2014年3月19日、株式会社ヤクルト本社とJAXAは、”乳酸菌 ラクトバチルス カゼイ シロタ株”が宇宙飛行士の免疫機能、腸内環境へ及ぼす効果についての共同研究を開始すると発表した。2016年には、国際宇宙ステーション(ISS)上で「ヤクルト菌」を宇宙飛行士が摂取する。
JAXA 宇宙航空研究開発機構の宇宙医学生物学研究者、太田敏子筑波大学名誉教授によれば、ISSに長期滞在する宇宙飛行士には、滞在中、打ち上げ・帰還に伴うストレスから免疫機能が低下する問題が知られており、腸内細菌叢の乱れ、いわゆる”悪玉菌”の増加も起きているという。現在はISS長期滞在期間はおよそ6カ月だが、2015年から1年間の長期滞在が始まる。また、月や火星探査など将来のさらに長期間の宇宙滞在に向け、免疫機能低下、骨密度低下、筋萎縮などの宇宙飛行士の健康問題への対策が必要になる。
「ヤクルト菌」として知られ、ヤクルト創業者の代田稔医学博士が発見した乳酸菌、ラクトバチルス・カゼイ・シロタ株(LcS菌)は、日本で開発され、75年以上食されてきており、安全性が高く多くの学術的実績を持つという。また、菌を生きたまま摂取することができるため、薬品としてではなく「機能性宇宙食」を開発することが可能になる。宇宙飛行士の健康改善に実績を上げられれば、地上では高山や在宅医療などの分野にも活用できる。微小重力・閉鎖環境でプロバイオティクス( 腸内環境を改善し、人などに有益な作用をもたらす生きた微生物)の実験を行う例は、これが初となるという。
まずは2014年度から2015年度まで、2年かけて生菌を長期に保存できる技術の確立を目指す。国際宇宙ステーションには食品用の冷蔵設備がなく、LcS菌を飲料のヤクルトとして持ち込むことは難しい。カプセル状、固形状など形状にはこだわらず、輸送船およびISSに搭載可能な形態を開発する。また、現状ではISSに細菌を持ちこめない制限があるため、NASAの基準をクリアする安全性を獲得する必要もある。
軌道上実証は2015年度末ごろからを予定しており、ISSに長期滞在する宇宙飛行士に1カ月間LcS菌を継続して摂取してもらう。各国宇宙飛行士に参加を呼び掛け、糞便や唾液、血液サンプルの摂取に同意を得た宇宙飛行士が対象となる。日本人宇宙飛行士では、大西卓哉宇宙飛行士が第48次/第49次長期滞在クルーとして、2016年6月ごろからISSに約6カ月間滞在する予定となっており、LcS菌摂取の候補となる。