【土井正己のMove the World】日米の合作テスラ モデルS、日産・三菱のEV開発も加速

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テスラ・モデルS
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  • 1985年のNUMMI
  • 豊田章男社長がかつて副所長を勤めたNUMMI
  • 最後のカローラを送り出すNUMMI従業員たち
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テスラ「モデルS」に試乗

先日、テスラモーターズの『モデルS』に初めて試乗した。EVならではの加速感、クイックなレスポンスは、やはり前評判通りの素晴らしさだった。しかし、私が驚いたのはEVとしての性能ではなく、むしろ「クルマとして良くできている」という点である。

ハンドリング、サスペンション、静粛性(エンジン音はないので、ロードノイズや風切音などの制御)、ボディ剛性感というクルマそのものの完成度が極めて高い。デザインでも、外観、内装とも大変レベルが高く、これまでのクルマにない斬新さを感じた。

タッチパネルは、B4縦くらいの大きさのタブレット型PCがダッシュボードにはめ込まれていると思っていただければいい。ここに大きな地図も出れば、バッテリーの残量やインターネットラジオ局も出てくる。とにかく、字が大きいから運転しながらでも視認性が極めていい。EVというパワートレインだけでなく、「テスラが独自の世界を作り出した」というのが率直な感想だ。

価格も「85」(85kWhバッテリー搭載車)が993万円とラクジュアリークラスでの競争は十分可能な価格帯となっている。今年の世界販売目標は3万5000台だそうだが、軽く突破しそうな勢いを感じる。

本年2月25日、米国のコンシューマ・レポートは、2014年モデルの260車種を対象にテストを行い、同社が推奨するトップ10モデルを発表したが、このモデルSが「総合1位」を取った。この総合1位というのは、カテゴリー別ではなく、トップ・オブ・トップスの意味で、2010年にレクサス『LS460L』が獲得して以来、対象モデルはこれまでなかった。このニュースに触れ、「やっぱり」という納得感、そして同時に「よくやった」という感慨深いものがこみ上げてきた。それは1984年に遡る。

◆GM・トヨタの合弁工場、そこに「モデルS」参上

私がまだトヨタ自動車に入社して間もない頃だった。大挙して米国の報道陣が日本を、そして豊田市を訪れた。トヨタが、GMと合弁で北米に工場をつくることになったからだ。

トヨタにとっては、初めての本格的な北米生産。GMにとっては、トヨタ生産方式など、コンパクトカーのリーンな生産をトヨタから学ぼうという意図があった。条件は、GMのカリフォルニアの休眠工場、そして、そこの従業員を雇用することであった。多くの米国人従業員が、高岡工場にトヨタのクルマづくりを学びにやってきた。「元来、日本が米国から学んだクルマづくり、今度は米国が日本から学ぶ」ということで、米国の3大ネットワークをはじめとする主要メディアが、こぞってその研修の様子を取材しにやってきた。

そして、同年、NUMMI(ニュー・ユニナイテッド・モーター・マニュファクチャリング)としてカリフォルニアに合弁会社が設立され、そこで、GMとトヨタが共同でクルマをつくり始めた。UAWという米国の強力な労働組合が組織化されている工場であったが、当初懸念されたトラブルもほとんどなく、順調に活動を続けた。

ところが、2009年にリーマンショックが米国、そして世界を襲い、GMは「チャプター11」(連邦破産法第11章)に突入した。当時はブッシュ共和党政権で、かなりもめたが、工場を大量リストラすることを条件に政府救済に入った。そして、ついに、NUMMIからもGMは撤退することになった。トヨタは単独での事業継続も検討したが、GMが抜けた穴は大きく、採算が取れないためについに、2009年8月28日NUMMIでの生産中止を発表した。工場のあるフリーモント市全体が不安に陥った。しかし、生産中止決定後も、翌年4月1日の生産中止実行まで、4700人に及ぶ従業員が最後の最後まで、プライドをもって高品質のクルマづくりを続けた。

この様子を見ていたテスラモーターズのイーロン・マスク社長とトヨタの豊田章男社長が話をつけて、テスラがNUMMIの工場(全てではないが)を引き継ぐことになった。また、テスラはトヨタからの出資も受けることになる。前置きが長くなったが、そこでつくられているのがモデルSというわけである。このモデルには、日本人、米国人のクルマづくり魂が宿っているのである。「設計品質」だけでなく、「製造品質」に優れているところにその魂が表れている。

◆心臓部は日本製部品

モデルSの中身を見てみるとEVの心臓部とも言えるバッテリーのセルは、パナソニック製だ。そのセルの素材としても住友金属鉱山のプラス電極材が使われているという。このセルは、PCなどにも使われている汎用型を改良したもので、これを組み合わせて、バッテリーパックをつくり、そのパックをキャビンスペースの底に敷き詰めバッテリーとしている。汎用のセルをベースしているため、EVコンポーネントコストが比較的低く押さえられているところが特徴といえる。フル充電後の走行距離は500kmを超えるので、「東京から京都まで走ってまだ電気は余った」と広報担当者は語ってくれた。

EVには、バッテリーコストの問題、充電時間の問題など解決しなければいけない問題も多いが、確実に進化している。テスラモーターズは、「2020年メガ・ファクトリー構想」というのも持っており、2020年にはテスラモーターズで50万台の生産を計画している。2017年までに現在のバッテリーコストを30%削減するという計画もある。

◆日産『リーフ』累計10万台突破

先ごろ「日産リーフ」が、グロール累計10万台販売を突破したと発表した。昨年訪問した北欧では大変な人気であったし、日本でも街で普通に見かけるようになった。リチウムイオンバッテリーを積み、いち早く市場に躍り出た三菱自動車も「i-MiEV」の他に軽商用車を市場導入するなど健闘している。これからが楽しみと言える。

そして、「イノベーション」というのは、技術のブレークスルーも大事であるが、むしろ技術の更なる躍進も含めた「普及の努力」がさらに重要であると思う。EVの歴史は、もう100年と長いが、現実には始まったばかり。これからの発展に大いに期待したい。

<土井正己 プロフィール>
クレアブ・ギャビン・アンダーソン副社長。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野、海外営業分野で活躍。2000年から2004年までチェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2010年のトヨタのグローバル品質問題や2011年の震災対応などいくつもの危機を対応。2014年より、グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサルティング・ファームであるクレアブ・ギャビン・アンダーソンで、政府や企業のコンサルタント業務に従事。

《土井 正己》

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