【スズキ ハスラー 試乗】ネガをバリューに変える個性の持ち主…家村浩明 

試乗記 国産車
ハスラーXターボ4WD・2トーン仕様車
  • ハスラーXターボ4WD・2トーン仕様車
  • フォグランプをON状態で、リモコンでドアロックを開けるとハザードと共にフォグランプも点灯
  • スズキ ハスラー Xターボ 4WD
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  • スズキ ハスラー Xターボ 4WD
  • スズキ ハスラー Xターボ 4WD
  • スズキ ハスラー Xターボ 4WD

まずは、この時期にこのモデルというアイデアがいいと思う。そして、自社の歴史と“資産”も巧みに活かしている。いろんな意味でジャストミートな新型車、それがスズキの『ハスラー』だ。

ここでいう時期とは、いまの市場の志向が「クロスオーバー」であること。従来カテゴリーのままのバンやハッチバック、あるいは単なるオフローダーでは、現在のマーケットにはインパクトにならない。そして、何と何を“クロスさせる”かという場合、SUVテイストを含ませることは、おそらく最も有効なはず。

そして、メーカーの歴史や資産としてSUVを持っているかどうか、さらにそれを「軽」というジャンルに限定した場合、この問いにイエスと答えられるのはスズキ(と『ジムニー』)だけである。この新型車については、作り手側は、たったひと言で説明ができる、「ジムニー+『ワゴンR』というクロスオーバーです」と。これは、簡潔にして強力。さらに言えば、“ハスラー”は、かつてのオフロード・バイクのシリーズ名で、この言葉の響きだけで“土の匂い”を感じる人も少なくないと思う。

では、そんな“いまにビッタシ”のクルマに乗ってみる。走り出して、すぐ気づくのは、というより気になったのは、Aピラーの位置と形状。これまで多くの新型車に試乗するたびにAピラーが寝過ぎている!……と思っていたが、こうして、実際にAピラーが「立っている」クルマに乗ると、それはそれで非常に珍しい“景色”なのだ。これは、違和感といえば違和感で、このクルマは、それだけ見慣れない場所に「柱」がある。ただし、これは、自分のクルマとして一週間も乗っていれば、慣れてしまうことかもしれない。

もうひとつは、ワゴンRをベースにしたモデルと言いながらも、こと乗り心地では、とくに低速域で“あのしなやかさ”とは異なるフィールであること。今回の試乗会は、市街地走行が主であったため、とりわけ、乗り心地での一種の“硬さ”が気になったが、これも原因があって、それは大径タイヤの採用と不整地走行への対応というセッティングのため。つまり、クロスオーバーのもう一方、このモデルのいわば“ジムニー的な”部分が市街地走行では気になってしまった。

ただ、こうしてその“ネガ”を並べてみると、ピラーもタイヤも、どちらもハスラーを成り立たせるための重要要件でありそう。このモデルは、オフロードの走行も重視していて、4WDモデルには、急坂を下りる際にブレーキを踏まずに車速をコントロールする「ヒル・ディセント・コントロール」や、発進時にスリップしてしまった時、滑っている方の車輪をブレーキ制御して発進しやすくする「グリップ・コントロール」といった機構も装着され、タイヤもまたオフを意識したものが付いている。そう考えると、ここで述べたような特徴は、すべてハスラーの「個性」ともいえるだろう。このモデルを選択した人にとっては、これらはバリューではあっても、ネガとはならないのではないか。

全高はワゴンRと同じだが、ヒップポイント(地上からの前席座面の高さ)はワゴンRより24mmプラスの671mm。Aピラーが立っている分、室内におけるドライバーの頭上&前方空間には余裕が生まれ、広々感もたっぷり。フロントウィンドーも同時に運転者から遠くなるため、サンバイザーを使う際には、その位置の遠さが気になるが、これもAピラーの造型のせいでご愛敬か。

デザインも、「丸」と「高さ」をコンセプトに、細部では余計なことをしないというシンプル処理が徹底していて、よくまとまっている。リヤビューの“腰高感”もまさにこのモデルの主張で、なかなか巧みだ。こうなると、サイドミラーも、むしろ縦長感を盛り込んだカタチにした方がこのモデルには合うとも思ったが、これはいずれ用品ででもカバーされるのだろうか。

ともかく、明快な主張を持った、そして提案性も十分のモデルで、そうしたコンセプトだけでなく、デザイン的にもまとまりがいい新型車というのがハスラーである。愛嬌の割りには、ちょっとした不整地でも気にせず行けそう!というタフネスさも秘める。軽自動車というジャンルを、ある方向に向けて新展開したという意味でも高く評価したい。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★★

家村浩明|ライター&自動車ジャーナリスト
1947年、長崎生まれ。クルマは“時代を映す鏡”として興味深いというのが持論で、歴史や新型車、モータースポーツとその関心は広い。市販車では、近年の「パッケージング」の変化に大いに注目。日本メーカーが日常使用のための自動車について、そのカタチ、人とクルマの関わりや“接触面”を新しくして、世界に提案していると捉えている。
著書に『最速GT-R物語』『プリウスという夢』『ル・マンへ……』など。

《家村浩明》

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