乗り心地についてお訊きしたいと思います。今回は特に、ユーザーの声を集め、それを開発に活かしたと聞いています。さらにそれを検証するために、かなりの走行テストをおこなったということですが。

岩月:今回はスタッフの中で私が一番クルマに乗ったと思います。お客様の目線でいろいろな意見を言わせてもらいました。今回あらためて先代に乗ってみて、すごくしっかり走るクルマだとまず思いました。ある意味、乗用車系のコンパクトカーよりしっかり走るんじゃないかと。これは私だけではなく、他の営業スタッフからも同じような意見が出ました。

お客様に聞いても「走りはだいたい申し分ない」「よく走るし、これでいいよ」という意見が多かったのですが、一方で「やっぱり乗り心地がね…」ですとか「長距離を走る時は『カローラフィールダー』の方が良い」といったご意見がありました。つまり、荷物はしっかり積めるし走りもいいが、快適性はちょっと、ということです。ならば先代の走りの良さは残したまま、乗り心地が良くて我慢のいらないクルマにしようと開発が始まりました。

木下:私はシャシー設計の面から、サスペンションをもう一度設計し直すという作業を行いました。先代モデルがよく走るのは、我々も乗って感じていました。一方で、主査(下村修之氏)を含めた開発スタッフの思いと同じく、乗り心地をもっと良くしたい、長時間乗っても疲れないものにしたいという気持ちも湧きました。

トヨタ全体で“もっといいクルマ”を作っていくという大きな動きもあり、乗り心地だけではなく、例えばハンドルを切ったら切っただけスムーズに曲がる、戻したら戻っていく、そんな基本的な操縦安定性の底上げをして、トータルで長時間乗っても疲れないようにしたい、というのが設計の思いとしてありました。乗り心地のためサスペンションを柔らかくしよう、ではなく、ドライバーの意図に応じてクルマが動くことを目指しました。

◆乗用車と変わらない乗り心地を実現する

----:操縦安定性や乗り心地というのは、乗用車にも求められる基本的な性能ですね。

木下:そうですね、そこは共通しています。今回は乗用車に向けて開発されたアイテムも数多くフィードバックして新型に入れました。フロントのプラットフォームを刷新し、全て見直したのです。バネやアブソーバーの設定はもちろんのこと、アブソーバーに使うバルブ、ベアリングの一つ一つ、サスペンションのバンプストッパー、ゴムの使い方といったものです。これらを新規開発することで、全体的なレベルアップを図りました。12年ぶりのモデルチェンジでこれからまた10年使うということですから、今持っている武器は出来るだけ入れようと。

----:車両実験を担当された平田さんが今回特に注力したのは。

平田:先代モデルの適合(チューニング)に関わっていたこともあって、私なりの思いがありました。先代にあらためて乗ってみると、乗った瞬間に「商用車だ」と感じる部分がありました。自分としては乗用車感覚で走り、商用車という感じがしない乗り心地を目指したい。そうすれば疲れないクルマになると考えました。

----:乗り心地の点で、乗用車と商用車の違いとは具体的にどういうことでしょうか。

平田:商用車の場合は、空荷から最大400kg積んだ状態まで、基本的な操縦性と乗り心地を両立するという難しさがあります。我々の業界用語では2~4ヘルツという低周波の動き、バネ上のヒョコヒョコした動きが先代にはそれなりにありました。そういう動きに伴ってショックが伝わるのも気になりました。こういったものが、疲労に大きく影響します。ですから新型では、空荷でもフル積載でも性能の変化がないことを、繰り返しテストしながら目指しました。

岩月:私自身、長距離走行での疲労感を確認するため、かなり走りこみました。夏に士別のテストコースで、積載状態を変えながら2日間、競合車を含めて朝から日没までひたすら走りこむということもしました。疲労感をチェックするためだけに、ここまでやったのは初めてです。またヘタリ試験で使ったシートで走ったりもしました。

先代はフル積載でも変な動きが出ないように、前後のバネ・アブ(ソーバー)を固めにセッティングしていました。しかし新型はフロントサスペンションを一新したことで、フロントのスタビライザーを太くし、合わせてリアのスタビライザーも太く出来ました。簡単に言うとスタビライザーでロールを抑えこめたので、サスペンションを少し柔らかめに、スムーズに動くものに出来たわけです。同時に、先代から乗り換えたお客様が、400kg積んで走った時でも違和感なく安心して走れるようにサスペンションの味付けには最後までこだわりました。

木下:今回はタイヤも新たに開発しました。基本的に商用車は、空荷と積載時でタイヤの空気圧を変えるのですが、今回は空気圧が低いまま積載しても性能上は成り立つ設計にしました。また、12年間のタイヤ技術の進化、その進化分を全て走りに使いました。普通は燃費の向上に使ってしまうんですけどね。進化分のポテンシャルでタイヤの横剛性をしっかり上げ、コーナリングフォースをしっかり取り、でも乗り心地は良くする、という方向に全部使っています。

◆これからの10年を戦い抜くことができる商用車を

----:400kgといえば、相当な重さですよね。運転していても、その重さを実感できるものだと思います。

岩月:最近は宅配便配送が増え、営業マンが荷物を積む機会は少なくなっています。しかし出先で「これ、持って帰ってくれ」と言われたら、フル積で帰ってくるということもあり得ると。ペンキなどの一斗缶(約18リットル)20個とか、もっと積んだところまで見ています。信頼性というのは一番厳しい状態を見るということですから。空荷でもいいし、フル積載でも安心して走って帰れる、そういうところを目指しました。

信頼性や耐久性といった部分は、販売店やお客様のところで調べてみました。リースで使っていただいているケースがほとんどですから、メンテナンスはしっかりされていて、それほど大きなトラブルはないと分かりました。また、27万kmほど走った先代モデルを2台買い取り、分解して調べてみましたが、ほとんどヘタリがありませんでした。エンジンなどすべてが新しくなった新型も、やはり30万kmくらいまでは問題なく走ることができると考えています。

開発の途中、仮ナンバーを取って、新型、先代、競合車を一般道や高速道路で乗り比べましたが、テストコースよりも違いがよく分かりました。最初は先代もいいねという話をスタッフとしていたのですが、一度乗ってしまうとやはり新型の方がいい。新東名ではなく、東名のような少し荒れた路面を走ると、操縦性や乗り心地の違いが本当によく分かると思いますよ。

《聞き手:宮崎壮人 まとめ:丹羽圭@DAYS》

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