スペースX 防衛衛星打ち上げに意欲 3年で14機「可能」と明言

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公聴会に出席したスペースX社のイーロン・マスクCEO
  • 公聴会に出席したスペースX社のイーロン・マスクCEO
  • 公聴会に出席したULA社のマイケル・ガスCEO
  • EELVの調達コストを示す会計検査院の報告書より。2006年のULA発足後にコストが急増していると指摘。

2014年3月5日、米上院歳出委員会はアメリカの防衛衛星打ち上げプログラム『EELV』計画のロケット調達に関する公聴会を開催。スペースX社のイーロン・マスクCEOは、2015年から2017年まで同社のファルコン9ロケットによる14機の防衛衛星打ち上げを「可能」と明言した。

上院歳出委員会防衛小委員会では、アメリカの防衛衛星打ち上げを担う基幹ロケット「EELV(Evolved Expendable Launch Vehicle:改良型使い捨てロケット)」の競争的調達について公聴会が開催された。現在、EELV打ち上げを担うULA社のマイケル・ガスCEOと、スペースX社のイーロン・マスクCEOが出席。アメリカ国防総省のロケット調達基準を満たし、2015年から2017年まで、14機の防衛衛星打ち上げ業務を担えるかとの質問に対し、マスクCEOは「できる」と明言し、参入に意欲を見せた。

公聴会に先だって、米会計検査院(GAO)はEELV計画の調達コストについて報告書を発表している。EELV計画は1995年スタートし、「デルタ4」、「アトラス5」2種類のロケットを採用。軍事通信衛星や偵察衛星、米空軍が運用するGPS衛星などの打ち上げを担ってきた。2006年、デルタ4ロケットのボーイング、アトラス5ロケットのロッキードマーチンによる合弁企業「ULA(United Launch Alliance)」が発足し、両ロケットの運用を行っている。

GAOの報告書では、当初は参加企業の競争によりコスト削減を目指すとされたEELV計画は、ULAの発足から競争の排除により打ち上げコストが増大したと指摘している。コスト増加は166パーセントに達し、2030年までさらに700億ドル必要との推定があるという。2013年12月、国防総省とULAは5年間で35機のロケット本体および付帯する作業の調達で合意した。長期にわたりロケット調達を約束することで生産や人員の確保を安定させるかわりに、1機当たりの打ち上げコストを下げるねらいだ。GAOはさらに、新たに競争を導入することで打ち上げコストはさらに下がるとしている。さらに14機の打ち上げロケット調達を担える企業として、ファルコン9ロケットを運用し、NASAから国際宇宙ステーションへの補給船打ち上げを成功させているスペースX社を候補に挙げた。

公聴会でULAのマイケル・ガスCEOは、ULAの内部で2種類のロケットが競い合うことで競争は保たれていると反論し、2016年から始まるGPS衛星の2機同時打ち上げのような新技術導入により、コストは下げられると説明した。また、EELV計画で60機以上の打ち上げを成功させており、実績と信頼性があると強調した。

イーロン・マスクCEOは、現状のように打ち上げコストが増えつづければEELV計画を維持できなくなると強調し、2013年にULAが担った防衛衛星の打ち上げは1機あたり3億8000万ドルのコストがかかっているとした。それに対し、ファルコン9の打ち上げは1機あたり1億ドルに抑えられており、大幅なコスト削減になるという。また、ULAのアトラスVロケットの第1段「RD-180」エンジンがロシア製であるのに対し、ファルコン9ロケットはすべて米国内で開発、製造された「オール・アメリカン・プロダクト」だとした。

公聴会では終始激しいやりとりが交わされ、ガスCEOが「ファルコン9では、国防総省の要求水準を満たさない」と指摘。マスクCEOは「スペースXのロケットがNASAの要求する水準を満たしており、空軍の水準にも適合できる」と反論した。しかし、ジョージワシントン大学宇宙法研究所のスコット・ペース所長は「NASAと空軍の要求項目は異なる」と指摘。また、2012年10月のにファルコン9ロケットの打ち上げの際、サブペイロードの通信衛星が軌道投入に失敗した件を巡って、打ち上げ「成功」の定義について異なる見解が示される場面もあった。

スペースX社が防衛衛星打ち上げ調達に参入できるだけの信頼性を備えているかについては厳しい質問が寄せられたものの、競争の維持によってコスト削減が必要との認識は公聴会全体で共有されていたものと思われる。今後、実際にスペースXがEELV計画の競争的調達に参入してくる可能性はあるだろう。参入が実現した場合、スペースX社はNASAの国際宇宙ステーション補給業務とクルー輸送計画の準備、すでに受注した静止通信放送衛星などの商業衛星打ち上げに加え、3年で14機の防衛衛星打ち上げも担うことになる。強い責任を伴う打ち上げ計画をこれだけ抱えることになれば、何かが「後回し」になることも考えられる。イーロン・マスクCEOは火星探査と移住計画への強い関心と希望を日ごろから明言しており、民間火星移住計画「マーズ・ワン」計画では同社のファルコン9ヘビーロケットが候補として挙げられている。しかし、こうした構想へ積極的に参加することは、難しくなるのではないだろうか。

《秋山 文野》

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