【土井正己のMove the World】VOLVOから見える“小さな大国”スウェーデン

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ボルボ・V40 クロスカントリー T5 AWD
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今月、桜も満開まであと少しという頃、スウェーデンのストックホルムに行って来た。男性、女性、老人とも道行く人が全てオシャレでカッコいい。ストックホルムは、そういう大人の街だ。スウェーデンの人口は1千万人弱で、東京都より少ない。首都ストックホルムの人口は90万人弱、それでもヨーロッパの中では大きな街と言える。少し歩くと、かつては北ヨーロッパの栄華を誇った港町であったことがすぐに感じられる。整った湾口の岸辺には、商館風の豪華な建物が立ち並び、現在は高級ホテルやレストランとなって、テラスではオシャレな中年カップルがワイングラスを傾けていた。

この国には、意外と有名な世界ブランドがある。「VOLVO」や「Saab」はご存知と思うが、「エリクソン」「IKEA」「H&M」「テトラパック(世界最大級の紙パックメーカー)」そして企業ブランドではないが「ノーベル賞」。それらがスウェーデンという人口1千万人にも満たないこの国を世界の大国と同様の存在感を与えている。

歴史的に見ると、グスタフ2世アドルフが率いた17世紀のころには、バルト海を制する大国家を形成している。それも、やはり豊富な木材を擁した造船技術が、この国を欧州の強国にのし上げた。1628年に完成し、数時間の処女航海で沈んでしまった「ヴァーサ号」という巨大軍艦が博物館に展示されており、その技術の卓越さを目の当たりにすると、この国は昔から「モノづくり大国」だと確信することができる。

もう一つ、この国に来て驚いたことは、どんな小さな店に入っても英語で話しかけられることだ。「なぜか」と地元の人に聞くと「小学校の時から学校で叩き込まれるのと、テレビの英語ドラマが、字幕付きで音声はそのまま流すので勉強できる」という。私も子供の時には、よくアメリカ・ドラマを見ていたが全て吹き替えであった。この国は、「モノづくり大国」であり、それを世界にトレーディングするために英語教育に力を入れてきたというわけだ。まさに、日本が目指すべき国は、ここなのかもしれない。

◆頑固なまでに安全思想を貫く「VOLVO」

この国に「VOLVO」が生まれたのは1927年。3点式シートベルトを世界初採用するなど、ボルボと安全への取り組みは歴史がある。帰国後、最新モデルである『V40クロスカントリー T5 AWD』に試乗したが、世界初となる「歩行者用エアバッグ」がオプション設定されており、かつてと同様に安全重視の姿勢は変わっていない。

このエアバッグは、衝突時に歩行者の衝撃を和らげるため、ボンネットが少し浮き上がり、ボンネットの下からエアバッグが出てくる構造となっている。昨今、日本でも高齢者の歩行者事故が増加していることから、こうした対応は高く評価されていい。また、リアバンパーに埋め込まれた高精度ミリ波レーダーで死角情報をサポートしてくれる「ブラインドスポット・インフォーメーション・システム」は、確かに事故の軽減につながると思える。この他、オートブレーキシステム、レーン・キーピング・エイドなどが全てのモデルに標準装備、アクティブ・ハイビームも上級モデルには標準装備となっている。

運転性能においては、2.0リットル5気筒ターボエンジンにより、スポーツドライビングを可能にしてくれている。高速道路では、アクセルペダルの踏み込みと同時に鋭い加速感を背中で感じることができた。運転していて、特に気に入ったのは心が落ち着く内装である。白と黒を基調としたシックな色合いと目にやさしいインジケーターは、ストックホルムのオシャレな中年好みだと感じた。

◆世界に環境にシフトさせた「ストックホルム会議」と「VOLVO」の今後

ストックホルムは、世界の環境政策をリードしてきた都市でもある。1972年にこの都市で、「国際連合人間環境会議(ストックホルム会議)」が開催された。そして、この会議に向けて、「ローマ・クラブ」が発表したレポート「成長の限界」は、「環境に無理を課して成長を続けた経済が、今後数年で限界に突き当たる」と警告した。環境問題と文明の発展を歴史上初めて正面から捉えた舞台が、ストックホルムであったということだ。

「VOLVO」のクルマには、スウェーデンらしさを感じる。同社の資本は、いくつかの変遷があるが、一貫して開発体制の中心がスウェーデンであることには変わりはない。これからも、一層スウェーデンの個性を追求して欲しい。すなわち、人間重視のやさしさや、成熟した大人の魅力である。デザインをもっとラクシュアリーに振り、パワートレインでは環境重視を強調してもいいのではないかと感じる。昨年の東京モーターショーに出展された「Volvo Concept Coupe」は、まさにその方向だ。デザインでは力強さとエレガントさを兼ね備え、パワートレインは、プラグイン・ハイブリッドとしている。また、本年の北米国際自動車ショー(デトロイトショー)に出展された「Volvo Concept XC Coupe」もその方向である。

スウェーデンは欧州の列強の中で、国家としてのアイデンティティを明確にしながら、また時には「ストックホルム会議」のように世界の潮流を決める役割を果たしてきた。「VOLVO」も経営的な苦難を乗り越え、「モノづくり大国」のDNAを引き継ぎ、これまで同様、時には世界の潮流を作り出すクルマづくりをしてくれるのだろうと期待する。

<土井正己 プロフィール>
クレアブ・ギャビン・アンダーソン副社長。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野、海外営業分野で活躍。2000年から2004年までチェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2010年のトヨタのグローバル品質問題や2011年の震災対応などいくつもの危機を対応。2014年より、グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサルティング・ファームであるクレアブ・ギャビン・アンダーソンで、政府や企業のコンサルタント業務に従事。

《土井 正己》

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