ダイハツ タントが切り開いた「モアスペース」市場は“5強”時代へ…定番ジャンルに成長

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新型タントはセンターピラーをなくした「ミラクルオープンドア」を新採用
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『タント』が切り拓き、『パレット』が伸ばしたモアスペース市場

2月13日、日産自動車と三菱自動車はそれぞれ新型軽自動車『デイズ ルークス』『eKスペース』を発表した。このモデルにより、両社は軽自動車マーケットで急激に拡大する「モアスペース」(「スーパーハイトワゴン」とも呼ばれる)クラスへ本格的に参戦することになる。

モアスペースというジャンルを開拓したのは、言うまでもなく2003年に登場したダイハツの『タント』だ。全高1700mm超という背高パッケージを採用し、ホイールベースも長くとることで室内空間を最大限に大きく、なおかつ、ボンネットを持たせ商用1BOXバンとは異なる乗用テイストを前面に押し出したことで、子育てママやファミリーに絶大な人気を集めるジャンルだ。最近のモデルは、両側スライドドアが当たり前になっており、使い勝手を非常に高いレベルで競いあっている。また、充実した内容に応じて価格も軽自動車としては高額になり、自動車メーカーとしては、それだけ利益を確保しやすいクルマとも言える。

そんなモアスペースの始祖である『タント』が誕生した2000年代初頭の軽自動車市場は、スズキの『ワゴンR』とダイハツの『ムーヴ』という「ハイトワゴン」の2台がランキングトップを争い、そこにホンダの『ライフ』やダイハツの『ミラ』、スズキの『アルト』という背の低い「ロールーフ」が肉薄するという状況であった。しかし、『タント』はデビュー翌年の2004年には約9万台を販売し、販売ランキングでワゴンRやムーヴ、ライフ、ミラに続く5位の地位を確保。まったくの新ジャンルのクルマとしては大成功と言えるだろう。

タントの成功を横目に見ながらも、ライバルメーカーの動きは予想外に鈍かった。スズキがライバルとなる『パレット』(日産には『ルークス』としてOEM供給)を投入したのは、ようやく2008年になってから。翌2009年度の販売ランキングではタントは、ワゴンRとムーヴに続く3位に躍進。しかし、スズキが満を持して投入したパレットは、6位と伸び悩む結果に。しかも、その差は2010年になっても縮まらなかった。それどころか、タントはムーヴを抜いて、2010年度の販売ランキング2位にまで販売を伸ばしてきた。パレットは、モアスペース市場を独占してきたタントとともに、このカテゴリーをポピュラーなものにする役目を担ったかたちだ。

ちなみに、タントがデビューした翌年である2004年の軽乗用車市場における『タント』の販売シェアは、軽乗用販売のうち、わずかに4%ほど。しかし、2011年になると、タントとパレットの2台のモアスペースは市場の約12%を占めるほどに勢力を拡大していたのだ。

◆ホンダ『N-BOX』の突然の乱入で一気に競争が過熱

そんな『タント』がリードするモアスペース市場に、突然に乱入してきたのが2011年12月に発売されたホンダの『N-BOX』だ。

N-BOXは『フィット』のパッケージングを応用したセンタータンクレイアウトを採用し、エンジン・スペースもとことん小さくして、室内空間を大きく取った。また、新鮮なデザインや当時のライバルを研究し尽くした室内空間、そしてキビキビした走行性能も手伝って『N-BOX』は大ヒット。なんと2012年度の軽自動車販売ランキングで1位を獲得してしまったのだ。ちなみにランキング2位はワゴンRであったが、3位はミラ、4位にタント、5位にようやくムーヴ。モデルライフ末期のパレットは、なんと9位にまで落ち込んだ。しかし、N-BOX、タント、パレットの3台の合計の年間販売台数は約45万台に達し、軽乗用市場の約23%を占めるほどに拡大した。つまり、ホンダのN-BOXは、従来からのモアスペース市場をライバルから切り取ったのではなく、新規顧客を開拓したのだ。

この状況の中、スズキはパレットを2013年3月にフルモデルチェンジ。名称を『スペーシア』に一新させ、ライバルを追撃することに。スペーシアは、スズキグリーンテクノロジーであるアイドリングストップ機構と減速エネルギーを回生する「エネチャージ」を採用。最大29.0km/リットルという優れた燃費性能をひっさげて登場した。スペーシアは新車効果もあってか、2013年4~9月の販売ランキングでは、6位のタントを押さえて5位を実現した。

N-BOXやスペーシアという新型モデルに後れを取った『タント』だが、2013年10月のフルモデルチェンジで反撃を開始。両側スライドドアだけでなく、左側のスライドドアをセンターピラーレスとした「ミラクルオープンドア」を先代同様に採用。低速時の衝突被害軽減自動ブレーキを採用するなど、装備類も充実させることで商品力をアップ。その結果、2013年12月、翌2014年1月の販売ランキングでは1位を奪取してしまったのだ。

こうした新型タントの反撃に、ライバルであるN-BOXとスペーシアはいち早く対応していた。スペーシアは8月、N-BOXは12月に改良を実施して、両車とも低速時の衝突被害軽減自動ブレーキを採用。安全装備の面では互角の内容とした。それでも新型タントの進撃は止めることができなかった。

◆「スーパーハイトワゴン」はライバルがひしめく激戦区に

気がつけば、「モアスペース」は、タント、N-BOX、スペーシアという強豪だけでなく、日産/三菱のデイズ ルークス/eKスペースという新規参入までひしめく、大激戦区となった。しかも、4月には消費税アップが控えている。この2月と3月の販売現場は大変なことになるはずだ。

これまでの経緯を振り返るとモアスペースは車種が増えるたびに、軽マーケットにおける販売シェアを伸ばしてきた。この調子で日産/三菱の2車種が増えれば、モアスペースの軽乗用市場での販売シェアは30%を確実に突破するだろう。

広い室内に両側スライドドア、衝突被害軽減自動ブレーキ、充実した装備類を有する「スーパーハイトワゴン」。正直なところ、車両価格は130~180万円にもなり、決して安いわけではない。これは普通乗用車も購入できる価格帯だ。しかし、それでも維持費の低さや、取り回しの良さ、使い勝手の良さという点を高く評価し、モアスペースが良いというユーザーが増えているのだ。これからは、「子育てママのための特殊なモデル」というクルマではなく、より広い層に受け入れられる定番ジャンルとして、モアスペースが定着していくことは間違いない。

《鈴木ケンイチ》

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