【池原照雄の単眼複眼】人づくりに大きなミッション…エンジン研究組合のAICE

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乗用車メーカー8社と日本自動車研究所によるエンジン研究組合が5月19日に東京で発足
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乗用車8社が学官と一丸の研究推進体制

乗用車メーカー8社と日本自動車研究所(JARI)によるエンジンの研究組合が5月19日に東京で発足式を行い、産学官が一丸となって燃費性能向上や排ガス低減のための共同研究が始動した。グローバルで「日の丸エンジン」の競争力を高めるだけでなく、大学などでの自動車工学分野の人材育成も大きな狙いだ。

発足したのは4月1日に設立していた「自動車用内燃機関技術研究組合」(略称AICE=アイス)で、トヨタ自動車など乗用車メーカー全社が組合員となった。ホンダは本田技術研究所で参画し、初代の理事長に同研究所の大津啓司常務執行役員が就任した。エンジンの排気ガス浄化や燃焼に関する技術で、共通課題の基礎研究および応用研究を進め、メーカー各社はその成果を使って自社エンジンの開発スピードを速めていく。

初年度は(1)ディーゼルエンジンの後処理技術(2)ガソリンエンジンの燃焼技術、さらに(3)海外メーカーのエンジンの性能調査 から取り組む。事業費は10億円で、うち5億円は(1)のディーゼル後処理技術研究に対する国の補助金となる。

効率化とスピードアップへ、やるのは「今」

このディーゼルの研究では6つのテーマに応じて東京大学、早稲田大学、広島大学、北海道大学など全国の大学が参画、各校あるいはJARI、自動車メーカーの研究所などに学生やメーカーの技術者らが集まって研究を進める。2020年までにCO2(二酸化炭素)の排出を10年比で30%削減するのが目標だ。他のテーマでも同様の研究体制をとる。

AICEがお手本とするのはドイツを中心とした欧州の自動車産業の研究スタイルだ。戦後早くから産学官が一体となって基礎研究分野は共同で推進するなど、資金も技術開発も効率的にできる体制を築いてきた。今後、燃費や排ガスの規制強化が世界で進むなか、日本各社のエンジン開発は一層の効率化とスピードが求められる。大津AICE理事長は「数年前から、各社の技術者の交流の場でもある自動車技術会で設置を検討してきた。各社とも“今やらないでいつやるのか”という機運になった」と、設立の経緯を話す。

自動車目指す技術者のすそ野を広げる

AICEのミッションは、内燃機関の基礎・応用研究による成果だけでなく、「人材育成」ももう一方の柱になる。19日の発足式に出席した自動車各社の技術担当役員に取材すると、むしろ人材育成への危機感とAICEへの期待を指摘する声が圧倒的に強かった。日本の大学の工学系では、エレクトロニクスや情報技術へのシフトによって内燃機関などの自動車工学を専攻する学生が細っているのだ。

発足式では「大学での内燃機関の研究は、残念ながら失われた20年だった」(早稲田大教授)という反省も聞かれた。だが、大手メーカーの幹部は「エンジンは自動車各社が競ってきた分野であり、技術者も企業で囲って育成する風土になってしまった」と、大学や学生の自動車離れの原因は企業側にもあると指摘する。

トヨタのユニットセンター・エンジン統括部長である杉山雅則常務理事は「ドイツでは大学と自動車メーカー間で人材が行き来することが普通だ。一気にそこまでは難しくても、AICEによって人材交流が進み自動車産業を志す方のすそ野が広がれば」と、期待を示す。

本田技術研究所の山本芳春社長も同様の見解をもち、AICEが取り組む海外メーカーのエンジン性能調査などは「各社が個々にやっていた作業が一本化できて無駄が省けるし、学生に調査に参画してもらえば自動車産業との大きな接点にもなる」と話す。「モノづくりは人づくり」は、トヨタの豊田英二・元社長の遺訓だが、AICE設立は自動車業界が垣根を越えてモノづくりの原点に戻る動きでもある。

《池原照雄》

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