【トヨタ T-Connect インタビュー】アップルとは異なる姿勢、車はもっと安全かつ魅力的になる…友山茂樹常務役員

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6月18日、トヨタ自動車が新テレマティクスサービス「T-Connect(ティーコネクト)」を発表した。既報のとおり、これは過去12年にわたり続いてきた同社のテレマティクスサービス「G-BOOK」の後継となるもので、音声対話型インターフェイス「エージェント」を筆頭に、これまでのG-BOOKから大きく進化・革新したものだ。

トヨタはこのT-Connectで何を狙うのか。トヨタ自動車 常務役員の友山茂樹氏に話を聞いた。


◆ブランド名称変更の狙いと、今後の移行計画

----:G-BOOKからT-Connectへ。今回、ブランド名からサービス内容まで大きく変えたわけですが、その理由や狙いはどのようなものでしょうか。

友山: G-BOOKは「安心・安全」に力点を置いて開発してきて、その重要性は今もなくなったわけではありません。しかし、それだけでいいのかというと、そうではありません。スマートフォンの普及やビッグデータ活用、対話型音声インターフェイスなど(ITを取りまく)周辺環境はこの10年余りで大きく変わりました。そういった時代の変化に、しっかりと対応しなければならないと考えてT-Connectが生まれました。

今回、T-Connectとして我々が狙ったのは、『クルマがドライバーと心を通わせるパートナーになっていく』ということ。そして、その実現にトヨタだけでなく、多くの企業がコンテンツやサービスを提供できるようにすることです。自動車ビジネスそのものの在り方も含めて(G-BOOK時代から)見直しをし、プラットフォームも刷新しましたので、名称も"トヨタとつながる"という意味を込めてT-Connectにしました。

----- 今後、トヨタのテレマティクスブランドは順次T-Connectに切り替わっていく、と。

友山:ええ。クルマがモデルチェンジするタイミングなどもありますので、今後の新型車からT-Connect対応へと切り替えていきます。レクサスに関しては、T-Connectの各機能に対応させた新G-Linkとして切り替えを行っていく考えです。なおレクサス向けの新G-Linkについては、(現行G-Linkと同様に)DCM付きで車両に標準搭載されます。


◆T-Connectのコアとなる「エージェント」思想とは

----:T-Connectの各機能の中でも、今回は対話型インターフェイスの「エージェント」が目玉機能になりましたね。

友山:ええ、エージェントが今回の進化におけるコア(核)になっています。音声対話型のエージェントサービスについては、今回がまったくの初めてというわけではなく、従来のG-BOOKやG-Linkで長年有人オペレーターサービスを提供して高い評価をいただいておりました。この有人オペレーターサービスのノウハウやデータの蓄積も活かして、今回はそれを(無人の)ロボット化して提供する形になりました。

----:T-Connectのエージェントは単なる自然言語対応の音声認識システムではなく、あくまで"対話するUI"という位置づけですね。方向性としては、AppleのSiriなどに近い。

友山:そのとおりです。音声認識技術そのものは過去にも多くの企業が提供していますが、我々のエージェントが目指したのは、あくまで"ドライバーとの対話"です。ドライバーが何を求めているかというものをシステム側が理解できるように、有人オペレーターサービスで蓄積されたデータが活かされています。

---- 今回のエージェントではロボット型の音声認識システムが対応できなかった場合は、有人オペレーターサービスに引き継ぐ形になっています。この仕組みはスマートフォン向けに提供している「Smart G-BOOK」と同じですね。

友山:そのあたりの仕組みといいますか、フローに関しては、Smart G-BOOKのノウハウも活用しました。その上で、高度な条件検索や曖昧表現に対する類推などについては、ビッグデータ解析技術などを用いて対応しています。

----- 自然言語・会話型の音声インターフェイスは初期のシステム構築やデータベースの準備はもちろんのこと、サービス提供後の解析率向上のためのメンテナンスが欠かせません。そのための体制作りはできているのでしょうか。

友山:もちろんできています。だいたい1週間単位でデータベースを見直します。例えば、エージェントでは音声認識システムで適切な答えが出せず、有人オペレーターが作業を引き継ぐと履歴が残るようになっています。この修正履歴を精査し、会話エンジンに反映させることで、(ユーザーが)使えば使うほど認識精度や提供情報の適切性が向上していきます。

また、エージェントそのものに登録するコンテンツ情報も今後さらに拡充していきます。現在、エージェントで利用できるPOIデータは800万程度あるのですが、それに対して(会話による曖昧検索で利用する)パラメーターも追加していきます。例えば、「○○通り沿い」といった指定情報などですね。

----:エージェント機能のもうひとつの注目機能として、ユーザーの利用履歴データを参照して適切な情報提供をする「先読み情報案内サービス」というものも用意されましたね。これは以前から友山さんが話されていた"目的地を設定しないでナビゲーションする"機能を実現したものと言えます。

友山:ええ、やっと実現しました(笑)。カレンダーと時刻情報を元にして、過去の利用履歴を解析して(ドライバーの行動先読みを)実現していきます。予測作業自体は走行中も含めて5分ごとに行い、予測精度を高めています。

-----:ナビの目的地を設定していなくても、自分が行こうとしている場所を先読みして渋滞回避の案内などをしてくれるのは便利ですね。

友山:ええ。また、渋滞回避以外にも、走行する確率が高いルートで先行車のABSなどが作動し、あわせて雨天情報などがセンター側に上がりますと、クルマ側で警告するといった機能も用意されています。様々な形で先読みのメリットがあるわけです。


◆TOVAの優位性はどこにあるか

----:エージェント以外の部分では、今回、車載器上でコンテンツプロバイダーのアプリを利用可能にする「Apps (アップス)」も注目です。

友山:今後のクルマのスマート化で考えますと、我々だけがコンテンツやサービスを提供するのではなく、多くの企業にプラットフォームを開放した方が、より魅力的なコンテンツやサービスが生まれることは十分に考えられます。Appsでは、それを目指していく。

しかし、その一方で、クルマにとって「安全・安心」が最優先です。(マルウェアなど)不正なアプリがクルマに入ることは絶対に防がなければなりません。ですから、T-Connectではトヨタがアプリストアを運営し、コンテンツプロバイダーやアプリの審査を行って不正なアプリでないかの確認をします。さらに車載器側にはセキュリティチップも搭載しておりまして、T-Connectのセンター側で承認されたアプリ以外はダウンロードやインストールができない仕組みになっています。

----- アプリの開発環境自体はオープンにするが、流通過程で品質や安全性の担保を行う、と。

友山:そのとおりです。アプリ開発環境については、Javaをベースにした開発環境「TOVA(Toyota Open Vehicle Architecture)」を用意してオープンに行います。ソフトウェア開発キット(SDK:Software Development Kit)を配布し、さらに車載器での動作を確認するためのエミュレーターも用意しました。

----- クルマ向けアプリのプラットフォームに関しては、AppleやGoogleはもちろん、FordやGMなども参入して競争しています。そのような中で、トヨタのTOVAが他のプラットフォームに対する優位性となる部分はなんでしょうか。

友山:まずは車両情報が利用できるということです。位置情報はもちろんのこと、アクセル開度やステアリングの舵角情報などまでアプリ側で利用できます。こういった車両情報を、AppleのCarPlayなどにも提供するかというとかなり疑問です。

また将来的には、アプリからクルマの車載器を操作できるようにしていきたい。エアコンを操作する、窓を開けるなど。これは高度運転支援の中で拡大してゆく可能性があります。こういった一歩踏み込んだアプリと車両の連携が検討できるのは、先ほど申し上げたとおり、TOVAのセキュリティについてトヨタがきちんとチェックする体制を構築しているからです。

----- TOVAの他の自動車メーカーへの展開については、どのような考えを持たれてますでしょうか。

友山:その点については具体的には申し上げられないのですけれども、基本姿勢として、TOVAを採用したいという自動車メーカーがあれば検討していきたいと考えています。

----:Appsを広げて広くコンテンツプロバイダーを呼び込もうとすると、「どれだけT-Connect対応ナビが普及しているか」も重要になります。今後の普及計画についてはどのようにお考えでしょうか。

友山:これまでのG-BOOKは最初にメーカーオプションとして(対応カーナビが)出て、その後にディーラーオプション用のカーナビが対応していきました。しかし、今回はスタートからディーラーオプション用が投入されます。

現在、トヨタ販売店でのカーナビ装着率は60%くらいあるのですが、その中でかなり高い比率がディーラーオプションになっています。ですから、T-Connect対応ナビに関しては、普及価格帯の車種も含めて、G-BOOKよりかなり早いタイミングで普及していくでしょう。

----:T-ConnectではDCMだけでなく、スマートフォンのテザリング機能を使ってテレマティクスを利用できるようになりましたから接続率自体も向上しそうですね。

友山氏 :はい。Wi-Fi対応はかなり大きなポイントで、テザリングはもちろん、au Wi-Fiや自宅のWi-Fi環境なども利用できます。これによって地図更新などもやりやすくなりました。

----:2020年の東京オリンピックに向けて道路が大きく変わりますから、地図更新のニーズは高くなりそうですね。

友山:我々もそう考えていまして、トヨタでは月平均2.6回の地図更新を行っているのですよ。地図更新の専門チームを作って、最新の地図にきっちり対応する体制で臨んでいます。

-----:なるほど。T-Connectで非DCMユーザーも通信しやすくなりますから、地図更新頻度の高さの恩恵も受けやすくなりますね。


◆トヨタとしてやるべき「クルマのスマート化」とは

----- IoT (Internet of Things)市場が注目される中で、クルマのスマート化はとても重要な意味を持ち始めています。トヨタの考えるクルマのスマート化と、そこにおけるT-Connectの位置づけとはどのようなものになるのでしょうか。

友山:クルマのスマート化が進むことで、クルマはより魅力的でお客様にとって頼りになる存在になっていきます。今回のT-Connectで、そういった道筋を開くことができました。今後もクルマのスマート化は様々な企業が取り組み、いろいろな提案が出てくるとは思いますが、トヨタとしては安全を最優先でその上に"スマート"の価値を構築していく。これは自動車メーカーとして、きっちりとやっていきたい。Appsなどはその代表的な例ですけれども、ドライバー支援や運転支援に対する考え方などは、(AppleやGoogleなど)IT企業とは異なる姿勢が現れているのではないかと思います。

----- AppleやGoogleなどのクルマ向けアプローチとは棲み分けていく、と。

友山:そうです。AppleのCarPlayのようなやり方はあっていい。しかし、車両情報を使ってどのようなスマート化を行うか、どのようなアプリやコンテンツを用意するのか、という点では、自動車メーカーとしてやるべきことがあるでしょう。少しハードルを上げた言い方をすれば、健全な形でのクルマのスマート化を、T-Connectを軸に推進していきます。
《神尾寿》

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